車と衝突したとき、人はどこまで飛ばされるのか

車と衝突したとき、人はどこまで飛ばされるのかの計算式があるといいのになあと思っている方からの相談がありました。こちらでその計算式を紹介しておきます。それと、人が飛ばされた距離から車両の速度を推認するための計算式についても。

交通事故鑑定の依頼があるけど

当事務所に交通事故鑑定の相談をされる方がときどきおられるし、過去に3回工学鑑定をやってくれないかと依頼されたこともあります。が、「問い合わせ・苦情等」の欄でも書いているのですが、当事務所は交通事故鑑定の経験も知識もないことから、そんな調査はもとより相談もできないと告知しています。

そのような依頼があっても、そのつどお断りしてきました。ただ、私らにはそのような能力はありませんが、知り合いに交通事故鑑定をやって食べている方がいるので、そちらへの紹介でしたら・・・と、そこでは書いておきました(現在は紹介もやっていません)。

時速60㌔で追突されたら人はどこまで飛ばされるのか

つい先日も、Sさんという方からその種の相談を受けました。時速13㌔で農業用のトラクター(1300㌔)に乗っておられたところ、一般路で後方から時速60㌔で進行してきたらしい乗用車(1355㌔)に追突され、その勢いでトラクターの外に放り出されて、重度の脊髄損傷を負われた方でした。

トラクターから14、5メートル放り出されたとのことだったのですが、その距離の計算の仕方を教えてほしいということでした。

そんなむずかしいことを、私に質問されてもわかりませんよと、そのときはお返事しました。ただ、それだけだとあまりにも芸がありませんので、交通事故鑑定人の林洋氏「実用 自動車事故鑑定工学」という本に、歩行者がはねられた時の移動距離に関する記載がたしかあったなあと記憶していました。参考になるのかわからないが・・・と、そのことをSさんに告げました。

そしたら、ぜひ買って読んでみたいと言われるのです。古本でもすごく高いため、直接、林洋氏に尋ねてみたらどうでしょうか。在庫があるのかどうかは私にはわかりませんが、定価で買えるかもしれませんと私は答えました。

もしなんでしたら、そこのところの情報だけでも記事にしてご紹介してもいいとも答えましたし、メールにてその該当箇所を送ってさしあげました。

歩行者の転倒距離によって衝突車の衝突速度を推定できる場合がある

あれからもう10日はたったでしょう。以下は、林洋氏の著作(P190‐)からの引用です。
「実用 自動車事故鑑定工学」

歩行者の質量は自動車の質量の5%程度であり、ずっと小さいから、まともに衝突されると、歩行者は直ちにほとんど衝突した車の衝突速度まで加速され、自動車側の制動によりボンネット上からほぼ水平方向に放り出され、放物線を描いて路上に落下し、着地後は路面を滑走して、その摩擦仕事により減速し、最後に停止する(図1参照)。

【図1】

したがって、この関係から、歩行者の転倒距離によって衝突車の衝突速度を推定できる場合がある。

V:自動車の衝突速度[m/S]
m:歩行者の質量[㎏-S^2/m]
G:重量加速度[9.8m/S^2]
h:歩行者の飛び出し高さ(通常、ボンネット高+胴体半径)[m]
x:転倒距離[m]
x1:跳ね飛ばされ距離[m]
x2:路面滑走距離[m]
t:落下時間[S]
μ:人体の路面滑走の摩擦係数x1=Vt  h=1/2Gt^2tを消して、x1=V√2h/G1/2mV^2=mGμx2  x2=V^2/2Gμx=x1+x2=V√2h/G+V^2/2Gμ

 


V=√2G・μ(√h+x/μ-√h)

林氏の著作から引用しましたが、原文のほうも画像で示しておきます。

被害者の飛ばされた距離から車両の速度を推認するための計算式

林氏以外の著書でも「車と衝突したとき、人はどこまで飛ばされるのか」に関連した文章をみつけました。題して「被害者の飛翔距離から被疑車両の速度を推認するための実験式」です。「交通事故捜査と過失に認定」(互敦史)より。
「二訂版 基礎から分かる 交通事故捜査と過失の認定」

被害者の飛翔距離から被疑車両の速度を推認するとありますので、林氏とはちょうど逆の方向から見た計算式です。警察で使われている計算式なので覚えておくといいと思います。

被害者が大人の場合

V=√10X(m/s)

被害者が子供の場合

V=√7.5X(m/s)

例えば、大人の被害者が衝突地点から30メートル前方の地点に転倒していた場合、V=√10×30=17.3(m/s)となり、時速に換算すると約62㌔になります。

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