交通事故でお互いの事故状況が違っていたとき、裁判所はどのようにして解決するのか

事故調査における立証責任の使われ方

交通事故にあい、事故状況について双方の言い分が相違するとき、どのようにして解決するのだろうか。保険調査員としてはいつも頭を悩ませるところである。そのことに関してかつて記事を書いたこともある。そういう場合の調査の基本的視点としては、調査対象になっている事故が判例タイムズ過失相殺率の認定基準本にある事故類型のどれに該当するのか。そもそも該当するような事故なのかそれとも該当しない非典型事故なのかを最初に確認する。次に、仮に前者すなわち、過失相殺本に掲載されているような典型事故なら、そこに載っている基本過失割合を前提にして、あとは修正要素を決めていく作業に移る。この場合の修正要素の有無については、その修正要素が認められると得をするほうに立証責任を課す。そのようにして、各修正要素ごとにどちらに立証責任があるのかを踏まえたうえで、事故調査を実施していく。

というようなことをかつて書いたと思う。

裁判所は判例タイムズ38号「過失相殺率の認定基準」をどのように扱っているのか

今回は、裁判所がどのようにしてこの問題を解決しているのかについてご紹介したい。最近出版された「交通関係訴訟の実務」(P307―309)という本にそのことが詳しく書かれていた。たいへん参考になったので、以下にその箇所の全文をメモしておきたい。

一般論

特段の事情の立証がない限り、事故類型に対応する基本の過失相殺率を適用し、これを修正すべき諸事情は、それぞれが自己に有利に働く当事者において立証の必要性を負担するような様相を示す。(P307)

 
ここまでが原則論、一般論である。

一時停止規制のある交差点での出会い頭衝突事故を例にして

次に、具体例(一時停止規制のある交差点での出会い頭衝突事故)を提示して説明している。
 

一方に一時停止規制(被告車に一時停止規制があるとする)のある交差点での出会い頭事故の場合(判タ38号【104】図参照)、原告車に徐行義務違反があることが立証されると、判タ38号【104】図の「赤黄(原文はAB、以下は赤黄で表示)同程度の速度」の基本の過失相殺率が適用される。

 
【104】図
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なお、一時停止規制のある交差点において出会い頭事故があったことから、原告車に徐行義務違反があると推認することはできないので、被告は、原告車の過失を立証しなければ過失相殺率の認定基準の適用の基礎を欠くことになる。

 

また、一時停止規制車が減速したが、交差車両が減速していなかったことが認められると同【104】図の「赤減速せず、黄減速」の基本の過失相殺率が適用され、

 

交差車両が減速したが、一時停止規制車が減速していなかったことが認められると同【104】図の「赤減速、黄減速せず」の基本の過失相殺率が適用される。

 

さらに、一時停止規制車が一時停止をし、左右を見て交差道路に進行する車両の接近を認めたが、その速度と距離の判断を誤って、低速度で交差点に進入し、減速しなかった相手方車両と衝突したことが認められると同【104】図の「黄の一時停止後進入」の基本の過失相殺率が適用される。

 

そして、各当事者は、他方当事者の著しい過失・重過失として、例えば脇見運転により著しい前方不注視があったなどを立証して、認定されると修正要素による修正がされることとなる。

 
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