後遺障害認定上必要な画像検査とは

後遺障害認定に必要な画像はだいたい決まっています。自賠責調査事務所も、申請時の画像が多すぎにならないように、各損保にどの時期の、どういった画像が必要なのかを知らせています。

が、困ったことに事故被害者を代理する人にその知識がないことがあります。そのため、過度の画像撮影がされている現実があるようです。必要以上の画像検査撮影は被曝の問題もあるため、要注意です。

本記事では後遺障害認定に必要な画像とは何かを明示しました。

世は健康食品ブーム

テレビをつけると、朝から晩まで、健康食品のセールスをやっている番組でいっぱいです。健康食品ってよほど儲かるみたいだ。テレビなどの宣伝にうかされて世は健康ブームのようです。

日本人の健康でありたいという願望をうまく利用して、健康食品という名のいんちきまがい商品が大売れです。医学博士を出したり、あやしげな統計を出したり、健康食品を利用した客の絶賛の声を紹介したりして、いかに効能があるのかを宣伝している。

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私の父もテレビの宣伝を真に受けて、一時期この健康食品の一種である健康茶に凝っていました。ふつうの茶より倍ほども割高であるにもかかわらず、ふつうの茶ではダメだ、その健康茶でないとダメなのだと言ってききません。本人が健康にいいと思っているのだから、本当は効能がなくても、プラセボ効果くらいはあるだろうと思い、大目に見ていました。

MEMO
プラセボは別名偽薬ともいわれ、効き目ある成分が何も入っていない薬を服用して、患者さん自身が、自分が飲んでいる薬は効き目があると思い込むことで、病気の症状が改善すること

そのうち、全身にかゆみが生じだした。病院にいっても、かゆみが生じた原因がわかりません。しかし、健康茶が原因の可能性があります。それで、父に、健康茶の中にはかえって健康を害しているものもあること、父が愛用していた健康茶の評判があまり芳しくないことを告げて、やめてもらうことにしました。そしたら、それが原因かどうかしりませんが、もののみごとに全身のかゆみが消失した。

健康志向の強い日本人は医療被曝には無頓着

こんなに健康志向の強い日本人が多いため、愛煙家である私は、外出すると、タバコの吸える場所探しでたいへん困っています。最初のうちは、吸ってもいいですかと断わっていました。たいていはいいですよと言ってはくれるものの、吸わない人にとってみれば、吸うのが悪いと思うんだったら、吸うなよ、と内心思っているにちがいありません。そんなふうに思い返してからは、吸ってもいいですかが禁句になりました。

ところが、こんなに健康志向が強いはずの日本人が、こと医療被曝については無頓着というか、無関心な人が非常に多い。私は医療被曝が嫌で健康診断なるものをここ10数年ずぅっと拒否し続けてきました。会社にいるときは半ば強制だったので、ズル休みするなど何とか理由をつけて受けないか、どうしても理由がつけられないときは、あの白い検診車でのレントゲン撮影だけはごめんだったので、病院の、被曝量の少ないレントゲン検査を受けることにしていました。

社内の健康診断を強制しているのが労働基準監督署だったので、強制ではなく任意にしろと、担当官とやりあったこともあります。タバコはやめられないが、検査被曝は避けようと思えば避けられる。タバコも吸って検査被曝までさせられては、命がいくつあっても足りません。寿命が確実に縮むこと間違いなしです。

後遺障害認定上の被曝リスクを極力避けるために

さて、本題はここからです。

後遺障害の認定上、レントゲンなどの画像所見が重要視されていることは知られています。なぜそうなのかというと、画像で病変が可視化できるからです。中には不届き者がいるため、詐病排除を理由にしています。自覚ではなく、他覚的に確認できないものは後遺障害として認めないというのが自賠責実務なのです。

しかし、いつの画像が必要なのかをはっきり知らないために、念のためと思ってか過度に画像を撮影されて、より多く被曝させられている現実があるようです。ある整形外科医のサイトで知ったことですが、知り合いの弁護士から後遺障害申請に必要なのでということで、不足するよりも、多いほうがいいのだと聞かされ、必要以上に多く撮影しているという話でした。

まったくひどい話ですよね。これだと、必要以上に被曝させられていることになるわけですから。とりわけ危険なのがCTです。

後遺障害認定に必要な画像とは

後遺障害の認定上必要なのは、まずは初診時の画像です。事故との因果関係や骨傷があるかどうかなどの受傷の程度を判断するためです。それから、手術をした場合はその前後の画像が必要です。最後が症状固定時の画像です。

ほかの時点でも傷病により必要になることがあります。たとえば、圧迫骨折だと時間の経過により圧壊が進んでいることを証明しなければなりませんから、そのことが時間の経過とともにわかるようにするため、レントゲン画像が複数枚必要になります。

いつ、どういう画像が必要なのか

多いより、少ない方がいいに決まっている

ネットをみていると、画像検査の必要性を強調するあまり、少ないより多いほうがいいと思って、バンバン撮らせている専門家(?)がいるけれど、問題がありすぎです。

画像検査が必要以上に多いのは理由があります。ひとつは先に書いたように、後遺障害専門家(たとえば弁護士)の経験不足によるものです。もうひとつは医師のほうに画像検査を過度にやりたがる理由があります。その理由1。儲かるから。その理由2。訴訟リスクを少なくするため。医師側の理由については下記の本が大変参考になりました。


「賢く決めるリスク思考:ビジネス・投資から、恋愛・健康・買い物まで」(ゲルト・ギーゲレンツァー)

CTの被曝量は桁違い

とくにCTは危険極まりない。CT検査については、どうしても必要なとき、たとえば治療上どうしても必要というならともかく、それでもCTはMRIで代替できることが多いようです。メリットとデメリットを両てんびんにかけてほしい。

繰り返しますが、得る利益より失う不利益のほうが大きいかどうかを検討すべきです。すなわち、被ばくのほうがリスクが大きいと思われるときは検査すべきではありません。事故被害者を必要以上に被ばくさせないことです。

それで運よく後遺障害が獲得できたとしても、がんで寿命を短くさせたのでは、本末転倒です。近藤誠氏によれば、医療被曝の犠牲者は年間3万人を超えるそうです。対して、交通事故の死者は年間4000人ていどです。母集団の数が違うものの、決して無視できる数字ではありません。「日本は世界一の「医療被曝」大国 」(近藤誠著)

過度に被ばくさせられないようにするため

過度に被ばくさせられないようにするために、いつ、どういう画像が必要なのかを表にしました。表中にCTについても書きましたが、MRIで代用できることも多く、奨励しているわけではありません。

以下の表は、原則的なものです。いつ、どういう画像が必要なのかを、部位ごとに詳しく書いてみます。CTについては、よくよく検討された上でやってください。

整形外科関係
障害の内容X-PCT・MRI
頚椎捻挫・腰椎捻挫受傷時と症状固定時あるものは全部
脊椎骨折・脊髄損傷受傷時と症状固定時
術前後
あるものは全部
四肢、鎖骨、肋骨、肩甲骨、骨盤の骨折受傷時と症状固定時
術前後
肩腱板損傷受傷時と症状固定時
造影X-P
あるものは全部
靭帯損傷受傷時と症状固定時
ストレスX‐P
あるものは全部
脳神経外科関係
以下の時点の画像が必要になる
受傷時のX-P、CT、MRI
受傷から1Wの、すべてのCT、MRI
受傷から1か月後のCT・MRI
受傷から3か月後のCT・MRI
症状固定時 同上
術前・術後 同上

MEMO
異議申立事案については、前回認定時に添付した画像資料を再度添付し、さらに新たな画像資料があればそれらも添付します。

レントゲンで何がわかるのか

単純レントゲン検査は、一般的には骨折・脱臼を調べるために実施されます。しかも、レントゲンは2方向では少なくて(とはいっても、症状もないのに「念のため」とか言って、検査被曝させるのはどうかと思うが)、最低4方向の画像が必要だとも言われています。万全に期して6方向が必要だという医師もいます。骨折・脱臼以外に何がわかるのでしょうか。

専門教育を受けてもいない素人が後遺障害認定の際の画像読影を売り物にしていることがあります。が、私は反対ですね。そういう自信過剰の後遺障害専門家には気を付けたほうがよろしいですよ。下記記事参照。

後遺障害における画像診断

2方向である正面像と側面中間位像でわかること

【正面像でわかること】

●ルシュカ関節の経年性変化(関節面の骨硬化像や骨棘など)
●横突起の骨折

【側面(中間位)像でわかること】

●椎体の前方・後方骨棘形成
●椎間板腔狭小化
●頚椎間の不安定性(動揺性、緩み)
●骨粗鬆症
●椎間関節の関節裂隙の狭小化
●関節面の反応性骨硬化
●項中隔石灰化(骨化)
●後縦靭帯骨化、黄色靭帯骨化など。

さらに側面前屈・後屈像の2方向でわかること

●中間位ではわからなかった不安定性がわかる場合もある。
●前屈位で、隣接する頚椎の棘突起間の距離が増加していることにより、項靭帯の断裂がわかることもある。
●経時的に撮影することにより、頚椎可動域制限が改善したのかどうかもわかると
言われている。

左右両方向からの斜位像を加えた6方向でわかること

●椎間孔の確認
●まれに頚椎分離症がみつかることも。
神経根症状、脊髄症状があるときは、上記4方向のほかに、斜位(左)、斜位(右)の2方向を加えるべきとされる。

後遺障害認定でCT検査はなるべく避けたい

ネット情報の中には、

CT検査は、脊髄造影もしくは椎間板造影の後に行われ、神経組織の圧迫、ヘルニアなどを把握するのに役立ちます。

などと解説しているサイトもあるし、検査の明確な必要性もないのに、「念のため」とかで、CT検査を平気でパンパンやる医者も存在するようです(注)。年の一度の誕生日に理由もなく撮影する医師もいるとか。

それはともかく、CT検査は、神経組織の圧迫、ヘルニアなどを把握するのに役立つのでしょうか。まったく役に立たない。画像診断医がそのようにはっきり申しております。仮に100歩どころか1000歩譲って役立ったとしても、MRIのほうが精度がはるかに上だとのことです。被曝もしません。わざわざ精度の落ちる、大量に被曝させられるCT検査をやるメリットはまったくありません。

CT検査をバンバンやって平気な医師たち

yahooの掲示板にはこんな例がありました。

CTスキャンによる被爆について質問です、今回の原発事故で色々な放射線量が出ている中で、CTスキャンの放射線量が6万マイクロシーベルトとテレビで見ました、 サイトでは10~20ミリシーベルトと書いてありました、6万マイクロだと何ミリ?まっどっちにしろ凄い数値だと思いますが、

自分は去年ヘルニアの手術をしました、もちろんCTスキャンもとりましたが、年2回でもがんになる確率が高いと書いてあったのですが自分は去年だけでも、4月、8月、10月、12月、そして今月もCTスキャンを撮ります、一年間で5回もCTスキャンをやる事になります、プラスレントゲンを30枚程度撮っています、

大丈夫なんですかね?ヘルニアの手術脊髄固定術を6月と9月に2回やっているのでしかたないと言えばしかたないのですが、最近被爆の話が出てるなかなんか気になりまして、どなたか詳しい方教えて下さい。CTスキャンは定期検査や、途中経過、手術前などに撮っているので先生も承知の上です、同じかなり有名な病院のなかり有名な先生なので大丈夫だとは思うのですが、気になったのでよろしくお願いします。

それに対するベストアンサーがこれですよ。ただただ絶句するしかないですね。

腹部CTを撮影すると大体20mSvです。(胸部は7mSv)そして1年に1回20mSv浴びて、50年間毎年浴びると1000mSv。これで癌になる発生率が0.01%増えるだけです。(広島、長崎からの原爆の追跡データーからです。ちなみに放射線を携わる人の被曝線量は100mSv/5年はここから決められています。)

注意していただきたいのは、1回で1000mSvではなく、慢性的にあびて合計で1000mSvとという点です。質問者さんですと1年で合計100msVくらい。(レントゲン写真は微量ですので、30枚撮影してもCT1回分になるくらいです。

まず大丈夫です。癌になる発生率がおそらく変わらないと思います。(ちなみに人は必ず癌になります。生きてるうちに発症するかしないかです。)被曝すると、身体の影響ではじめにでてくるのはリンパ球の一時的減少です。これでもCTの被曝ではまずなりません。これでなっちゃうと、白血球の量が下がり抵抗力がなくなりますから、あり得ません。質問者さんの年5回も全然大丈夫です。

うまく文が書けなくて伝わりにくいと思いますが、影響は気にされるほどの量ではないです。安心してください。

CT検査による被曝量はハンパじゃない

CT検査をやることによるデメリットとは、CT検査はレントゲン検査と比較して大量に被曝をさせられることです。たった1回のCT検査でも将来ガンになりうることが証明されています(詳しくは近藤誠著「放射線被ばくCT検査でがんになる」を読んでいただきたい)。

こんなに恐ろしい検査を「念のため」とか「年に一回の誕生日だから」とかでやられたのではたまりません。さらに加えて問題なのは、「脊髄造影もしくは椎間板造影の後に行われ」としていることです。

造影剤使用の場合、繰り返し何回も検査が可能になるため、トータルのCT被曝量は大幅に増えます。1回でもすごいのに、それを何度も繰り返すのだから、私など生きた心地がしないですね。(この件については批判があるかもしれませんが、その前に前掲書を読んだ上でにしてください。yahooの掲示板の回答がいかにデタラメかもわかります)。

結論:MRIでだいたいは代用できる

CT検査にはメリットがなく、デメリットが多すぎる。そのように書いたからといって、CT検査を全面的に否定しているわけでない。役立つ場合もあるのでしょう。が、後遺障害認定上は、例外的があるのかもしれないが(たとえば偽関節だったか?)、CTではなく、MRIをやってもらうべきかと思います。

検査被曝に対し警鐘を鳴らす本の紹介

最近、イギリスで、この問題についての詳細な調査が行われたが、それによると、すべてのがんの約0.6~1.8パーセントにおいて、検査として行われたレントゲン照射が直接の原因になっていた。中でも大きなウエートを占めていたのがCT検査だった。(岡田正彦・「がん検診の大罪」)

低線量の放射線でも、人体に照射すると遺伝子を損傷して、現世代だけでなくそれ以降の数世代にわたって大きな影響を及ぼす恐れがある。X線は糖尿病、心臓病、脳卒中、高血圧、白内障といった、いずれも加齢に伴う病気の原因になる。

がんや血液の異常、中枢神経系の腫瘍の原因が放射線にあると指摘する研究はほかにもいくらでもある。病院や診療所、歯医者で受けた医療被曝が直接の死因だと見られる死亡者は、毎年4000人以上にものぼると推定されている。
(以上、ロバートメンデルソン「医者が患者をだますとき」)

受ける?受けない?エックス線CT検査 増補新版ー医療被ばくのリスク

上記本の書評もご参考に。

原子力資料情報室を設立した故高木仁三郎が立ち上げた市民のための科学の学校である高木学校の医療被ばく問題研究グループ の手になる医療被曝に関する手引書。旧版と比較すると一回り大きくなり、ページ数も増し、表紙もカラーになり、 随分読みやすくなっている。

2004年のLancet誌に載った医療被曝と発ガンの国際比較を行った研究で、日本の医療被曝とそれによる発ガンは ダントツの1位であるということから説き起こし、いかに日本の医療被曝に対する対策がおそまつであるかが解説されている (この論文に対する国内向け日本語批判は多数出されたものの、国際的な専門誌にきちんとした批判を出したものは皆無という事実 を挙げている。これも極めて日本的な対応)。

結局はわれわれ自身の身体はわれわれ自身で守るしかないというのが読後の感想である。ヒロシマ/ナガサキを 経験したこの国の国民がこれほど医療被曝の被害を受けているという事実は、専門家がいかにいい加減かという証拠なのか、 それとも国民の成熟度の問題なのか。考えさせられる。一家に一冊は常備したい本である。(き)

検査被曝の危険性についてはどれほど強調してもしたりないので、さらにもうひとつ、しつこいくらい引用したい。

原発問題が日本中を席巻している。日本中を恐怖に陥れているといっても過言ではない。テレビでは連日、放射能障害を報道している。その報道の中ではCT検査との比較を取り上げている。CTと比較すると原発による放射線など微々たるものだと解説している。逆にいうとCT検査は莫大な放射線量だということである。患者等も口々にCT検査の怖さを語っている。同時に胸のレントゲン写真の怖さを語っている。原発問題で医療被曝に関心をもつ人が増えてきたのである。一般の人が関心を持つようになったのに医師たちは一向に関心を持たない。こういう時節なのに、ある患者は近所の有名病院でお腹のCT検査を受けてきたと言ってきた。どこが悪いの? と聞いたら、どこも悪くない、糖尿病だけだという。糖尿病だけでCT検査はしないでしょうと尋ねると、誕生日の検査で1年に1回しているのだと言う。胸のレントゲンも撮ったという。

恥ずかしいことだが、これが日本の現状である。どこも悪くないのに気軽にCT撮影をする。一体この病院の医師はCTの被曝量を知っているのだろうか。たぶん知らないのである。CT1回の被曝が胸のレントゲン100倍~400倍の放射線量だということを知らないのである。知らないから気軽に指示するのである。被曝量を知っていてCTを指示する犯罪的な医師も決して少なくないのが現状である。医学的というより経済的に指示するのである。こうして日本は医療被曝世界1位の国になっている。それもだんとつの1位である。諸外国の3倍以上の医療被曝が国民に浴びせられている。胸のレントゲンも気楽に撮られている。各種の健診が存在し、若い人にも女性にも多くの胸部撮影が施行されている。それに対して医師は一向に危機感を持たない。危機感を持たないどころか多くの健診があることに快感を感じている。何年も前に英国オックスフォード大学が、医療機関での放射線検査による被曝が原因の発癌は日本が最高で、年間の全癌発症者の3.2%(7587例)を占めると発表したが、ほとんどの医師は無視している。無視した方が経営に有利だからである。無視という意思表示をしない医師たちは、そういう報告があることさえ知らない。知らないのは知らされていないからである。知らせない方が利益になる人たちが医療行政を担っているから意図的に知らせないのである。

有害な、放射線を発するレントゲン検査は必要最小限が原則のはずである。やむにやまれない、レントゲンしか診断方法がないときの最後の検査のはずである。それなのに、日本中でレントゲン撮影が気楽に安易に行われている。誕生日だから症状がなくてもCT検査をする医師、そしてそれを奨励する病院幹部。これはなにも内科だけのことではない。外科でも整形外科でも歯科でも、どの科でも行われているのが現実である。もちろん病院だけでなく、町の診療所でも同じである。ちょっと頭を打っただけの小児の頭のCTを指示する。小児に放射線を浴びせることになんら疑問を抱かず、医師は当然の医療行為だと信じている。近所には1か月に1回、骨のMD法を施行する医師もいる。訴えられると困るからと、誰彼と区別なく胸部CTを指示する医師もいる。

放射線の害を認識しないままレントゲンが撮られまくっている。国民に大量の放射線を浴びせることは健康保険財政を悪化させる大きな原因になっている。原発による放射線被曝を他人事と考えずに、医師は「医療被曝」という怖ろしいことを自分の手で産み出しているということを真摯に考えてみる必要がある。勉強不足で医療被曝を知らないのならば勉強しよう。経営主義でレントゲンを指示しているのなら勇気をもってやめよう。それだけで日本の健保財政・国家財政は大助かりである。無駄なレントゲンを撮らないと医師が決断すれば日本中のレントゲン撮影量は十分の一に激減するだろう。そして、その浮いた数千億円の国家財政を復興費にあてようではないか。これは、医師だからこそできる復興支援である。
(松本光正・内科医師)

PET検査の危ない話

今回の記事を書くためにネット検索していたら、PET検査について被ばく量はX-P1回分の、ごくわずかな被ばくだから安心してとか書いて奨励しているサイトを見つけました。

ジョーダンじゃないですよ。PET検査は単体でやるものではなくて、ふつうはCTと併用されます。被ばく量がわずかなわけがありません。がんの早期発見のためにPET検査を・・・などと宣伝しているサイトもありましたが、どう表現したらいいのやら。コアラの顔でも貼り付けるしかないですね。
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そもそも後遺障害認定にどれほど有効なのかという問題もありますし。

注意
【参考】PET-CTについて

FDG-PETがん検診ガイドライン(2012)によると、

30〜40歳以下では、がん早期発見による寿命延長よりも発癌による短縮の方が大きい。

「30〜40歳以下」という表現もいまいちわかりづらいが、基本的に40歳以下の人は受けるべきではないといわれています。

【16・12・23追記】
yahoo掲示板での悪質きわまりない回答で引用され、自説の根拠にしている「広島、長崎からの原爆の追跡データー」について、近藤誠氏が同著(P171-174)で詳しい解説をされているので、これだけでも追記しておきたい。

広島・長崎に原爆が投下されたのが1945年。生存被ばく者の継続調査が、1950年に始まりました。爆心から10キロ以内にいた8万6000余人を経過観察とし、全員が死亡するまで、調査を続ける予定です。各人の被ばく線量は、爆発時の爆心からの距離にもとづいて推定されている。

被ばく線量は、対象者の40パーセントが5ミリシーベルト未満で、60パーセントが5ミリシーベルト以上です。また対象者の2.4パーセントは、1シーベルト(1000ミリシーベルト)以上被ばくしています。

調査結果は論文でまとめられ、数年に1度の割合で公表されており、2003年に13回目の結果報告がありました。発がん死亡リスクは、白血病と、それ以外の「固形がん」とに分けて報告されています(固形がんは、肺がんや胃がんのように腫瘤を作る癌の総称)。

調査で比較的早くにわかったことは、2シーベルト以上といった高線量被ばくでは、白血病や(肺がん、乳がんなどの)固形がんの発生率が高くなることです。それらによる死亡率も、高くなったことが明らかでした(Radiat Res 1972;50:649)。

その後、白血病も固形がんも、200ミリシーベルト以上で、線量と死亡リスクの間に直線比例関係があることが明らかになった(Radiat Res 1990;121:120)。

このように、発がん死亡の増加が、最初は高い線量域で判明し、年月が経つにつれ、より低い線量域での増加が明らかになるのは、被ばくから発がん死亡まで何年も、何十年もかかることが原因(の1つ)です。

さらに調査を継続すると、固形がんでは50ミリシーベルト以上で、線量と死亡リスクの間に直線比例関係があることが示唆された(Radiat Res 1996;146:1)。CTなどの検査被ばくで50ミリシーベルトを超えることが多いので、意味するところは重大です。

この報告は1996年ですが、この時点ですでに、「100ミリシーベルト以下は安全」と語ることが許されなくなっていたわけです。

その後の、2003年の報告では、発がん死亡リスクに関し、さらに詳しいことがわかりました。50ミリシーベルト以下でも、発がん死亡リスクが増加することが示唆されたのです(Proc Natl Acad Sci 2003;100:13761)。

図1【被ばく線量と発がん死亡リスクの関係】
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上図が示すのは、各被ばく線量レベルと、発がん死亡リスクの関係です(Radiat Res 2003;160:381)。図中の黒丸は、30歳のときに被ばくした人が70歳になるまでの「過剰相対がん死亡リスク」(注)を種々の線量レベルごとに算出したものです。

黒丸の中には直線から離れているものがありますが、自然科学分野の調査結果では、この程度のバラツキはよくある。そして、線量とリスクとが直線(比例)関係にあると仮定して(その直線の)傾きを推定したのが図中の実線です。

原爆被ばく者調査では、がん発症率も調べています。ここまで解説してきたのは、発がんした上で(さらに)がんで死亡するリスクについてですが、被ばくによる発がんだけを問題にして、その率を調べた調査があるのです。

その結果、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでも、がん発症リスクが直線
的に上昇することが認められ、線量とがん発症リスクとの間には、統計上意味ある関係があるとされました(図2。Radiat Res 2000;154:178)。
図2【低線量被ばくとがん発症リスクの関係】
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発がんリスクに関しては「直線・しきい値なし」が事実ないし真実とされたわけです。この論文は、2000年に公表されていたことに注意してください。「100ミリシーベルトにしきい値がある」とか「100ミリシーベルト以下は安全だ」と言ってきた専門家は、少なくともこの時点からウソをついていたことになる。

【16・12・26追記】
必要な画像として、術後としていたが、術前後に変更した。

【16・12・28追記】
追加の記事「後遺障害申請に必要な画像・検査所見について再考」を書いた。後遺障害申請に必要な画像を部位別に詳しく書いたので、ぜひ確認を。

【17・1・02追記】
上記追加記事を本記事1本にまとめた。

【17・9・03】
「受ける?受けない?エックス線CT検査」の書評を加えた。

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