診断書と一口にいっても・・・
交通事故にかかわる代表的な診断書は5つある。時系列でいうと、
①警察提出用の「見込み診断書」
②初診からの「経過診断書」
③症状固定時の「後遺障害診断書」
④死亡診断書
―――である。
他に、傷害保険にかかわる「傷害保険用診断書」がある。今回は、そのうちの「経過診断書」について書いてみたい。
経過診断書の見方

(訂正)診断書の「受傷日」が27年11月25日になっているが、10月25日の間違い。
この経過診断書は、見てわかるように、最初に発行された診断書である。この診断書で何がわかり、何がわからないか。診断書に書いてある順に説明していこう。
ⅰ住所
ⅱ氏名
ⅲ性別
ⅳ生年月日
治療先の所在地との関係で重要だ。すなわち、傷病者の住所と医療機関の所在地が遠かったりしたら、それはどうしてだろうということになる。
1)事故発生地に近いためそこが選ばれた。
2)勤務場所に近いからそこが選ばれた。
3)専門医が近くになかったからそこが選ばれた。・・・
納得できる合理的な理由があるかどうかである。そういう理由もないのに、あえて遠方の病院に通っているなら、合理的でない理由があるのではないかと疑ってみる。
【合理的でない理由その一】
近くの行きつけの病院だと、保険会社に既往症・既存障害がばれてしまうため、あえて遠方を選んだ。
【合理的でない理由その二】
むち打ち症患者によくみられる、治療を長期間継続させてくれる医療機関だからそこを選んだ。
傷病によっては「性差」、すなわち男か女かが影響する場合がある。 骨粗鬆症など。
年齢は怪我の治り具合にかかわってくる重要な要素であり、老人だと、さらに既往症についても老化や生活環境の要素が加わって、素因減額の影響が大になるため重要である。
ⅰ傷病名
ⅱ治療開始日
ⅲ治癒もしくは治癒見込み日
まず傷病名がオオザッパだ。「頭部外傷」とあるが、ただのタンコブかもしれないし、重篤な「脳挫傷」や「クモ膜下出血」かもしれない。意識障害があったのかどうかもわからない。「外傷性頸部損傷」もきわめてアイマイな傷病名である。首に異常があることしかわからない。「下腿骨骨折」にしても、骨折した部位がケイ骨なのかヒ骨なのか、その両方ともなのかがわからない。さらに、骨端部なのか、骨幹部なのか。その高位(たとえば「中・下1/3部」など)はどこなのか。開放性か閉鎖性か。整復・固定が必要なのかどうか。そういうことがまったくわからない。
今回は関係ないが、傷病名にたとえば「変形性」とか「変性」「陳旧姓」とか書いてある診断書をよくみかける。その記載だけで生活習慣性起因のものとか、老化によるものとか、外傷であっても古いものだろうとかと判断されるし、「突発性」と書いてあると、「原因不明」ということになってしまう。そのため、事故と受傷との因果関係を証明する傷病名でないため事故との因果関係が否定されやすく、その方向で解釈されやすい。
逆に傷病名に「外傷性」と書いてあっても、それだけでは「外傷性」だと判断されず、本当に「外傷性」なのかと疑われる傷病名がいくつかある。たとえば「外傷性椎間板ヘルニア」がそうである。すなわち、傷病名に「外傷性」とついているからといって、それだけでは「外傷性枝」と断定できるわけではなく、したがって、事故との因果関係が肯定されるとは必ずしも言えないのだ。
すなわち、「変性」とか「陳旧姓」とか「突発性」などと書いてあると、それだけで外傷ではないと判断され、事故との因果関係が否定されるか、その方向で強く解釈される。それに対して、「外傷性」と書いてあっても、それだけで「外傷性」のものとは判断されない。
ただし、外傷とは思えない傷病名であったとしても、事故が原因で二次的というか合併症として発症した傷病の場合は、事故との因果関係が肯定される場合(例:変形性関節症など)がある。また、いわゆる「引き金論」によって、事故前に症状がなく、治療歴もない場合は、事故との因果関係を認める場合もある(例:椎間板ヘルニアなど)。また、保険病名の可能性がないわけではない(下記記事参照)。
損保査定は、今後の治療計画やおおよその示談日程を立てるために、
本件受傷が
①軽傷なのか重傷なのか
②どのような治療が必要になるのか
③リハビリは必要なのか
④退院時期はいつごろになるのか
⑤就労可能になるのはいつごろか
⑥後遺障害が残るのかどうか
こういったことをなるべく早く把握したいのである。
なお、当該診断書には「受傷部位」や「受傷状況」の記載がないが、前者については傷病名や次の項目である「症状の経過・治療の内容および今後の見通し」でわかることが多い。事故との因果関係の有無にかかわるため大変重要なので、初診時に主治医にしっかり説明しないとあとあと面倒なことが起こる。とくに軽微事故の場合のいわゆるむち打ち症にかかわって問題になりやすい。
また、長期治療の場合で、傷病名に変遷が見られる場合がある。医師への初診時の申告内容からは想像できない傷病名だったら、事故との因果関係が当然に疑われる。したがって、初診時の「受傷部位」や「受傷状況」、「自覚症状」ももれなく医師に申告しておきたい。
「治療開始日」は、次の項目にある「受傷日」との関係で問題になることがある。
ⅰ受傷日
ⅱ症状の経過
ⅲ治療の内容
ⅳ今後の見通し
ⅴ手術名および実施日
受傷日と治療開始日が違っている場合が問題になりうる。交通事故にあい怪我をすると、その日か翌日までに病院にいくのがふつうだ。週末に事故にあって、週明けに病院にいくこともあるが、それは、受傷日と治療開始日でわかることである。問題になるのが、症状が遅れて発現する場合である。代表的なものとしては頚椎捻挫があげられる。
遅れて発症する場合があるのはなぜか?
事故当日に症状を訴えていなかったが、後日症状の出現を申請してそれが長引いた場合に、その現象を医学的に説明できないために詐病として扱われることがある。しかし、患者は事故当時は興奮して症状の詳細に気がつかないで申請することも多く、医療現場では、初診時にいかに多くの症状を聞き出しておくかということも大切である。
一方で、実際にむち打ち損傷の場合、事故後数時間は症状が軽度で数時間して腫張などによって痛みや違和感が出現するといったこともあり、Burkeらが報告するように、集中力障害や目の調節力障害は事故後10日以降に発症することが多いなどをはじめとするdelayed onsetの報告があることも事実である。遅れて症状が発生する機序は不明である(P134-135)。
頸部痛は、むち打ち損傷後に発生する症状で一番多い症状である。GreenfieldらとDeansらは、むち打ち損傷後、救急外来で60%以上の患者が頸部痛を訴え、その後も6時間以内に65%、24時間以内に93%、72時間以内に100%の患者に出現すると述べ、Radanovは、慢性化したむち打ち患者の97%に頸部痛が存在すると報告している(P36)。
- 200ページ
- 丸善出版
- 2023/9/27
受傷から発症までの時間については、以下の研究がある。→「臨床整形外科」桐田ら。


受傷から発症までの期間が1週以内のものが93.2%であること、受傷直後よりも一夜あけてからの発症が多いことがわかる。なお、率がわかるだけで被検者数がどれくらいなのかは私の持っている資料からは不明である。したがって、説得力に欠ける(相対リスク減少と絶対リスク減少などについて知るには下記本参照)。
Evidence-based Medicine(EBM)を実践し, 臨床医学研究をデザインするにあたって、考え方の基本となる統計学の 原理から説きおこし,統計初心者の便宜を図った入門書
病気や健康に関する統計などのデータを読み取り、自分のリスクを客観的に理解する方法を伝授する。基本からはいってむずかしいことを平易にわかりやすく説明している。

上図は、頚椎捻挫の「損傷組織修復過程」を図示したものである。Y軸の時間軸がまとまりがないから注意されたし。頂上部からなだらかに漸減しながら下降していくというのが理想的というか典型的な修復過程なのだが、その「漸減度」が途中でおかしくなったり、その結果、ゴールになかなか到着しそうになさそうに思われたら、既往症や既存障害、治療に対する姿勢、医療過誤などが疑われる。
いわゆる高次脳機能障害にかかわる事項。
ここを、受診科にかかわる「既往症・既存障害」などと限定的に解釈する医師もいるので、注意を要する。また、「既往症 既存障害」について「なし」と書いてあっても、確認していないフトドキモノの医師がいる(けっこういるのだ)。したがって、本当は「不明」なのに該当欄がないため「なし」と書いている医師がいるから、「なし」となっていても念のため確認しておきたい。それと、「既往症・既存障害」は本人の自己申告に頼っていることも忘れてはならない。
入、通院期間は休業損害や慰謝料算定にかかわる事項である。
なお、入院適応については、
1)安静を要するため
2)重傷・重症のため医師による常時監視が必要なため
3)入院しないとできない治療(直達牽引や手術など)を実施するためである。
1)の安静を要するためというのは判断が微妙なばあいがありそうだけれど、上記3つのいずれにも該当しないと思われた時は、早期退院を促される可能性あり。
ⅰ固定期間
ⅱ固定具の種類
固定具は2種類に大別される。
1)自分で着脱可能な固定具
2)着脱不可能な固定具
入院期間と同視されるのは2)の「(自分で)着脱不可能な固定具の固定期間」である。ギプス固定は骨折部位の両側の関節までを固定するのが原則なので、身体の自由を奪われる。だから、入院と同視する。
関節は固定されると早いときは2週間ほどで拘縮が始まる。この場合は、可動域制限を防止するためのリハビリが実施される。目安は、開放性骨折(複雑骨折のこと。 1か所しか折れていなくても、皮膚などを破って露出していれば複雑骨折。「粉砕骨折」と区別してほしい。よく間違えている人がいる。)や関節内骨折の固定期間の2~3倍。閉鎖性骨折の固定期間の1~2倍がリハビリ期間になる。
以上から、固定具使用期間からリハビリ終了時期を予想し、症状固定時期もそこから予想する。
定期的に通院していたのが、その後、極端に通院日が離れていたり、最後の通院日がその前の通院日と離れている場合がある。そういう場合は、えてして診断書を書いてもらうためだけの通院だったりする。治療のための通院じゃないのだから、賠償額の減額要素になる。
傷病名との関係で専門性があるかどうか。
思いつくままに書いた。抜けがいろいろあるけれど、それらについては、いずれ追記するか別の記事で書きたいと思う。