目次
相続人・相続分・相続割合
交通事故で人が死亡したとき、死亡による損害賠償金が相手側より支払われる。その損害賠償金を請求できるのは相続人だけでなく、慰謝料については近親者も請求できる。以下に、相続と死亡慰謝料に関して表にまとめてみた。
相続分
相続分 | ||
---|---|---|
共同相続人 | 相続人 | 相続分 |
配偶者と子 | 配偶者 | 1/2 |
子 | 1/2 | |
配偶者と直系尊属 | 配偶者 | 2/3 |
親 | 1/3 | |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 | 3/4 |
兄弟姉妹 | 1/4 |
相続割合
相続割合 | ||
---|---|---|
共同相続人 | 相続人 | 相続割合 |
嫡出子と非嫡出子 | 嫡出子 | 1 |
非嫡出子 | 1 | |
全血兄弟姉妹と半血兄弟姉妹 | 全血兄弟姉妹 | 2 |
半血兄弟姉妹 | 1 |
相続に関する注意事項
*相続順位①直系卑属②直系尊属③兄弟姉妹、配偶者は常に相続人。
*配偶者がいないばあいは、原則均等割。
*代襲相続は、直系卑属制限なし。兄弟姉妹は一代かぎり。
*平成25年12月5日、民法の一部を改正する法律が成立し、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等になった。(同月11日公布・施行)
*養親と養子は、親子関係を人為的に創設したものだから、解消するばあいも人為的な手続きを要する。
自賠責死亡慰謝料
慰謝料
慰謝料(自賠責) | ||||
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内訳 | 請求できる人 | 請求権者数 | 被扶養者の有無 | 慰謝料額 |
死亡本人の慰謝料 | 相続人 | 350万円 | ||
遺族の慰謝料 | 被害者の父母、 配偶者(内縁も 含む)、 子(認知した子、 胎児も含む) | 1人 | なし | 550万円 |
あり | 750万円 | |||
2人 | なし | 650万円 | ||
あり | 850万円 | |||
3人以上 | なし | 750万円 | ||
あり | 950万円 |
自賠責認定上における遺族慰謝料の注意点
*遺族慰謝料請求権者が保有者もしくは加害者に該当する場合は、請求権者に含めない(複数保有者の場合はそうではない)。
損害額の算定方法
計算式:死亡による損害=「逸失利益」+「死亡本人慰謝料」+「遺族慰謝料」+「葬儀費」
遺族の一部を相手に示談等により一括払いを行なう事案 | ||
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事案の種類 | 積算の要件 | |
判決、訴訟上の和解、調停、示談に参加していない遺族の16条請求権が時効完成している場合 | 時効完成、訴訟告知の有無等から自賠責保険への請求・精算の可否を決定する | |
判決、訴訟上の和解、調停、示談に参加していない遺族の16条請求権が時効完成していない場合 | 自賠社に対して訴訟告知がある場合 | |
自賠社が訴訟当事者の一部の場合 | ||
自賠社に対して訴訟告知がない場合 | 一括社が不参加遺族に対する保護に欠けることがない対応を行なっていたかどうかを中心に、自賠責保険請求・精算の可否を決定する | |
調停、示談による支払いの場合 |
標準的な例。両親と子ども2人。交通事故で父親が死亡したとする。上記表より、配偶者に1/2、子ども2人に、残りの1/2を均等割する。子どもがいなければ父親の尊属親族が相続する。配偶者(このばあいは母親)は常に相続人なので、相続分は2/3、残りを尊属親族が均等割で相続する。
しかし、身寄りのない人など、ときにだれにその権利があるのかがすぐにははっきりしない場合がある。下記事例がそうだった。だれに権利があるのか、調べよという調査依頼だった。
実際にあった例
事故状況
平成16年某月某日、大雨。信号のある交差点で死亡事故が発生した。青信号で当交差点を左折した車が左折先の横断歩道を歩行者信号青で歩いていたAさんをはね死亡させたものである。当信号はいわゆる非分離信号だった。
一般道路は、同方向の人と車を青信号で一緒にながす。そのため、歩行者は、常に右左折車との交差をしいられ、運転者の注意力に身を委ねることになる。しかし、人間の注意力ほど不確実なものはない。当然の結果、人が車に見落とされ、一方的な事故が繰り返し発生している(以上が「非分離信号」)。「分離信号」とは、安全をそのような人間の注意力に頼るのではなく、歩行者横断中は車のながれを赤信号ですべて停止させる方式で、人と車を交差させない信号運用のことである。
(「子供の命を守る分離信号」という本より)
相続人等確定のための調査
さて、この事故により加害者から死亡賠償金が支払われることになった。Aさんは71歳の女性。配偶者も子供もいないと甥(丁)夫婦は私に説明した。それが事実なら、甥(丁)夫婦らが代襲相続により死亡賠償金を受け取ることになる。しかし、そのことが事実か、さらにほかに相続人がいないかどうかを確認するため、Aさんの戸籍簿を調べることにした。
調査結果
その結果、判明したことを、図示した。
事実はもう少し複雑なのだが、単純化した。図で書くとかんたんだけれど、この調査は、私にとって初めての相続人等の確認調査だったので、けっこう難儀した。
調査でわかったことを以下に列記する。
①Aさんの遺言書は見つからなかった。
②Aさんに配偶者、子どもなし。
③実両親は他界。
④Aさんが自然血族としての3人兄弟の3番目の次女だが、長兄、長女は亡くなっていた。
⑤上の2人の兄弟には子どもあり。
⑥Aさんが2歳の時、代諾による夫婦共同縁組を行っていた。
⑦養父は、Aさんが17歳の時つまり昭和23年に死亡。
⑧養母とは昭和35年、つまりAさんが29歳の時に協議離縁成立。
⑨養親には実子が1人(B)いて、現在も存命。
⑩Aさんに関する、平成16年5月1日付消除の実親を筆頭者とする除籍簿には養父の存在が明記されている。他方、養母との協議離縁を原因として実親の戸籍に復籍したとの記載が原戸籍にあり。
相続人はだれか
A案:丙、丁
B案:丙、丁、B
要は、養子先の実子Bが相続人かどうかということである。
「笑う相続人」あらわる
「笑う相続人」とは、死亡した被相続人と面識があるわけでもないのに、その人に遺産が突然転がり込んでくることをいい、その人はまるで宝くじにでも当たったかのように笑いがとまらない。そのことから「笑う相続人」というのだそうだ。
結論
Aは配偶者もなく、子どももなく、親はすでに亡くなっていた。相続人はAの兄弟姉妹の子どもである丙、丁が該当。
問題は、養子縁組先との法定血族関係が存続しているかどうかである。養母とは協議離縁が成立しているため養母との法定血族関係は切断されている。他方、養父とは養父が死亡しているだけで死後離縁の手続が終了していないため、養父を介しての法的血族関係は存続したままだ。その結果、養父母の実子Bは相続人に該当する。なお、相続分については養父母の実子Bは「半血」扱いになる。
まとめ
「笑う相続人」の出現である。実際にBさんにAさんのこと覚えていますかと聞いてみたが、子どものころ、そういえばそんな人がいたような・・・自分が相続人じゃ悪い気もしますが、せっかくだし、もらえるものはもらっておこうかと・・・。そのことを丁甥夫婦に伝えたところ、今頃になって相続人ヅラするのはおかしな話だ。辞退すべきですよということだった。
私に言わせるなら、丁さんだって、亡くなったAさんのことをたいして覚えていなかった。どっちもどっちだと思った。
こういうことは代襲相続にかかわって発生するようだ。日本の現行民法では傍系血族の再代襲相続を認めていないが、かつてはそれも認めていたため、「笑う相続人」の存在について甥姪のさらに子孫までさかのぼって調べ確定させる必要があった。