予想される後遺障害等級について教えて下さい。
バイクに乗っていて交通事故にあい、救急搬送され右脛骨高原骨折を受傷。経過は、2週間後にプレート固定術を実施。その後すぐにリハビリ開始。骨癒合は良好であり、受傷から1年後に抜釘術をして、症状固定となる。
現時点での残存症状としては、右膝関節の可動域制限と痛みです。右膝の屈曲は自動が110度、他動が120度。左膝のほうは屈曲自動・他動とも130度。伸展は右左とも自動・他動0度です。それと、長期間ギプス固定をした結果だと思うのですが、足関節もうまく可動せず、底屈40度・背屈20度です。受傷部位とは直接関係ない部位なので、これも後遺障害の対象になるのでしょうか。
後遺障害認定の要件
②残存症状に永続性の存在
③後遺障害の範囲・程度の確定
以上を、立証できることです。「事故被害者の立証責任」という記事でも書きましたが、「自賠法上、事故被害者は加害者(運転者)の故意・過失の立証責任からは解放され、それは運行供用者に転換されたけれども、「客観的要件」の立証責任はまだ残されている」。後遺障害に関して言うなら、事故被害者は上記3つの要件について立証しなければならなくなります(永続性についてはむち打ち損傷など例外がある)。さて、具体的にみていくことにしよう。
脛骨高原骨折とは?
脛骨高原骨折(別名:プラトー骨折あるいは脛骨顆部骨折、脛骨近位端骨折)は、「標準整形外科学」(医学書院発行)等の記載を参考にすると、
圧迫骨折による脛骨高原の沈みが5mm未満なら保存的治療、5mm以上なら観血術が選択され、整復する。関節面を整復すると、その下に骨欠損が生じるので腸骨から海綿骨、あるいは同種海綿骨ブロックを移植・充填する。関節周辺の骨折のうち、関節内に骨折線の及んでいるものは、いずれも膝関節拘縮を起こしやすい。正確に骨折面を整復しておかないと、将来、変形性関節症になりやすい・・・としている。
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運動機能障害について
医証等を確認した上での判断ではなく、文面からだけの判断なので、その点承知してください。相談文から検討を要するのは膝関節の運動機能障害と痛みによる局部の末梢神経障害です。
まずは右膝関節の運動機能障害の有無についてです。後遺障害に該当する運動機能障害があるかどうかは、患部の右膝の可動域の他動値と健康なほうの左膝の可動域の他動値を比較して決めます(AB表参照)。原則、主要運動同士の合計値を比較して、健康なほうの1/4以上の可動域制限がないと後遺障害に該当しません。本件の可動域の検査値をみるかぎり、患側の他動値が120に対して、健側の他動値が130なので、可動域制限が健側の1/4に達していないため後遺障害には該当しませんね。
あと、大切なことが抜けていた。関節の可動域制限がどうして生じるのかその原因が見当たらない。骨折の癒合はうまくいっているわけだし。
なお、「交通事故110番」の宮尾氏によれば、置換術後、可動域制限が1/2を超えるようなことはほとんどありえないとしている。
【A表】
下肢の関節機能障害等級表 | |||
---|---|---|---|
1級 | 両下肢全廃 | ||
5級 | 一下肢全廃 | 下肢の3大関節のすべてが強直したもの。
3大関節が強直したことにくわえ、足指全部 |
|
8級 | 一関節用廃 | 強直/完全弛緩性麻痺かそれに近いもlの | 置換術で可動域制限が1/2を超えるもの |
10級 | 一関節著しい機能障害 | 可動域1/2以下 | 置換術で可動域制限が1/2を超えない |
12級 | 一関節機能障害 | 可動域3/4以下 |
【B表】
受傷部位以外の部位について
次に足関節についてですが、これは事故による直接の受傷部位でないとしても、今回のような長期間ギプス固定したというような、治療上の必要性から避けがたい事情により発症した障害だというふうに評価されたなら、後遺障害の対象になりえます。一般論としてはそういえる。
今回は、相談文には健康なほうの左足関節の可動域が書いてないため不明ですが、参考可動域角度である底屈45度、背屈20度と比較しても大差がなく、可動域制限が後遺障害に該当するほどのものではないため、非該当です。
仮に後遺障害に該当するほどの運動機能障害があったばあいはどうでしょうか。今回は、親亀の「膝関節」の運動機能障害がこけてしまった(否定されている)ので、それに乗っかっている小亀の「足関節」の運動機能障害はどう評価されるのでしょうかということです。たぶん、小亀のほうもこけてしまう(否定される)と思いますが、どうでしょうか(追記あり)。
局部の神経症状について
次に、局部の神経症状による後遺障害である12級もしくは14級に該当するかどうかです(C表参照)。今回の事案は骨折事案なのですが、しかし、その骨折については骨癒合が良好であるため、残存する痛みの原因となる「器質的損傷」があるとは考えにくい。しかし、右膝に重篤な損傷が生じるほどの強い外力がかかったことは明らか(バイクの転倒事故による緊急搬送)なようなので、神経症状としての患部の痛みとの因果関係の証明はできないものの、推定は可能だと思います。したがって、後遺障害としては14級9号に該当するのではと思いました。
【C表】
末梢神経障害認定基準 | ||
---|---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 障害の存在が医学的に証明できるもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 障害の存在が医学的に説明可能なもの |
その他の合併症について
変形性膝関節症
脛骨高原骨折に続発して発症する変形性膝関節症について「弁護士の為の交通外傷・後遺障害教本」によると、
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変形性膝関節症が生じるか否かについては、脛骨高原骨折の受傷形分類(注:下図のHohlの分類を参照)とは基本的に相関しないとし、損傷された脛骨を手術によりどれだけ元の解剖学的位置に修復できるかによって予後が異なるとしています。すなわち、
治療目標は、
1 関節面の適合性
2 骨折部の固定性
3 靱帯の安定性
4 早期の可動域の獲得(0度~100度)
5 FTA大腿脛骨角(175度)の維持
です。
脛骨高原に段差ができた、半月板損傷を合併した、関節面に乱れが生じた等の要因があれば、変形性膝関節症の発症確率は高くなるとしています。そして、最悪の場合は、人工膝関節置換術が選択され、8級7号となるため、後遺障害の再認定が必要になる(このあたりは宮尾氏の見解とは違うようだ)。
【Hohlの分類】
腸骨採取後の骨盤変形
腸骨採取後の骨盤変形については、愁訴の有無にかかわらず12級とすることは過大評価だとして、後遺障害非該当にするとの動きがあったようですが、平成16年6月4日の労災障害認定基準の改正でも、従前同様の12級の扱いが維持されており、したがって、後遺障害12級に該当する。関節の運動機能障害が後遺障害に該当するなら併合し、1等級が上昇することになります(ただし、裁判所は腸骨採取後の骨盤骨折について、労働能力喪失性を否定して、その影響を除外し損害額を算定しているケースが目立つ点にも注意したい)。
半月板・靭帯損傷
合併症として知られるし、動揺関節という後遺障害が残存しやすいが、別記事扱いにしたい。ひとつだけ、関節の運動機能障害にかかわって一言すると、交通事故で脛骨高原骨折以外に半月板等を痛めていることがけっこうあります。しかし、多少の損傷だけでは可動域制限の原因として否定されることが多い。また、完全断裂したとしても、手術で縫合されてしまったら、これも可動域制限の原因から除外される。治ったんだから、後遺障害が残るはずがないと判断しているようです。いずれにしろ、別記事で詳しくとりあげたい。
CT検査の乱用について
病院では必ずレントゲン写真を撮ります。骨折を見つけるために、また骨折の状態を把握するために複数枚の写真を撮ります。 少し痛いかもしれませんが、頑張ってください。
さらにCT検査をすることが一般的です。 CTを撮ることで、より詳細に立体的に骨折部を理解することができます。 また骨折だけではなく関節内の軟骨や靱帯なども一緒にケガをしている場合があり、これはレントゲンやCTではわかりません。 そうするとMRI検査も必要となります。 レントゲンでは骨折線が見えない骨折(不顕性骨折といいます)もMRIではバッチリわかります。日本骨折治療学会HPより
脛骨高原骨折でネット検索したら、こういう記事をみつけました。「この部位の骨折は特殊な骨折であり、上手に治療できないと後遺障害を残すことも考えられます。ぜひ骨折治療経験の豊富な整形外科医に治療をしてもらって下さい。」と、たいへん有益な情報ももちろんあるのですが、CT検査をなんら抵抗なく実施されていることがわかるので、被曝量はハンパじゃない。それも1度だけでなく、何度も実施する医師がいる。医者というのはどうしてこうも鈍感なんだろうとよく思う。
私だったら、CT検査すると言われたら、たぶん拒否します。息子にCT検査をやると医師から言われて、ジョーダンじゃない。こんなていどのことでやるのかと言ったら、帰ってくれと言われるなど、かなりもめたことがそういえばかつてありました。蛇足になりますが、CT検査の問題点についてはこちらが参考になりました。
[amazonjs asin=”4750511137″ locale=”JP” title=”放射線被ばく CT検査でがんになる”](追記)
親亀・小亀のところの記載は、「思う」とあるように私の想像も入っているため、どなたかわかるようでしたら教えてください。いずれ、わかる人に確認したうえで、正確なところを追記したい。