損保による事故車査定は、どこまで正しく有効か

保険調査員とアジャスターの違いが分からない人が多いみたいです。どっちもごっちゃになっています。大きな違いは、前者は資格を要しませんが、後者は民間の資格が必要なことです。

それ以外の相違点をこの記事で明らかにするとともに、技術アジャスターの仕事のひとつである修理費などの見積もりに不満があった場合です。その点について記事にしました。

保険調査員とアジャスターの違い

「民事交通事故訴訟の実務Ⅱ」を読んでいたら、これ、ちょっとおかしくないだろうかという記載にぶつかりました。P336のところです。

技術アジャスターというのは、一般的な保険事故に関して損害車両の損害額、事故の原因及び損傷部位と事故との技術的因果関係の調査確認、並びにそれに付随する業務を行います。つまり、損害額だけを調査するわけではなくて、事故の原因あるいは損傷部位と事故との技術的因果関係の調査ということまで行うということになります。

やっぱり正しいとは必ずしもいえないですね。どこが正しいとはいえないのかというと、「事故の原因」を扱うというところです。これは、アジャスターの仕事というよりも、ふつうは保険調査員の仕事だからです。どうもそのあたりがオオザッパになっていて、誤解されそうです。

全国技術アジャスター協会からの情報に基づき書かれたようなので、そこのHPで確認してみました。

ううん。こっちが間違えている。「間違えている」というのは言いすぎですが、少なくとも、あまり正確な記載とはいえません。親切な書き方とはいえない。どうしてでしょうか。

アジャスターと保険調査員の役割分担について

私の手元に「新・物損処理のポイント」という本があります。その本のP17から始まる「高速道路の単独事故―― 塗膜の劣化と錆」という一文があります。

この中で、技術アジャスターと保険調査員が登場するのですが、その役割分担に注目してください。その役割分担がよくわかる事例です。

一昨日の10月18日午後5時頃、東北自動車道の矢板、宇都宮間で追越車に幅寄せをされ、そのためガード・レールに接触する事故を起こしたが、幸い自走できたのでW自動車整備工場に入庫させてあるとの事故通知が契約者からあった。警察へはこれから届けるという。契約確認の結果、事故発生の2週間前の10月5日付の異動承認請求によって車両契約が追加されている。

代理店への入金状況を確認したところ、追徴保険料は、間違いなく当日に入金されているので、その点はまず問題なしということで、技術アジャスターK氏が立会調査に向かった。

W自動車整備工場の車置場の奥に被保険車両が置いてあり、左側面が無残に、かきむしられたように破損している。破損の状態からみて、衝突の相手物がガード・レールであることは、ほぼ間違いないようだ。

高速道路での事故は、速度が出ているのでどうしても損害が大きくなるのは止むを得ないが、なんと、これは見事にこすったものだと感心しながら、見積りを始めたK氏は、ふと傷口に疑問を持った。傷口をよく見ると、どうも2~3日前の事故ではないように思えたからである。

まず傷口の錆の状態であるが、目立つほどの錆ではないが、指で軽くこすってみたら、指にも錆が付いてくるが、地肌に針の先で突いた程度の細かい腐蝕痕(錆のあばた)が残ったのである。

ガード・レールの継目などによってかきむしられたような粗い傷が、雨水に濡れたりするとパッと錆を生じたりする。しかし、それでも新しく生じた錆は、指先で軽く取れ、地肌には残らないものである。地肌に残るのは、ある程度、日数を経ているということが考えられる。

さらに、ひっかき傷によって浮き上がった部分の塗膜を指先で軽く押してみると、ポロリと欠けてしまった。これは、塗膜の硬化現象が進んでいるということであり、事故後、ある程度の日数経過があったと考えて間違いない。

これは問題だ。そこでK氏は、さらに念入りに破損状態を点検した。フロント・バンパー左端にかなり強い打痕と、すり抜け傷があるのと、それに前後のドアー、ピラー、リア・フェンダにかけての傷の深さから考え、相手物は、ガード・レールに間違いない。それに相手物のガード・レールにも、ある程度の損傷を生じている公算が大と思われる。

K氏は、整備工場との金額協定を保留し、以上のような損傷車両から得られた情報をまとめ、損害概算見積書と共に会社に報告した。技術アジャスターの報告によって、アフロスの可能性が出てきたので、調査員に事故発生日時の調査をさせることになった。

アフロスというのは、以前にも説明したことがありますが、事故日あるいは保険契約日(入金日)を偽ることです。この案件では、「事故発生の2週間前の10月5日付の異動承認請求によって車両契約」に加入していることになっています。

しかし、錆や塗膜の状態から、どうも車両保険加入前の事故だと疑われているわけです。すなわち、事故を起こして、対物保険しかないことから、あわてて車両保険に加入したのではないのかと疑われている。すなわち、事故日の偽装ですね。

アジャスターは物を調べる、保険調査員は人を調べる

先に紹介した一文のつづきです。

(保険調査員A氏は)まず、事故を起こした運転者でもある契約者に、再度事故発生場所と状況を詳しく聞き、現場確認をすることにした。高速道路のこととて、宇都宮――矢板間を走行しながら見ていたのでは、なかなか現場を見分けることはむずかしい。そこで、宇都宮インターにある道路公団の管理事務所へ立寄って、事故発生の事実確認の協力を求めることにした。

公団では、毎日定期的にパトロールをして、道路諸施設の管理をしているが、事故直後のパトロールであったり、車が動かないような事故の場合には、加害者から損害賠償を取ることができるが、自力走行ができる場合は、報告もしないで、そのまま逃げてしまう車が多くて困っているので、ご協力をお願いしたいと前置きされ、この1か月以内に上り線の矢板――宇都宮間の施設事故の記録を調べてくれた。ガード・レールの破損事故が3件あって、一番近いものは加害車がわかっており、残り2件は、いずれも10月3日の夕方以前となり、少なくとも、10月5日の車両追加契約後には、公団側の調査では、加害者不明の事故は発生していない。・・・

これらの調査事実に基づき、契約者と、この契約の取扱代理店でもあるW自動車を問い正していった結果、次にような事実が明らかになった。

すなわち、契約者は10月3日午後4時ごろ、東北自動車道を走行中居眠り運転でガード・レールに接触したが、幸い自力走行ができるので、そのままW自動車に搬入した。相当の修理費が必要であり、また、W自動車も高額の修理費を確実に回収するために、契約者と共謀し、車両契約の追加加入手続きをした上、車にカバーをして、保管し、2週間後に事故が発生したことにして保険金を不正に請求しようとしたものであった。

以上から、アジャスターは物を調べ、保険調査員は人を調べる役割分担があることがわかっていただけたかと思います。

人にかかわることが多い事故原因は保険調査員の仕事である

事故原因は――人・車・道路環境の3つに大別するのが一般です。ひとつは、ヒューマンエラーにかかわる「人」です。ひとつが、自動車の欠陥に由来する「車」です。そしてもうひとつが道路に由来する「道路環境」です。

この中で事故原因としてもっとも多いのは、ヒューマンエラーによる「人」です。現に、過失割合を判断する上での虎の巻である判例タイムズの過失相殺率基準本は、ヒューマンエラーである「人」しか考慮にいれません。

したがって、事故原因調査は、ほとんどが保険調査員の仕事ということになります。アジャスターが事故原因を調べるのは車から火が出たなど、技術的な原因にかかわるものです。

ということで、ふつうにある交通事故の事故当事者の過失割合に関する調査は、アジャスターはやらず、保険調査員がやると思ってください。

アジャスターのメインの仕事は事故車両の損害額の見積りである

技術アジャスターの仕事について、事故発生からどういうことをやるのか詳しく書いてみるとわかりやすいかと思います。

修理の場合

事故が発生すると事故車両の損害額の見積のために収容先である修理工場に向かいます。アジャスターの仕事というのは修理のための費用の見積もり以外に、以下の確認があります。

①保険会社に報告された車両と一致するかどうか。
②破損部位を確認。

追突という報告ならそこを中心に確認し、他に破損があるのかどうかの確認もします。本件事故との因果関係のある破損部位の特定のためです。中には、事故前の破損まで請求してくるのがいますからね。また、車両そのものを別の車に替えて請求してくる場合もあります。そういうのを排除するためです。

困ったことに、便乗修理とか過剰修理、替え玉修理ってあるんですよ。
便乗修理がみつかると、修理工場に確認を求め、費用の分離を行います。アジャスターは、破損部位とその位置関係、入力方向、キズのサビ具合などから調査します。

過剰修理がわかると、事故によって生じた破損の修理範囲と修理方法を決めます。修理範囲には損傷がどの範囲にまで及んでいるのかという車の構造部材までの波及範囲の問題ですね。修理方法は、たとえば全塗装が必要なのか部分塗装でいいのかのを決めることです。あるいは部品の取り換えが必要なのか、板金ですますことができるかということです。

③車の内部の確認

距離計のメーター数を読み取り、車検証の記載内容のチェックです。

全損の場合

修理の場合について書きましたが、全損なら事故車両の時価を見積りです。さらに、損傷部位と事故との技術的因果関係の調査がそれに加わる。

事故原因についての調査もありますが、それは車に関する技術的な事故原因調査です。人にかかわる事故原因調査は一般的には、保険調査員の仕事です。なお、保険調査員でも「損傷部位と事故との技術的因果関係の調査」があります。いわゆるモラル系の調査ではふつうにあることです。

以上は、理念的な区別です。保険調査員が技術アジャスターの仕事をすることもあるし、その逆もあります。あくまで相対的にみたらという区別です。

アジャスターの査定に関する判例

ところで、アジャスターの損害額の見積りはどこまで正しく有効なのでしょうか。アジャスターの損害額の見積りに納得できなくて裁判になった例があります。

以下にその判例をご紹介します。保険会社との示談の際の参考になるかと思います。

アジャスターの査定をほとんどそのまま認めた例

東京地裁 平成8年7月2日判決
詳細不明

 

アジャスター査定を補充的な理由としたもの

神戸地裁 平成3年6月12日判決
いくつかの判断の根拠を挙げた上で、原告保険会社所属のアジャスターが被害車の保冷庫部分を含めた価格を280万円と評価していることも1つの理由として挙げている。

 

アジャスター査定を採用しなかったもの

長崎地裁佐世保支部 昭和55年2月26日判決
被告の主張額47万5310円、査定額41万8900円
本件の見積と本件査定との間には、修理を必要とする箇所並びに修理に必要とされる部品及びその単価については、極端な相違はなく、ただ修理に要する時間について差異があり、本件見積は本件査定より作業時間を多く見積もっていること、アジャスターは一般的な基準に基づいて本件査定をしたこと、被告が被告車の修理に実際に要した費用は、本件見積をこえているが、これは修理の過程において新たに修理を必要とする箇所が発見されたからであって、右実際に要した修理費用に、本件事故に基づく損傷部分の修理と関係のない修理は全く含まれていないこと、と認定した上で、被告の主張する修理費用を採用し、「これに反する本件査定は採用できない」。

 

東京地裁 昭和56年7月23日判決
ベンツ中古車価格380万円以上?
被告の主張修理代金156万3756円、査定額100万円以下
購入価格が250万円であったこと、ヤナセで修理整備のために172万円余を費やしていること、ベンツは一般の乗用車と異なり、中古車であっても需要があれば高価で売買されることがある特殊な車両であることを認定し、「被告車両がかつて30万円で売買されたことがあり、また保険会社の技術アジャスターの査定した時価が100万円以下であったとしても、このことから直ちに・・・当該車両の修理費と時価とを比較して時価相当額をもって損害額と認め得る場合に該当するものということができない」。

 

東京高裁 昭和57年6月17日判決
昭和39年製造のベンツ(並行輸入)
修理費用156万3756円、アジャスター査定100万円。
アジャスター「が被控訴人に提示した100万円という金額は、前述のとおり、税法上の残存価額にかなりの重点を置き、また、被害車両より初登録の新しいベンツの市場価格事例を参考にし、かつ、被控訴人との頻繁な折衝の末に早期円満解決を期待して考えた金額であって、それをもって採算性合理性のある交換価格ということができるか疑問の余地がある」。

 

東京地裁 昭和60年10月30日判決
ダンプカー
アジャスター査定 200万円
昭和50年6月登録、購入時850万円であったが、事故時まで7年を経過し、法定償還年数を経過し帳簿価額がゼロとして税務処理が行われていること、財団法人日本自動車査定協会の査定長は右車両の昭和57年6月1日当時の価額は100万円程度であったと推断するのが相当である、レッカー車依頼費用が24万3000円かかっていることを考慮して、車両損害は124万3000円と認定した。

 

大阪地裁 平成6年9月20日判決
ベンツ
被害者主張額 714万2154円
アジャスター査定 383万6800円
裁判所認容額 476万円

 

名古屋高裁 平成23年7月14日判決
ランボルギーニ「ムルシェラゴ」初度登録日平成17年2月2700万円で購入(希少車)。
アジャスター見積金額1106万4659円(保険会社から支払い済み)
裁判所認定
当初の見積金額が482万円余であったが、その後ランボルギーニ社の正規代理店の見解ではそれと相違するなどとして増額交渉が行われた結果、1106万円余になった経緯を認定し、さらに「本件見積書は、かかる事故状況とも整合しないというべきである」とその内容に疑問を呈した上、「本件見積書は、本件事故による本件車両の損傷を修理するための費用を推認させるものではなく、また、本件車両の修理費用を的確に証する証拠は存在しない」と判示している。

 

(以上、上掲「民事交通事故訴訟の実務Ⅱ」P338-及び368-)から引用)

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