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被害者が加害者と直接交渉できないのかという相談
交通事故の相手方保険会社が「当方の契約者から一任されているので窓口はこちらでお願いします」と言えば、当事者間での話し合いは一切禁止されるのでしょうか?その法的根拠も教えてください。
保険会社が示談代行を行うには被害者の承諾が条件
保険会社に一任したからといって、当事者間での話し合いが一切禁じられるということにはなりません。保険約款でも、保険会社が示談代行を行うためには、被害者である相談者の承諾があることが条件になっています。したがって、相談者が示談代行を拒否すれば相手保険会社は被害者である相談者と示談交渉することはできません。
本人ではなく代理人(保険会社)を相手にして何か不都合でもあるのかというご意見もあるかもしれませんが、保険契約者と保険者は利益が相反し、保険契約者である加害者と相手被害者とが利益が一致する場合もないわけではありません。直接交渉が奏功した例です。
被害者が加害者に直接交渉したことが奏功したケース
たとえばこういう場合です。
事例は、運転者のミスで同乗者である友人が大怪我(片目失明)をしたケースです。運転者は自分の過失で友人に大怪我を負わせたわけなので、十分な補償をしてくれるものとばかり思っていたのですが、運転者加入の保険会社は悪徳弁護士に依頼して「スズメの涙金」で解決しようとしたひどいケースです。直接交渉がなければ、このケースはどうなっていたのかと思いますね。
事故被害者と事故加害者との示談交渉術。双方の利益が一致することに注意したい
代理契約で第三者まで拘束できない
法的根拠についてですが、代理人を選任したからといって、直接本人と話し合うことを禁ずる規定など存在しないからです。そもそも代理人選任の委任契約は契約当事者間の契約であり、契約を交わした相手と相手保険会社を拘束するけれども、契約当事者でもない第三者である相談者とは無関係です。
自分のあずかり知らないところで、勝手に契約しておいて、おい、それに従えはありませんよね。したがって、代理人を相手にしないで直接相手本人と交渉することは、法的にも障害はなく、もちろんぜんぜんかまわない。
常識の範囲内なら、脅迫・強要罪にならない
中には、あまり執拗に電話をかけたり、面談を求めたりすると脅迫とか強要罪に問われるなどという方もいますが、人の持ち物を壊したり怪我をさせたりした加害者に対して被害者が面談に応じるよう何度も電話をかけることに何の問題があるのでしょうか。
相手が不誠実な対応をしているため、何度も電話をかけざるをえないという場合もありますからね。
よくあるのが、保険会社に一任したことを理由に、加害者が被害者の問いかけを一切無視する場合です。社会常識の範囲内で被害者が加害者に電話をかけ、面談を求めることはまったく問題ありません。第一、民事不介入の原則から、その程度で警察が介入してこないだろうし、もし介入してくるようだったら、そちらのほうがよほど問題です。
相手が梃でも応じなかったら
ところが、相手がそれでも直接交渉を拒んだ場合、相手の身柄を拘束して直接交渉のテーブルにつかせることを強制できるか。
それはさすがにダメですね。そんなことは強制できない。強制はできないが、では、交渉のテーブルにつかないことを理由に損害賠償を請求できるかどうか。これについては判例があります。
示談交渉を保険会社任せにした加害者の不法行為責任について
結局は、相手があなたとの話し合いに一切応じない。梃でも動かないという強硬姿勢に出られたら、もうどうにもなりません。お手上げです。
交渉相手が弁護士だったらどうか
相手保険会社が選任した弁護士を相手にするしかないというのが実情です。ただし、示談段階で相手弁護士を相手にするかしないかはもちろん自由です。弁護士が代理人になった場合は、拒否できないみたいなことを当の弁護士がネットで書いている例もありますが、何言っているんだド素人じゃあるまいし、そのへんのチンピラなら言うまでもなく、たとえ弁護士だろうと、そんなことはぜんぜんありません。
チンピラだろうが弁護士だろうが、本人でないことを理由に相手にしたくなければしなくてよろしい。相手にするかしないかはあなたしだいです。ただ、相手にせず拒否しても、裁判に訴えられたばあいは弁護士を相手にせざるを得なくなります。その段階で無視していたら、裁判に負けてしまうからです。
示談は刑事裁判でも利用される
示談についてちょっと注意しておきたいことを書いておきます。死亡事故や重症事故ならとりわけそうなのですが、相手加害者の刑事責任の問題があります。
すなわち、加害者を減刑するための、被害者遺族や被害者に対する示談交渉です。もし示談できていると、相手の刑事責任が不問に付されたり、減刑もしくは執行猶予付きになるからです。
そこで、相手弁護士より示談交渉が始まる。被害者側がそれを拒否すると、次は、損害額確定の調停を申し入れしてくる。「被害者側は加害者の誠意ある交渉に応じないので、やむをえず調停を申し入れした」という理由に使うためです。
その調停をも拒否すると、裁判の場で、調停という話し合いにも応じなかったとされ、裁判官の心証を悪くするために利用される。弁護士との示談交渉にはこういう使われた方もありえるので、頭の隅っこくらいにいれておいたほうがいいと思います。
【17・02・04追記】
事故当事者の双方が弁護士を依頼している場合は、弁護士同士で交渉することに限定されます。すなわち、弁護士が相手側事故当事者に直接交渉するのはダメで、相手弁護士を通す決まりがあるようです。弁護士法だったかと思います。
追記2024・3・25