作業中に交通事故にあったら、過失割合はどうなるのか

非典型事故としての作業中の事故

作業中に交通事故に遭い、被害者が死傷する例はかなりある。ぼくも何件どころか何十件と扱ったかしれないが、今すぐにはその一部しか思い出せない。この文章を書いていて思い出すこともあるかもしれないから、そのときはご紹介してゆきたい。

思い出せた作業中の事故のひとつに、たとえばこういうのがあった。公道で大型観光バスがバックをするため誘導員がバス後方で指示していたときに、バック中にバスに轢かれ誘導員が足を骨折する事故があった。判例タイムズの過失相殺率基準本には、一般の歩行者の例は載せてあるけれども、この例のような作業中の事故の例は載せていない。この場合、普通の歩行者と比較して過失割合はどうなるのだろうか。作業中であったことが何か影響するのだろうか。

判例タイムズ過失相殺率基準本では


 

 
となっている。

「直後横断の場合」とは、道交法13条1項「歩行者は、車両等の直前又は直後で道路を横断してはならない」という規定に反して、何ら注意することなく、後退車の直後を横断した場合のことで、後退車の「ごく直近」をいう。過失相殺率基準本では、上表にあるように「直後横断の場合」と「そうでない場合」とに分けている。

「寄与度と非典型過失相殺」という本では、作業中の事故を3つに類型化している。

①加害車両進行方向後方で作業等がなされていて、事故が起こった場合
②加害車両が前進して事故が起こった場合
③その他、共同作業中に事故が起こった場合

 
である。


 
以下、類型ごとに順を追って裁判例をご紹介したい。

後退車と作業者との衝突事故裁判例

大阪地裁 昭和60年4月30日判決
ゴミ収集車の運転者が停車中の車を後方の作業員のところまで移動させようとして車を後退させ、折から車の後部にゴミを直接投棄していた老女に車の後部を衝突させ死亡させた事故。車の運転者に後方の安全を十分確認せず、また助手に車の後方の安全も誘導もさせずに後退させた過失を認めた。エンジンを作動させた状態の同車の動静に注意を怠った老女に15%の過失相殺を認めた。

 

横浜地裁 平成2年1月30日判決
道路工事現場において作業員Aが作業を中止したものと考えブルドーザーの後方1.5mに立ち入ったところ、バックしてきたブルドーザー(B運転)に轢かれた事故。Bの後方確認不足が直接の原因だが、Aにもブルドーザーがバックしてくることを予想できたし、予想すべきであったとして、25%の過失相殺を認めた。

前進車と作業者との衝突事故に関する裁判例

名古屋地裁 平成2年10月31日判決
Aが大型トラックの運転席横のハシゴを降りる途中、同車両の横に停止していたB運転の大型トラックが発進し、積雪でスリップしたこともあって、Aが自車運転席と加害車の荷台との間に挟まれた事故。Bには、発進の際に左側方の安全確認を怠り、車両との衝突を防止すべき義務があったにもかかわらず、適切な運転操作を行わなかった過失がある。他方、Aには、Bがすぐにも発進することが予想される状況下で、わずか70~80センチしか間隔のあいていない隙間に自己の身体を乗り出し、運転席横のハシゴに右足をかけ荷台に左足をかけて両手でつかまって静止していたのであるから、事故の発生という結果回避に対する注意不十分の過失がある。ゆえに、Aに20%の過失相殺を認めた。

共同作業中その他の事故に関する裁判例

鳥取地裁 昭和51年5月31日判決
大型ミキサー車の運転者が、同車後部車体上面(セメントタンクの上面)で作業中の被害者を乗せたまま発進したため、車体の動揺により被害者が身体の安全を失って転落死亡した事故。同車のセメント投入口の枠につかまる等して安全を確保する措置をとらなかった被害者に50%の過失相殺を認めた。

 

東京地裁 昭和53年12月26日判決
一方通行の2車線道路左側車線上にダンプカーを停止させ、その手前で路面沈下盤埋め戻し作業をしていた現場監督者(被害者)に、先行車を追越するため右側車線から左側車線に進入してきた加害車が衝突した事故。誘導員の配置・バリケードその他の予告標識の設置を怠った被害者に20%の過失相殺を認めた。

【順次追記予定】

まとめ

 

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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