新車賠償の提案

(納車して1時間後の事故で、不当利得があるというけど、いったいどんな不当利得があるというのだろうか)

新車賠償について

(相談)

新車を納車して1時間後に事故にあいました。相手側の100%の過失によるもので、車は全損です。新車で返してほしいと要求したのですが、新車賠償は認められないと相手保険会社から言われました。判例もあるとのことですが、どうしても納得がいきません。

ネット検索でみつかった新車賠償を認めた判例

「新車賠償」を認めた判例があるのかどうか、ネット検索してみた。ヒットしたのは以下のふたつ。

裁判所の基本的な考え方は、「購入後3ヶ月以内・走行3000km以内で車両の主たる構造装置に致命的な損傷を受けた場合に限って新車賠償を認める!」 こんな厳しい意見です。そして、新車賠償を認めた判決がありません。

 
これは交通事故110番のサイトからの引用である。まったく同じ記述を他にもいくつかみつかったが、その中には弁護士の(紹介)サイトも含まれていた。

「購入後3ヶ月以内・走行3000km以内で車両の主たる構造装置に致命的な損傷を受けた場合」となっているが、この記述にどこか見覚えがある。既視感があるのだ。これって、評価損の要件じゃないの。新車賠償の要件ではないはずだ。それにしても、事故110番の間違った記述をそのままパクってそのおかしさに気づかないのはどうなんだろう。

さらに、もうひとつ。

過去には新車価格がそのまま認められた例もあります。きちんとした基準は無いので、実例をあげます。

新車登録後8日間209キロ走行での交通事故で新車価格を認めたもの(京都地裁昭和50年6月17日)

登録後6日で屋根が全体的に後ろにずれて、修理しても走行に支障をきたすとされ買い替えを認めたもの(最高裁昭和49年4月15日)

これは、「車に重大な損害が認められる場合に、買換えを認めるという基準ができたか?」といわれた判例です。しかし、納車20分後に交通事故にあい、重大な損害を受けた場合でも、買換えを否定した東京地裁判例もあり、判断の難しいところではあります。

 
こちらは裏戦略とかを売りにしている行政書士さんのサイトのものである。新車賠償を認めた判例がふたつ存在するらしい。

最高裁(昭和49年4月15日判決)

さて、先の質問に戻ろう。納車して1時間後の事故なら新車も同然。なので、せいぜい1時間分クルマを使ったということで、1時間分のレンタル代金相当の利得があるから新車価格からその分を控除せよというのならまだわかる。ところが、買ったばかりなのにもう中古車なんだと言われてもぼくだって納得いかない。だれだってそうだろう。

ただし、裁判所が新車賠償を認めていないのは本当である。最高裁(昭和49年4月15日判決)の有名な判例があるからだ。寄しくも、先の行政書士さんと同じ日付けの最高裁判例だが、こちらの事例は、購入して3か月半後の事故であるから、先の行政書士さんの紹介する最高裁判例とは明らかに違う。

ぼくが引用したほうの最高裁の結論を書くと、

①全損のときはクルマを買い替えることができる。
②分損のときは修理できるから、修理費が損害である。
③全損には物理的全損と経済的全損がある。
④全損のときの損害額は、事故に遭う前の時価であり、それは中古車市場で買うときの価格である。

 
ということで、クルマの新車賠償を認めたものではない。

というか、そもそもの訴えの内容に新車賠償の要求そのものがなかった。詳しく書くと、原告は新車買い替えを要求して提訴したが、新車購入価格を要求したものでなく、新車購入価格から3か月半の使用期間に対して減価償却した金額を基礎に、下取価格との差額を要求したものだった。

全損と分損

ところで、ここで言う全損と分損について説明する。クルマが壊れると全損と分損の2大別に分類される。このうちの全損というのは、

物理的全損

ⅰ事故当時の修理技術のレベルから修理不可能な程度に損傷した場合
ⅱ千尋の谷に転落したり、海中に沈んだりして引き上げることができない場合

 

経済的全損

ⅰ技術的には修理できるが、修理費用が事故前の車両時価を上回る場合
ⅱ技術的には修理できるが、修理費用と修理後に予想される評価損の合計額が事故前の車両時価を上回る場合
ⅲ谷底に転落したり、水中に没した車両を引き揚げることは可能だが、引揚費用とその後の修理費用の合計額が事故前の車両時価を上回る場合

 
――― いずれの場合も、修理するよりも、同種・同等の車両を市場で購入した方が経済的・合理的だからというリクツである。

以上の内容を「裁判例、学説にみる交通事故 物的損害 全損第2集1」(海道野守著)から引っ張り出してご紹介した。
kaikaehiyou

新車賠償を認めると不当利得になるのだろうか

ところで、どうして新車賠償を認めないのだろうか。

損害賠償制度で被害者に利得させないという大原則があるからである。事故の結果儲けたということになると不法行為を誘発しかねず、事故で儲けてやろうとする連中に法律上の後押しをすることになる。これはやっぱりまずい。繰り返すが、これが大原則である。

では、今回のケースでそのことを考えてみると、新車を納車して1時間後の事故ということで新車賠償を認めず、中古車扱いになって時価賠償ということになる。その時価賠償についてだが、新車を購入してナンバーを付けるだけで10%とか15%とかの価格低下を招く。いわゆるナンバー落ちというやつだが、これはおかしくないかというのが相談者の考えである。ぼくもまったく同意する。おかしい。ナンバープレートをつけただけでどうして10%とか15%とかの価格低下を招くのか。理屈にぜんぜんあわない。

理屈にあわないのは、今回のケースで新車賠償をしても、損害賠償制度の大原則である不当な利得をさせないという趣旨に抵触するとは思えないからである。たとえば、200万円の新車を購入しナンバーをつけたとたん車両価格が170万円~180万円になってしまう。その直後事故にあうと、170万円~180万円の損害賠償しか認められない。購入価格との差額である20万円~30万円を被害者が利得することになるということらしいが、どこにそんな利得があるといえるのか。本件についていえば、同タイプの車両の1時間分のレンタル代程度の利得くらいしかないだろう。ネット上には保険金詐欺を誘発しかねないともあったが、購入したばかりの車を購入時の価格で賠償してもらうことでどれだけの利得があるのだろうか。こんなので、保険金詐欺をたくらむなんてあまりにばからしくてありえんだろう。

新車賠償を認めた「らしい」判例

裁判所の大勢は以上のように新車賠償を認めていないが、ただし、例外的に新車賠償を認めた判例があるらしいことは先に引用したとおりである。どういう場合に新車賠償が認められたのだろうか。そのあたりの記述がなかったので、紹介されていた判例に直接あたってみることにした。

京都地裁 昭和50年6月17日判決

事件番号 昭和49年(ワ)第610号
<出典> 自保ジャーナル・判例レポート第7号-No,9

【判決要旨】
初度登録後9日目に事故にあつた被害車につき、修理完了後引渡しを受けた他に37万5300円の格落ちが認められた事例。物損 49万4446円請求(新車購入後9日目の事故につき、新車を交付する約束が破られ、修理して居(ママ)けられたが、その際の査定価額が59万5000円につき、新車購入の際支出した費用との差額を請求)

 
どうしてこれが新車賠償を認めたことになるのだろう。新車購入費用と修理後の査定価額の差額(49万4446円)を請求したものの、それは認められず、代わりに評価損(37万5300円)を認めたものである。そのようにしか読めないけれど。

もうひとつの、新車賠償を認めたとされる最高裁判決を判例集や海道野守さんの著作で調べてみたが、こちらは見つからなかった。ネットでも検索してみたが、ぼくが紹介したほうの最高裁判決はすぐにみつかるのだが、もうひとつの最高裁判決は、探し方が悪いのかしらんが、みつからなかった。

以上、ネット情報はまったくあてにならない。

新車賠償を認めた判例

新車賠償を認めた判例がほかにないか調べてみたら、「交通事故訴訟」(P468・民事研究会)に「新品の価格または購入時の価格そのものの賠償を認めるもの」として札幌高裁昭和60年2月13日判決が紹介されていた。


 

札幌高裁 昭和60年2月13日判決
【判決要旨】
新車購入6日後に事故に遭い全損となり車両買い替えが余儀なくされた事案で、新車価格179万円に、自動車取得税や自賠責保険料など諸費用19万円余を加算した額198万円から下取り価格の75万円を差引いた123万円余を損害と認めた。
事件番号 昭和59年(ネ)第13号 損害賠償請求控訴事件
(原審) 釧路地裁帯広支部 昭和58年12月23日判決
事件番号 昭和58年(ワ)第48号
<出典> 交民集18巻1号27頁

 
新車賠償を認めたこれが唯一の例外だろう。(他に示談の効力の結果として新車賠償を認めた判例(いわゆる念書型)がふたつあるが、これは次元の違う話なのでここでは触れない)

以上から、新車賠償を裁判所で争うことは対費用効果ということで強くはお勧めしない。しかし、新車も同然のものについてまで不当利得になるというのはあんまりの話だ。新車賠償を否定するのはどう考えてもおかしい。したがって、新車賠償の判断基準を求めることは社会的意義が十分ある。どなたか挑戦してみたらどうだろうか。これはあまのじゃくのぼくだけが言っているわけでなくて、海道野守さんの持論である。

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交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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