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過失があると、代車費用も買替諸費用も評価損も休車損も認めたがらないわけ

不払い問題で揺れた2006年の損保業界

2006年、損保はいわゆる不払い問題で大揺れに揺れました。翌年、不払いと指摘されないために、損害項目の中で改善されたのが代車費用の支払いに関するものでした。

従来は、被害者が過失ゼロの場合でなければ代車費用は支払わないという暗黙の取り決めがありました。しかし、被害者に過失があるとどうして支払わなくていいのか。過失分について過失相殺されるにしても、代車費用を一切認めないというのはスジが通らない話です。

そのため、同年、各社(全社かどうか私は知らない)はほぼ足並みをそろえて以下のような改善を行いました。

過失案件であっても、必要に応じて損害額に含めるようにすること

損保の代車費用支払い基準の「必要に応じて」とは

それでは、過失割合に応じて支払うことになったのでしょうか。

いや、そうはならなかったのです。「必要に応じて」というのが実はクセモノで、以下のような支払いの取り決めを作ったようです(注1)。

(注1)「ようです」としたのは、ネットで損保示談担当者の方のサイトから入手した情報だったのですが、実名ではなく匿名サイトだったため、そういう表現にしました。女性が主催し、多くの示談担当者(女性が多かった)でにぎわっていました。

この記事を書いた後、部外者は入れないようになっていました。現在もあるのか知りませんが、賠償実務の実態・ホンネがきけてたいへん参考になるサイトでしたね。

すなわち、過失割合が生じる事故であっても代車料を認めるのは、

①修理期間中あるいは買替期間中に、修理・買替相当日数 レンタカーを借りて

 

かつ

 

②本人がレンタカー代を立替払いした場合にかぎる。

両方の条件を満たさないかぎり代車料は支払わない。

おカネを立替払いできるお金持ちだけが得する改善策

おい・おい・おーい。こんなのってありなんですか。

これってカネのある奴にはすこぶる有利ですが、私のような貧乏人には相当にハードルが高い。というか、これじゃ改善策に全然なっていないだろ。

たとえばレンタカー代を1日8000円とする。単純計算すると、10日間借りれば80000円。2週間借りれば112000円。1か月も借りたら240000円もかかります。

もちろん、レンタカーを借りる前に損保はこんな条件があることを説明してくれない。従来どおり、過失ゼロでないと代車料は出ませんというのでしょう。

だから、損保が支払ってくれるかどうかわからない不安の中で、最後は裁判をすることを覚悟して、それこそ清水の舞台から飛び降りるくらいの気持ちになってレンタカーを借り料金を立替してようやく認めてもらえるということになります。

さらに、過失が50%だったら、借りたレンタカー代の半分は自己負担になります。それでも借りられる人って、やっぱり金持ちですよね。不公平だ。貧乏人の私は抗議したい気持ちでいっぱいになった。

損保は、過失があると代車費用を認めたがらないのはどうしてか

さて主題にもどろう。損保は、過失があるとどうして代車費用を認めたがらないのでしょうか。

これは代車費用に限ったことではなく、買替諸費用についてもそうだし、評価損についてもそうだし、休車損害についても、過失があるから認めないというわけのわからない理由を持ち出して、その支払いを一切拒絶します。

損害の問題と責任の問題を一緒くたにしていること

わけがわからなくさせているのは、代車代や買替諸費用、評価損、休車損害は損害の「範囲」の問題です。ところが、過失は「責任」の問題です。まったく次元の異なる問題を「一緒くた」にして論じています。

だから、 私にはさっぱり「わけがわからない」のです。当の損保自身も、頭のいい人ばかりなのだから、「わけがわからない」ことは十分承知しているはずです。しかし、にもかかわらず、どうしてその「わけのわからない」ことに一途にこだわり続けるのでしょうか。

注意
大手損保の元損害調査部長だった海道野守氏もこう書いています。

過失があるからと、代車料などを拒否する保険会社・共済が多いのです。代車料を断る口実に、被害者になんとか過失を認めさせようとします。認めさせた過失割合がたったの5%、いつの間に、過失があれば代車料などを支払わなくてもよいという間違った処理が保険業界の常識になったのでしょう。その結果、涙ぐましい5%の攻防戦です。(「加害者・被害者のための自動車・物損事故解決のしかた」P2)

「加害者・被害者のための自動車・物損事故解決のしかた」海道野守

物損損害について、損保相手にどこを攻めると効果的かを、説得力ある文章で書いたすぐれ本。著者は元損保損害部長だった人で、損保内部の事情に精通しているからこそこういう本が書けたのだろう。

支払い拒絶理由

評価損や休車損害

評価損や休車損害については、それが発生するかどうかの要件の問題や算定による過大な事務負担がその理由ですね。ハッキリしないものは払いたくない姿勢です。まあこれはわからないでもありません。

私も休車損の算定で大変苦労しました(苦笑)。

休車損害を請求する際に必要な資料とは?
海道野守「評価損 格落ち」
  • 247ページ
  • 保険毎日新聞社
  • 2002/12/1

買替諸費用

しかし、買替諸費用については裁判所でほぼ明確な基準が立てられているのだから、ハッキリしないわけでは決してありません。要するに単に払いたくないだけだと考えるしかありません。買替諸費用については不払いの正当な根拠がないのだから、粘り強く交渉すれば損保も(その全部もしくは一部を)認めざるえません。

裁判例学説にみる交通事故物的損害 第2集 全損編
  • 360ページ
  • 保険毎日新聞社
  • 2002/12/1


買替諸費用についてはこちらの記事で詳しく書きました。

交通事故で車が全損したとき、買替諸費用なくして、車は動くのか

代車費用

問題は代車費用です。繰り返しますが、過失があるとどうして認めたがらないのでしょうか。

裁判例学説にみる交通事故物的損害 第2集4
  • 448ページ
  • 保険毎日新聞社
  • 2010/7/1

代車費用の特殊性

私にはよくわからなかったのですが、西川弁護士が非常に示唆に富む見解をHP上で公開されていました。その見解とともに、私の考えも以下に付け加えます。

交通事故にあい、自車が壊れ、修理に出したとしよう。その間、クルマが使えないためやむをえず代車を使用することにした。その場合は2つの方法がある。

(1)は、自分でレンタカー会社からクルマを借りてきて、自分でレンタカー代を支払い、後で加害者に加害者の過失分を請求する。

(2)は、加害者側損保が提携先のレンタカー会社からクルマを借り、それを私に貸す。

前者は私とレンタカー会社の契約によるものだが、後者は損保とレンタカー会社の契約によるものという大きな違いがある。法律上の建前は前者であることが基本だが、実際の運用は後者の場合が圧倒的に多い。それは、損保は提携先のレンタカー会社なら割安のレンタカー代ですむというメリットがあるからである。

では、「損保は、過失があるとどうして代車費用を認めたがらないのでしょうか」。

代車を出す前の問題

西川先生の見解では、

(2)の方法では保険会社はレンタカー会社に100%レンタカー代の支払い義務が生じる。本来、加害者側の過失分を払えば良いはずの保険会社はレンタカー会社との契約上、100%支払いを強制される。従って、保険会社としては(2)の方法による場合、被害者の過失分を被害者から取り立てる必要がある。回収が出来ないかも知れないと言うリスクが生じる。

レンタカー代の一部を被害者に請求することは示談交渉を難航させる原因となり、そのため、保険会社は被害者に過失がある場合、「代車は出さない」と言いたがる。

以上が先生の意見です。この点については、「保険会社には被害者過失分の回収が出来ないかも知れないと言うリスク」は、示談時に、全支払い額からレンタカー代の過失分を控除するという方法があるのではないかとおもいます。

代車を出した後の問題

私が先生の指摘をきっかけに別のことを思いつきました。代車の処理でトラブルになるのは、以上のような過失がある場合の代車を出すの問題にかかわってのことと、もう1つがいったん代車を出したの回収にかかわってのことです。

代車を出すということは、損保の手から離れて代車の占有を被害者に移転することです。もし、代車期間について被害者と損保とがトラブルになったとき、被害者にクルマの占有が移転しているため、主導権が被害者に移り、損保は直接手の出しようがなくなります。

しかも、提携先との賃貸関係は継続したままのため、借り手である損保に対する賃貸料も全額発生するなど法律関係が複雑化します。それゆえ、示談交渉を難航化させる原因になります。それを嫌って代車はなるべく出したくないと考えているのではないのでしょうか。

その口実が「過失があると代車は出せない」ですね。

そのことを裏付ける資料があります。損保査定者向けに書かれた「新 示談交渉の技術」という本音本に、以下のような記載をみつけました。

(代車を)認める場合でも、代車として現物(レンタカーなど)をこちらで手配することには、問題が多い(被害者が約束の期限を過ぎても代車を返還しない場合でも、レンタカー業者との間では契約責任によりレンタル料を負担しなければならなくなる)。できるだけ、金銭ですませるのがよい。被害者側も、本当はそのほうがよいはずである。

代車を出すときには、必ず期間を切る。車の修理方法などに合意がなく、修理に着手していない場合でも同様である。この期間制限に相手が同意しないときは、代車の現物を絶対に提供してはならない(返還請求を法的手続き―たとえば仮処分など―でするにはたいへんな手間と費用がかかることになる)。

修理方法(全塗装など)や、格落ち、全損の場合の時価額などについて折り合えないときは、被害者は代車を返さないということになる。こうしたとき、現物で提供していると困難な状況になるのである・・・

新示談交渉の技術: 交通事故の想定問答110番
  • 272ページ
  • 企業開発センター
  • 2021/4/6

4 COMMENTS

どら

もし被害者が相手損保に代車費用を認めさせると相手側も代車費用を請求してくる可能性があります。もちろん正当な範囲ならなんら問題ないはずです。が、実際にはこうなりました。

被害者「工場代車が2週間空かなくてかしてもらえないんで過失割合分でいいので代車費用を出すことに同意してください」
相手損保「双方過失あるなら出しません。それでも出せっていうならこっちも請求します!」
自損保「相手損保から連絡がありました。やめてください。請求したい気持ちはわかるけど加害者側でひっかきまわしている損保代理店は中古車屋なんです。いくらでも架空の代車料を請求してきますよ。そうしたらうちは払えないですからね!」

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ホームズ事務所

どらさん、コメントありがとうございます。

>加害者側でひっかきまわしている損保代理店は中古車屋なんです。いくらでも架空の代車料を請求してきますよ。

こういう問題もあるのですね。架空だと思われた部分を拒否すればいいようにも思いましたが、このあたりの事情を知らないので、そんなにかんたんなことではないのかもしれず、ぼくにはなんとも言えません。今後の参考にできたらと思いました。貴重な情報ありがとう。

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匿名さん

保険会社の対応は明らかに違法です。明らかに払い渋りです。

保険会社との交渉の内容を録音して、金融庁に提出しますと言えば
急に態度がかわり、保険会社は大人しくなりますよ。
なぜなら保険会社が不払いに当たることを自覚して証拠として残されるの
嫌うからです。

携帯電話のアプリに録音アプリがありますの是非使ってください。

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ホームズ事務所

匿名さん、貴重な情報ありがとう。携帯電話に録音アプリがあるのは知りませんでした。

保険会社は「確信犯」なので、証拠を残すのがいいというのはごもっともだと思います。
保険会社も電話の内容を録音しているので、こちらも録音を残す。対抗手段ですね。

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