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評価損(格落ち)を認めさせるには
交通事故で車が壊れました。評価損を請求しようと思っていますが、相手損保はそんなものは支払えないと言っています。評価損を認めさせるにはどうしたらいいのでしょうか。
評価損が発生しているのかどうか
車が事故にあったからといって、必ず評価損が発生するわけではありません。評価損が発生しているのかどうかです。そのための要件がいくつかあります。まずは、車が修理できるのかどうかです。
全損なら新たに車を買い替えればいいわけなので、評価損は発生しません。そこの説明からしていきます。
過失があると、代車費用も買替諸費用も評価損も休車損も認めたがらないわけ
全損と分損
クルマの壊れ方によって全損と分損の2種類に分類されます。何が「全損」で、何が分損なのか。
「全損」か「分損「」かについて、最高裁(昭和49年4月15日判決)はこのように定義しています。
①全損のときはクルマを買い替えることができる。
②分損のときは修理できるから、修理費が損害である。
③全損には物理的全損と経済的全損がある。
④全損のときの損害額は、事故にあう前の時価であり、それは中古車市場で買うときの価格である。
車が修理できないほど壊れたら「全損」になり、新たに車を買わないといけない。これは納得です。つぎに、修理可能なものについては修理する。新たな車の要求はできない。これも納得です。
問題はそれからで、「全損」には「物理的全損」というのと、「経済的全損」というのあるということです。
新車賠償の提案
「物理的全損」とは
「経済的全損」とは
「分損」は、上記以外の場合である。
評価損とは
評価損というのは、「十分な修理がされても、修理後のクルマの価格は、事故前の価格より低いこと」をいいます。十分な修理をすれば元通りになるのかというと必ずしもそうはなりません。たとえば、
①修理技術上の限界からクルマの性能、外観などが明らかに事故前より低下する。
②事故の衝撃のために、車体・各種部品に負担がかかり修理直後には不具合がなくても年月がたつと不具合が発生しやすい。
③修理した後も隠れた損傷があるかもしれないという懸念が残る。
④事故にあったことで縁起が悪いと敬遠される。
ということが起こりえます。これが評価損です。
しかし、評価損が発生したのかどうかはわかりづらいため、保険会社(及び共済)は評価損を認めることに極めて消極的です。とりわけ「クルマを売却する予定がなかった」ときは、評価損を認めません。
「クルマを売却する予定がなかった」とは
「クルマを売却する予定がなかった」とはどういうことでしょうか。
たとえば、事故になる直前に、たまたまクルマを下取りに出していて新車を買おうとしているときに事故にあった場合です。この場合、当初下取り価格が100万円といわれていたのに、事故にあったため下取り価格が70万円に下がってしまった。100万円-70万円=30万円。この場合は評価損が30万円だとハッキリしています。
このように評価損の価格がハッキリしているときは支払いに応じますが、そうでない場合はなかなか支払いに応じようとしないというのが損保の基本的な考えだと思って間違いありません。
例外的に認める場合についても、買い替えはせず修理して乗り続ける場合は評価損なしとなってしまいます。これでは事故前にたまたま査定してもらっていたという幸運がない限り認めないということになってしまって、評価損が認められる場合は極端に限られてしまいます。
損保は、支払時は評価損(格落ち)を否定し、請求時はちゃっかり評価損も加えるっておかしくないか
このように保険会社や共済は被害者に対して評価損をなかなか認めようとしません。しかし、立場が変わるとどうでしょうか。たとえば以下の判例をみてほしい。
神戸地裁 平成8年9月20日判決
事件番号 平成7年(ワ)第955号 損害賠償請求事件
<出典> 交民集29巻5号1413頁
【判決要旨】
初度登録から2か月弱しか経過していないメルセデスベンツE500リミテッドが事故で損壊した事案で、原告車の車種、年数、損傷の内容、程度、修理費用額等諸般の事情を総合考慮し、53万円を原告車の評価損と認めた事例。
上記判例は、保険会社が修理費に評価損を加えて経済的全損請求した裁判例であり、裁判所は評価損を認めています。
つまり、保険会社が支払った保険金を被害者に代わって加害者から回収するときは、評価損を請求し、裁判で争うというダブルスタンダードぶりなのですね。
損保ジャパンに評価損を認めさせた例
冒頭で書きましたように、当方に相談された方で、立証書面を用意された方はたいてい評価損を認めさせています。口で言うだけでは信ぴょう性がないので、こちらのサイトを見てください。
「保険会社が評価損を請求している判例があり。請求されるときだけ評価損を認めないとは容認できない」と当方の紹介した判例を添付するなどして立証書面を用意した結果、損保ジャパンの担当者は「きれいにまとめてあるので、反論材料や次の手も用意しているだろうから下手なことは出来ないと考えました」とあります。
ここまでやれば修理費用の20~30%(当方の相談者はいずれかだったので)は認めてくれるはずです。
評価損のまとめ
そろそろ、評価損についてまとめてみよう。この分野で唯一の専門書といっていい「裁判例、学説にみる交通事故・物的損害・評価損」(保険毎日新聞社)という本があります。この本は平成2年1月から平成13年3月までの11年間に物的損害を扱った裁判例を精査・分類した上で、以下のような結論(P7~8)を述べている。
①評価損は、事故と相当因果関係がある損害で、学説・判例の多数は認める方向にある。
②評価損は、修理可能な分損の場合に発生するもので、修理不可能な全損の場合には発生しない。
③修理したからといって評価損が必ず発生するとは限らない。
④評価損発生の判断基準は明確には確立していないが、被害車両を売却して現実に発生を確認する必要はない。
⑤初年度登録から事故日までの期間が短いほど評価損が認められるが、かなり経過していても認められる場合もある。
⑥損傷程度が大きいほど認められ易いと大まかにいえるが、損傷程度は裁判所にあまり影響を与えていない。
⑦評価損を認めるとした場合、その損害額の算出方法は、修理費を基準にして修理費の30%とするのが一般的である。
裁判所の判断は、④にあるように「被害車両を売却して現実に発生を確認する必要はない」としています。
その後の裁判例が扱われていないので、比較的最近出版された本から紹介します。
大阪地裁における交通損害賠償の基準
「評価損については、修理してもなお機能に欠陥を生じ、あるいは事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合、その減少分を損害と認める」「評価損については、損傷の程度、修理費の額、初年度登録からの経過期間、走行距離、車種(いわゆる高級乗用車であるか)等を考慮して、評価損が生じているかを判断する」
「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準」
東京地裁交通部の基準
技術上の評価損及び取引上の評価損いずれについても評価損として認め、「具体的な算定に当たっては、事故車両の車種、走行距離、初年度登録からの期間、損傷の部位・程度、修理の程度、事故当時の同型車の時価、財団法人日本自動車査定協会の事故減価額証明書における査定等諸般の事情を総合考慮して判断される」としている。(「交通損害関係訴訟」より)
「損害賠償額算定基準」通称「赤い本18年度版」から
①国産車
トヨタ・セルシオ(登録後3年弱、走行距離4万3000キロ)機能上の不具合を理由に、166万円余の修理費の2割相当33万円余の評価損を認める。ただし、日本自動車査定協会の査定額51万5000円については、評価過程が明らかでないことを理由に否定されている。
ホンダ・オデッセイ。パンパー凹損、後部タイヤ上後部本体の凹損、右後部から後側部にかけての歪み、マフラーの損傷があった場合に、修理費の2割相当の4万4734円の評価損を認める
ホンダ・ステップワゴン。初度登録から2年10か月。走行距離3万8600キロ。修理見積額の約2割である16万5000円を認める。
トヨタ・エスティマ。初度登録から1年11か月。走行距離9938キロ。サイドメンバー、クロスメンバー等の修復歴表示義務のある車体の骨格に損傷が及んでいるとして、修理費の20%、すなわち25万0520円を認める。
トヨタ・アルファードGのMS。初度登録から3年半。走行距離4万3974キロ。時価233万5000円。初度登録からかなり経過しているが、時価が高く、事故による損傷も大きく、基本的構造部分に及んでいることを理由に、修理費の1割である19万2794円を認める。
日産・GTRプレミアエディション(国産限定スポーツカー)。初度登録から3か月。走行距離945キロ。新車購入価格834万円余。リアフェンダーを修理した後もトランク開口部とリアフェンダーの繋ぎ目のシーリング材の形状に差があるなど、事故前と同じ状態に戻らなかったとして、リアバンパー損傷等の修理費の50%である70万7739円を認めた。
トヨタ・レクサスLSセダンUSF40。初度登録から5か月後。走行距離9099キロ。骨格部分の損傷。修理費の40%である40万8525円。
トヨタ・ヴェルファイア。初度登録14日。新車価格515万余。新車として購入後間もない比較的高額の車両の評価損は通常よりも大きいとして、修理費の50%である28万7016円を認めた。
トヨタ・クラウンマジェスタ。初度登録4か月。走行距離1890キロ。修理費44万2743円。C協会作成の事故減価証明書(28万8000円相当)を引用した上で、修理費の約50%である22万円を認めた。
評価損に対する交通事故紛争処理センター裁定結果
現実に「評価損」の請求が可能かどうかについては、裁判の場合についてこれまで述べてきたので、最後に、交通事故紛争処理センターではどういう判断をしているのか、評価損としていくらくらいが妥当なのかをご紹介します。以下は交通事故民事裁定例集より。
【平成17年度】
BMW3181。平成11年度初度登録。2万4437㌔走行。修理費の10%(15万円)。
トヨタアルファード。登録後1年以上経過。56000㌔。修理費の10%(21万円)。
日産キューブ。新規登録8か月後の事故。修理費の20%要求だが、日本自動車査定協会の減価額88000円。査定費用を含め、9万6925円。
【平成18年度】
【認容例】
【否認例】
【平成19年度】
【認容例】
【平成20年度】
【平成21年度】
裁定例なし。
【平成22年度】
【平成23年度】
【平成25年度】
福岡1052号
BMW323iMスポーツ。平成19年初度登録。走行距離52454㌔。修理代107万1000円の10%を評価損とする。レッドブックで190万円。事故1年半前に同価格で購入(諸経費込み)。破損は左フロントピラーパネルを含む(同箇所は、自動車公正取引協議会の「自動車業における表示に関する公正競争規約11条の「修復歴」(車体の骨格にあたる部位)として表示義務付けされていること、日本自動車査定協会による減価額16万円を考慮。
大型貨物車。1180万円で購入。購入5か月後に事故。購入価格の40%の修理費を要する損傷で、トラクターヘッドを含む。事故時の走行距離を10万㌔と推定。リース関係の事実から、修理費の10%弱(42万円)を評価損とした。
「評価損」の徹底分析