保険調査とは(元保険調査員が語る海外旅行保険なぜばれるのか)

保険調査といわれても何のことだかさっぱりわからないという人が普通だと思います。そして、どんな調査をどういう人たちがやり、その調査もたとえば警察の捜査とどこがどう違うのだろうかと思うはずです。

以下は、元保険調査員による解説です。

保険調査とは

保険調査というのはたとえば交通事故とか火災事故とか盗難とかなどで保険金の支払い事由が発生するときに、交通事故なら過失割合を決める必要があるのですが、事故当事者の言い分が違うために決まらない場合があります。あるいは火災が発生したときに火災保険金支払いの要件を満たしているのかどうかを調べる必要があります。

そのようなときに実施されるのが保険調査です。すなわち、保険金が支払い要件に該当しているのかどうか、それとは逆に、免責(保険金を支払わなくていい)に該当するのかどうかなどの調査のことです。調査種目はこれ以外にも多岐多様です。

どこまで調査するか

皆さんの中で、損保から調査をいれると言われたことありませんか。そのときは、たいへん不安だと思います。いったいどんな調査をするのだろうか。どこまでやるんだろうか。

調査をうけた経験のある方は別にして、ふつうはまったくわかりませんよね。たいていのことがわかるネットを見ても、大したことが書いてないですし、当の調査の人が語っていることもほとんどないし、語っていたとしてもどこかホンネを隠していることが多い。だって、どんな調査なのか事前に種明かしをされたんじゃ困るじゃありませんか。

どこまで調査するかは依頼先である損保の意向による

どこまで調査するかは、依頼先である損保の意向によります。いわゆるスクーリニング調査(前調査)というような、本格的な調査を要するかどうかを検討するためのプレ調査から、徹底的にやる本格調査までその幅も奥行きも広くかつ深い。過失割合の調査はある程度定型的に決まっているのでそうでもありませんが、いわゆるモラル調査、すなわち保険金詐欺が疑われる調査だと非常に厳しいものになる。

警察じゃないから民間の調査員に捜査権があるわけではありませんが、かなり徹底的にやることが多い。この業界のことを知らない人は、そこまでやるかと思うほどのことはやると考えてもらったほうが間違いが少ないと思います。

そのような徹底調査ではなくて、ごく標準的な調査の例をご紹介しましょう。それでも「そこまでやるんだ」と思えてくるはずです。

たとえば海外で盗難にあった場合

たとえば海外旅行に出かけるとき、盗難にあった場合に備えて保険をかけますよね。海外旅行保険というやつ。そこに携行品担保特約というのがあります。海外旅行の際に、万が一、盗難にあった場合でも盗難にあった身の回り品の時価額を補償してくれます。

路端の茶店で、歩道にある椅子にこしかけてお茶をすすっていたときのことです。路上を自転車に乗った若者二人組が近づいてきて、椅子に置いていたバックをすくって行こうとしたのです。すくいかたが中途半端だったため難を逃れましたが、間一髪のところでした。

このような盗難にあいそうだったり、現に強盗にあったこともあります。海外だとこんなことがいつ起きても不思議ではありません。

ところで、どうせ海外のことだからわからんだろうし、調べようもないだろうと思って、盗難にあってもいないのに、盗難にあったとウソをついてカメラだのパソコンだの高級時計だの比較的値の張る物品が盗まれたことにして、保険金の請求をしてくる連中がいます。その場合どこまで調査するのかです。

海外では盗難以外の航空機を使って鞄など紛失する例があとを絶ちません。バックパッカーをやっていた私もそのような被害者のひとりです。そういう場合どう対応すべきかを別記事にしました。関連があることなのでご紹介しておきますね。

海外旅行保険。旅にまつわるトラブルは、なんとかなるさで乗り切ろう

海外旅行保険の携行品損害担保特約

海外旅行保険の携行品損害担保特約について

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【出典:損保ジャパン日本興亜HP】

わかりづらいかもしれないので、注釈をいれておきますね。

とくに注意したいのは以下の3点です。
①盗難品で保険の対象になるのは、旅行行程中に携行する身の回り品に限られていることです。

②パスポートの盗難は5万円が限度だということ。

③盗難が対象であり、紛失や置忘れは対象外だということです。「盗難」とは、自分の管理下ないし占有空間内にあった目的物が第三者によって不法に持ち去られること。「紛失」は、保険の目的物を失った日時、場所が不明確であること。それらが明確な置忘れは保険の対象外です。ここ、重要

国内にいながらにして調査する

調査員である私も何度かこの調査をやったことがあります。本当ならその旅先である海外の地に出向いて調査をやるべきだし、私はそんな調査がやりたくて仕方がなかった。しかし、保険金の請求といっても数十万円程度です。そのためにかかる海外調査費用とその数十万円とを天秤にかけたら海外調査費用のほうが持ち出しは断然多くなってしまいます。

だから、海外に出かけて調査するなんてことは普通ありません。もっと高額ならあるのでしょうが、私のような並みの調査員にはそういうおいしい話はまずきません。それでも、調査依頼はきます。日本国内にいながら、自宅にあるインターネットや電話などを駆使して調査をやるのです。これなら、足が出ません。でも、そういう調査の担当が自分に回ってきたときは、もう涙目ですね。

詳細を確認し、それが可能かどうかのウラをとる

まず保険請求者である盗難被害者から旅行の全日程とその内容を確認します。仮に1週間、タイに旅行したとしましょう。その全日程の行き先、たとえば利用した交通機関、宿泊先、飲食店ほか訪問先、会った人物など詳細を確認します。そして、盗難にあったのが3日目で、盗難にあったのが首都バンコクのチャトチャック ウィークエンドマーケットに隣接する公園だったとします。

もちろん盗難の状況も確認します。そこの公園のベンチに腰掛けていたら、2人組の男たちがやって来て、かばんをかっぱらっていったとかね。その男たちの年格好とか、人相、どっちの方向に逃げていったのかとか。念入りに聞く。

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その後、インターネットを駆使して、盗難の被害に遭った「チャトチャック ウィークエンドマーケットに隣接する公園」だけでなくて、保険金請求者の説明する全日程に関する情報をとにかくなんでもかき集めるのです。

私の場合は、まるまる1週間、会社もしくは自宅で食事と睡眠以外はインターネット漬けのほぼ缶詰状態です。探るのは日本語サイトだけではありません。それだけではまったく不十分なので、英語のサイトなどを含め可能なあらゆるサイトから情報をかき集める。そして、保険金請求者が私に説明したことが事実として可能なのかどうかを確認するのです。

たとえば、どこそこの駅で何時何分ごろ出発のどこそこ行きの電車に乗ったと説明したとしましょう。インターネットでその駅を確認し、時刻表の情報を探し出して、確認し・・・それが実際可能なのかどうかを検証します。宿泊先が大手ならたいてい日本人スタッフや日本語のわかるスタッフがいるので電話をかけてみる。宿泊先から駅までの所要時間ももちろん調べます。盗難にあったとされるチャトチャック公園の写真くらいはインターネットで難なく入手できます。さらに盗難にあった物品の中にパスポートがあるなら、日本大使館に確認してみる。警察への盗難届が出ているなら、警察へ電話するなり照会するなりする。

つまり、国内にいながら可能な限りの調査をやってみて、保険金請求者の説明する旅の内容が実際可能なのかどうかをできるだけ再現してみる。

欲ばりはばれやすい

盗難自体の確認ももちろん詳しくやります。どういう大きさでどういう形状のかばんが盗まれたのか。その中身は何と何か。その中身の個々の物品の形状と大きさはどれくらいなのか。

こういった海外での虚偽による盗難被害申告の特徴は、単品被害が少ないことです。たとえば腕時計ひとつとかカメラひとつとかの被害申告でなくて、カメラも腕時計もパソコンも、それこそ全部カバンにいれていて盗難にあったと申告してくる。そのほうがおりる保険金が多くなるからです。

こういう場合、私はカバンの寸法や大きさを聞いて、カメラだの腕時計だのパソコンだのの大きさも聞いて、それらが全部収納できるかどうかを常に確認しています。そうすると、収まりきらないことがあり、そこで虚偽であることがばれるのです。

猪瀬直樹元都知事の場合

もっとわかりやすく説明しましょう。たとえば、医療法人「徳洲会」グループから5000万円を受け取った問題で、東京都議会で厳しい追及を受け最後は退陣に追い込まれた猪瀬直樹元都知事。

「現金は普段使っているカバンに入れた」との証言を裏付けようと、現物のカバンを議会に持ち込んだ。ところが、都議が用意した5000万円のサイズの箱を詰めたところ、入りきらないから、ウソだとばれてしまった。これと同じです。

盗難のウソを見破るまでやる

以上のように、不実申告ということで保険請求を拒否できます。調査すべきことは他にもいろいろあってあまり公開すると保険会社に白い目でにらまれるのでごく一部の公開にとどめます。ごく普通の調査でもこの程度のことはやります。

労ばかり多くて大変な作業なのです。

常習犯が多い

しかし、こういう不正は許すわけにいかず、今回の例としてとりあげたケースは、保険金請求者が過去に2度同じように盗難にあったとして保険金が支払われていたものであり、今回は3度目の請求でした。もう慣れっこになっていたのです。

で、徹底的にやりました。最初に面談して、わからんことがあるので2度目の面談をしたとき、彼は私がタイにまで調査に行ったに違いないと信じて疑わなかった。そう思わせるくらいに徹底的に調べました。

調査業務はもっと評価されてしかるべきだ

それにしても、数十万円と自分の良心とを交換する価値があるのでしょうか。私は貧乏人だし、数十万円はたいへんな大金ですが、だからといってここまで自分を落としたくありません。もし保険金詐欺をたくらんでここに来たのだったら、そんなことに一生懸命になるより、もっとやるべきことがあるはずですよ。

この調査に限りませんが、交通事故の調査もふくめて、調査員による調査がいかにたいへんなことなのかをちょっとはわかっていただけたかと思います。にもかかわらず、その評価があまりに低すぎはしないでしょうか。

この際だからですが、いつもどこか上から目線の損保担当者や弁護士の方(もちろん例外はおりますが、あくまで例外ですね)に言いたいです。もう少し調査の仕事に対して正当に評価されてもいいのではないでしょうか。

損保担当者にしろ、弁護士にしろ、自分たちは頭がいいから(ここも私にはよくわからんところだが)、俺たちの優秀な頭脳をもってすれば調査などかんたんにできると勘違いされていませんか。法律の解釈とかよりも調査の方がよほど頭を使いますよ。

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