道路の穴などが原因の交通事故の 過失割合と判例

日本の道路事情にも問題があるのかもしれないと別記事で書いたことがあります。そしたらとたんに以下のようなコメントがはいりました。

「最近の日本に事故につながるほどの道がどの程度存在してるっていうんだよ」

というご指摘です。大学の工学系研究室から発せられたものです。
「交通事故の原因の9割は人為的ミス(ヒューマンエラー)」は本当なのか

交通事故は、(人-車-道)システムの欠陥によって起こる

交通事故は、「(人-車-道)システムの欠陥によって起こる」(「路上の運転と行動の科学」シャイナー著・P22)。

あらためて言うまでもないことなのですが、事故原因については「人」だけ、すなわちヒューマンエラーばかりが強調されて、あとの「車」「道」のことがすっぽり抜け落ちて議論されがちです。そういうことを言い出すと、どこからかともなく圧力がかかってくる困った世の中ですね。どうしても「人」のせいにしたいらしくて。

「車」は高度な技術が集約されたものなので、そちらへの責任追及などという調査依頼は、ゼロではないにしても、ほとんどきたことがありません。仮にそんな難しい依頼がきても、私らの能力じゃドダイ真相解明など不可能です。

欠陥車問題。車が欠陥車かどうかで争おうとしても日本では事実上無理です。なぜかというと、車に欠陥があるかどうかを判定できる「第三者機関」が日本に存在しないからです(欧米にはある)。そのため、その車を製造したメーカーを捜査に関与させているのが現状です。欠陥があるかどうか、加害者かもしれない製造元に白黒はっきりさせる。これって茶番にしかみえないですけどね。関心があるようでしたら、こちらの記事みてください。

「欠陥車と企業犯罪」(伊藤正孝著)

しかし「道」、すなわち道路上の穴などの欠陥についての調査依頼は決してないわけではありません。損害額が高額で、100%こちら側に過失がありそうな自損事故事案だとか、相手車がいたとしても、こちらも過失大なため、損害額が大きくなりそうなときなどがそうです。

その場合、道路環境にもし問題がありそうなら、道路管理者への責任追及を行う場合がないわけでもありません。損害賠償金を支払う立場の損保は、そういうときは背に腹はかえられぬからなのか、相手がたとえ行政だろうとだれだろうとこれは道路管理にも問題があるんじゃないかと思われたときは、黙っていないときがあります。

道路管理者側に責任の一端がなかったのだろうか。「道」の管理上の責任を問えないのだろうか、その種の依頼がときどき(というか「まれ」ですが)やってこないわけではありません。

わかりやすい例を2つあげてみましょう。ここでとりあげた2つは、あくまで「たとえ」なのであって、実際にあった例でないことをお断りしておきます。

道路が忽然と消失している道路

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かなり広めの片側1車線路。ドライブ気分でこの交差点をさらに進むと、

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先がT字路になっており、まっすぐ進めば行き止まりになっています。左右に曲がらず、行き止まりをそのまま前進すると、、急な崖になっていました。

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もし、この突き当たりに、ガードレールもなく、雑草もなかったとします。照明もない夜間だったら、先の道路がなくなっていることに気づかず、下の写真のように落こっちないでしょうか。土地勘のない運転者がここをもしも車で通りかかったら、忽然と、道路がなくなっていたと感じるに違いありません。

こんな感じなんだろうなあ、きっと。

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〔PHOTO〕朝井 豊】

このあたりは山岳地帯なので冬になると1メートル以上の大雪が積もります。道路上ももちろんそうであり、そのため除雪が必要になります。

除雪した際の雪をどこに捨てようか。先の画像では、つきあたりにはガードレールがありましたが、そのガードレールをとりはずしてそこから集めてきた雪を捨てるほうが便利です。そして、春を迎えたのだが、ガードレールをとりはずしたままになっていたとしたらどうなることでしょうか。

深さ3メートルある大穴に転落したショベルカー

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ショベルカーがこの山道を通ろうとしていました。先に川もしくは池らしきものが見えますよね。水量が減っているから道路を切断したような形状だということがわかりますが、もしも増水していたなら、道路上にできた水の溜まり場くらいにしか見えないのかもしれません。ショベルカーというのは、水陸両用であることがあまり知られていませんが、川でも進行可能なのです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

事故当時は冬で、15センチほどの雪が積もっていたとしましょう。流れがない泥水の水面には雪が覆っていた。

おや、待てよ。この水たまり。渡っても大丈夫だろうか。が、ショベルカーの運転手はそそっかしらしくて、あるは急いでいて、水深を測らないで渡ろうとしました。まあ、いけるよと。で、ショベルカーごと水没してしまいました。

ショベルカーの運転者の不注意を責めるのはかんたんです。ですが、水深3メートルもある大穴(ケーブルなどの敷設のための大溝に水が溜まったもの)であるとは予想しづらいのも事実です。そこに突っ込んであやうく溺死しかけた運転者だけの責任なのでしょうか。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

事故現場の100メートルほど手前にこのような注意を促す立て看板と柵があったとします。写真を見るとわかるようについ最近になって設置された真新しいもののようにも見えます。事故前に設置されていたのだったら、あえて突破を試みたショベルカー運転者の過失ですね。あきらかに。

しかし、もしかしたら事故後慌てて設置されたものかもしれません。もしそうなら、道路管理者である行政側も責任を免れません。

以上の2つの例は道路に穴などの欠陥があった例としてわかりやすいと思ったのでとりあげたしだいです。あくまで「たとえ」であり、架空の話ですよ。

道路管理者に責任が問われるべきとき

国家賠償法2条1項の営造物責任

道路環境に問題があると考えたらどうすればいいのでしょうか。道路の管理者は、国道なら国だし、県道なら県、市道は市というように、国もしくは公共団体が管理しています。その設置・管理に問題があったとき、国や公共団体に対して責任追及ができることになっています。

すなわち、道路環境については国家賠償法2条1項の営造物責任の規定があります。櫻井他著「行政法第3版」(P400-)から引用します。

(国家賠償法)2条1項は、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害が生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」と規定する。

すなわち、公の物(物的な施設)に何らかの欠陥があり、損害が生じた場合の国家賠償責任が定められている。物の設置・管理は、行政主体の作用であっても非権力的作用であり、民法(工作物責任に関する民法717条)の適用が可能と考えられる。

ただし、

国家賠償法2条1項の「公の営造物」は、民法717条1項の「土地の工作物」より広い概念である。また、国家賠償法2条1項には、民法717条1項ただし書が定める占有者の免責規定がない。

さらに、国家賠償法2条が適用される場合には、同法3条1項により、公の営造物の設置・管理者のみならず、費用負担者も賠償責任を負う点が、民法と異なる。

営造物責任の要件については、

①公の営造物、②国・公共団体による①の設置または管理に瑕疵があること、③被害者の請求、④設置または管理の瑕疵と損害の因果関係が存在すること

――となっています。

国家賠償法3条の費用負担者の責任

また、3条により費用負担者も賠償責任を負うことから、たとえば国道の管理者は国土交通大臣ですが、費用は国と都道府県が負担しているため、都道府県にも賠償請求ができます。

高知落石事件最高裁判決

肝心の道路管理の瑕疵については、そのリーディングケースである「高知落石事件判決」(最高裁 昭和45年8月20日判決)を前掲書ではとりあげており、以下のように解説しています。

事案は、過去にしばしば落石・崩土のあった国道において、管理者が「落石注意」の標識を立てる等注意をうながす措置をとっていたところ、走行中のトラックに岩石が落下し、運転者が死亡したというものである。最高裁は、道路管理の瑕疵を認めて2条1項の賠償責任を肯定したが、

①設置・管理の瑕疵とは、「営造物が通常有するべき安全性を欠いていること」であること、

②2条1項に基づく賠償責任について「過失の存在を必要としない」こと、

③防護柵の設置や岩石の除去、事前の通行止めの措置等々が行われなかったこと、

④予算不足が免責事由にならないこと、

⑤本件事故は「不可抗力」ないし「回避可能性のない場合」にあたらないこと、

を判示した。

上記①は瑕疵概念につき客観説をとること、②は2条1項が無過失責任であることを明らかにする。③は、瑕疵の認定にあたり進路の全般的な管理状況が問題になることを示し、④は、予算制約の抗弁を斥けたものである。⑤は、2条が完全な結果責任を認めるものではなく、不可抗力であったり、回避可能性がなければ免責されることを示す。

前掲書では、交通事故にかかわるものとしてさらに3つの判例が載っていたので、それもあげておきます。

道路管理87時間放置

国道に故障車が87時間にわたって放置されていたところ、夜間に原付バイクが故障車に追突した死亡事故について、道路管理者は道路を常時良好に保つよう維持・修繕し、一般交通に支障を及ぼさないように努める義務を負っており、「道路の安全性を著しく欠如する状態であった」として道路管理の瑕疵を認めた(最高裁 昭和50年7月25日判決)。

この判例は、道路自体に物理的欠陥はなく、故障車が長時間放置された事案であり、そうであるにもかかわらず瑕疵が認められた点に特徴がある。

赤色灯標柱等を他車が倒し、その直後の事故事案

夜間、工事中の道路に設置されていた赤色灯標柱等を他車が倒し、その直後に現場を通行した自動車が事故を起こした事案では、時間的に遅滞なく原状に復し、道路を安全良好な状態に保つことは不可能であったとして、道路管理者の瑕疵を否定した(最高裁 昭和50年6月26日判決)。

道路管理者が対策をとることが事実上不可能であったことが考慮されて瑕疵が否定されており、不可抗力という要素につき主観説的配慮があることは明らかである。

飛騨川バス事件判決・通行止め等措置なし

バスが集中豪雨によって川に転落し多数の死傷者がでた事案につき、道路本体の欠陥という観点ではなく、通行禁止等の措置をしなかったことから瑕疵を認めた(飛騨川バス事件判決 名古屋高裁 昭和49年11月20日判決)。

道路環境に瑕疵があった場合の分類

「道路管理瑕疵判例ハンドブック」によれば、

①「穴ぼこ・段差に関する事故」
②「スリップに関する事故」
③「路上障害物に関する事故」
④「落石に関する事故」
⑤「道路崩壊に関する事故」
⑥「配水施設の不備に関する事故」
⑦「路肩部分で起こった事故」
⑧「道路構造に起因する事故」
⑨「橋梁の不全に関する事故」
⑩「側溝等の蓋不全に関する事故」
⑪「ガードレールの不全に関する事故」
⑫「照明施設等の不全に関する事故」
⑬「道路工事の不全に関する事故」
⑭「その他」

に14分類しています。

ここではこの分類にしたがって最後の章で判例をご紹介したい。ただし、行政のミスをことさら小さく見せたい「不全」のようなふだん見慣れない官庁用語は使うつもりはありません。「不全」は、そのものズバリ「欠陥」もしくは「不備」と改めるべきでしょう。

だいたいが、「不全」では検索ワードにひっかからないではありませんか。

道路上の欠陥は事故被害者側の負担にされやすい

交通事故による被害については、基本的にはその被害を受けた被害者側が立証しなければならない決まりになっています。もし道路上の穴とか段差とか、あるいはマンホールのふたの閉め忘れとかがあったのに、そのことに気づかず、それが原因で事故になったにもかかわらず、そのことの立証を怠ったとしたらどうなるのでしょう。

たとえば道路上の欠陥に由来する過失が30%あったとします(注)。その30%は、事故被害者と加害者とで折半して負担するのでしょうか。決してそうはならないはずです。

けっきょくは、道路上の欠陥に由来する過失は、すべて事故被害者の負担に帰せられることになります。なぜなら、訴訟上の構造がそうなっているからです。

事故被害者は加害者との関係だけに眼を奪われがちですが、それではダメなんですよ。と私は思います。常に、道路環境に問題がなかったのかどうか。そういう視点が必要です。

(注)

この問題については、たとえば過去にこういう事例を扱ったことがあります。道路に大きな穴が開いていて、自動車の運転者がそれに気づくのが遅れ、慌てて回避措置をとったところ、歩行者をはねてしまったことがありました。道路の穴を放置していたことの責任は道路管理者にあるはずですが、自動車の加害行為と一体とはいえません。

しかし、道路の穴が原因で歩行者を死傷させたわけだから、管理の瑕疵は、被害との関係で因果関係があります。

そのように考えるなら、共同不法行為ではなくて、独立不法行為の競合型になるため、民法709条と国家賠償法の扱いになります。その際、それぞれの加害行為が損害発生に寄与した割合を考慮して、寄与度減責の可能性があるだろうし、減額された場合は、重なった限度で部分連帯になるのではないかと思います。

行政訴訟の問題点

道路の管理についての責任を追及する場合、それは行政訴訟になります。行政訴訟については以下のような特色と問題点があるらしいです。

「らしい」とは何事かと言われそうですが、自分は非専門家なので、専門家の著書からドンドン引用するしかありません。

国家賠償請求訴訟については、水害訴訟や営造物責任訴訟について論じてきたが、簡単にいえば、統治と支配の根幹に触れるような類型、たとえば右の水害訴訟については、裁判官たちの最高裁寄り、事務総局寄りの姿勢が顕著である。

一方、一般の営造物責任(道路、公園、公共の建物等公的な営造物の瑕疵に基づく責任)、教育関係(学校事故)、違法捜査等の類型では、かつてに比べれば認容される例が多くなっており、私も、右のような類型について認容判決を書いた。

ただ、こうした類型でも、個々の裁判官の考え方の相違は著しい。裁判官によって結論が変わりうる可能性が大きい類型の事件であることには変わりがない。
瀬木比呂志著「ニッポンの裁判」P195

道路管理瑕疵に関する判例

道路環境にどのような欠陥や不備があれば道路管理者への責任追及が可能になるかです。これは、具体的なイメージがないとなかなか思いつかない。つい、うっかりして見逃してしまいがちです。そこで、そのことに関する判例をご紹介します。イメージの喚起に役立ててほしいですね。

①「穴ぼこ・段差に関する事故」

仙台高裁 昭和37年3月22日判決
午後9時ごろ、原付自転車で酒気を帯びて運転。市道を走行中、道路中央部分にあった円形の穴ぼこ(直径1m、深さ10~15cm)に乗り上げて(ママ)転倒、死亡した事例。酒気帯びかつ高速走行だったことから、被害者に80%の過失相殺をした。
千葉地裁 昭和51年9月22日判決
国道の2車線道路上の1車線をふさいで道路陥沈補修工事中、道路の穴に照明装置をつけるなどの危害防止措置を施すことなく放置しておいた被告会社に、民法709条の責任を認め、道路管理者たる被告県に国家賠償法2条1項による不真正連帯債務の責任を認めた事例。この場合、原付に乗っていた被害者が穴に落ちる直前に、道路上に散乱している物を発見しつつ、停止または避譲などの措置をとらなかったため、被害者に30%の過失相殺を認めた。
大阪地裁 平成2年12月20日判決
いわゆる生活路上で発生した事故で、自動車等の交通量も多い幅員約4.6mの道路の中央に存在する幅約5センチ、長さ70センチ、深さ2.5センチの亀裂に自動二輪車の後輪がはまって同車が転倒し負傷した事案。進路の路面の状況に十分な注意を払わずに自動二輪車を発進させた被害者に、道路面の亀裂の危険性が比較的小さいものであったことも考慮して50%の過失相殺を認めた。
東京地裁 平成8年12月26日判決
午後10時ごろ、自転車が、バリケード、カラーコーン、保安灯、照明設備等の保安設備を設けていなかった県道工事現場の陥没部分に前輪をとられて転倒し、死亡した事案。請負業者、下請業者、発注元の県に民法715条の責任を認めたが、深酔い状態(血中アルコール3.1mg/ml)で自転車を運転していたこと、前方不注視があったことから、被害者に60%の過失相殺をした。
千葉地裁 昭和56年3月10日判決
道路工事中のため簡易舗装部分と既設路面との間に段差(2~5センチ)が生じていた比較的狭い県道において、雨中、自転車で下校途中の被害者が当該段差に車輪を落としたかあるいは落ちそうになってバランスを崩し、ふらつきながら道路中央付近を越え転倒寸前になったところに、折から対向してきた原付自転車が衝突した事故。当該段差がありながら、工事掲示板のほか何らの保安施設も設置せずに一般通行の用に供していた状態が道路として通常有すべき安全性を欠いていたとして、県に道路管理の瑕疵による責任を認めた。なお、対向の原付の運転者にも前方不注視の過失があったとして、自賠法3条但し書の免責を認めなかった。また、自転車の片手による不安定な運転をしていた高校生に60%の過失相殺を認めた。

②「スリップに関する事故」

大分地裁 昭和50年10月20日判決
正午ごろ、原付自転車が時速20キロで市道を右急カーブにさしかかり、対向車確認のため左端に寄って進行したところ、長さ10m、幅1.5m、厚さ最高部分で5~10センチにわたって散乱堆積していた土砂に乗り上げ、後輪が横滑りして左側溝に転落負傷した事故。前方を注視し、運転技術に応じて減速徐行するなどの安全運転をしなかった被害者に20%の過失相殺をした。
大阪高裁 昭和51年3月25日判決
午前3時ごろ、大型貨物自動車(甲車)が国道を進行中、路面全面凍結のためスリップし、左前輪を左側溝に落として、引き上げて路上に停車していた。そこへ、チェーン非装着の普通貨物自動車が時速50キロでさしかかり、甲車の手前76mで急制動をしたが、路面凍結のためスリップし、甲車から下車していた3名のうち2名に衝突、うち運転者が死亡。甲車運転者は、チェーン等防滑装置非装着で運転してきたこと、停車中に背後から接近してくる車両を警戒すべきであったにもかかわらず警戒していなかったことから、50%の過失相殺をした。
福岡地裁 昭和51年9月30日判決
午後10時30分ごろ、普通乗用車が県道を時速50~60キロで進行中、団地支道から県道に流失した雑排水が凍結していたため、対向車と衝突し、負傷した事例。路面の状況等に注意を払うべき義務違反により、被害者に50%の過失相殺をした。
大阪地裁 昭和59年5月31日判決
アーケード新設工事のため支柱を建てる基礎穴の掘削を行い、その上に鉄板、ゴムマットを載せていたところ、自転車搭乗の被害者がその上ですべって転倒し傷害を負った事故。工事施行業者に、ゴム板がすべりやすくなった状態にあることを歩行者等に周知させる等の注意義務違反の過失がると認めた事例。なお、歩行者の多い商店街の通路を自転車に乗って走行するにあたり、道路端の雨ですべりやすくなっているゴム板の上を自転車に乗ったまま通過しようとした被害者に10%の過失相殺をした。

③「路上障害物に関する事故」

東京地裁 昭和54年12月27日判決
歩道上に立てられた金属支柱の上部に取り付けられた合成樹脂製電話ボックスの扉がオートヒンジ(自動閉鎖装置)が故障したため、全開状態になっていた扉に、夜間歩道上を自転車で走行してきた被害者が衝突し、ハンドル操作を誤って転倒、受傷した事故。電電公社の電話ボックスの管理に瑕疵があるとして、同公社に国家賠償法2条の責任を認めた。ただし、被害者にも前方注視を怠った過失があるとして、75%の過失相殺をした。
浦和地裁越谷支部 平成元年3月23日判決
午後7時過ぎ、夜間照明のない幅員3mの簡易舗装の町道を73歳の被害者が原付自動車を運転中、道路に敷設してあった鉄板(厚さ2センチ)にハンドルをとられ、水田に転落し、窒息死した事例。被害者は鉄板が敷かれていることを知っており、バイクで通ると危ないともらしていたのであるから、本件箇所ではバイクをおりて歩行するなどすれば事故は防げたとし、40%の過失相殺をした。
神戸地裁 平成2年6月9日判決
12月14日午後8時45分ごろ、原付自転車搭乗の被害者が市道上に放置されていた凍結防止剤の袋に乗り上げて転倒し負傷した事故。障害物袋の放置または移動について市の国家賠償法2条1項による管理瑕疵責任を認めた。他方、被害者は前方を注視せず袋の存否に気づかないまま乗り上げたほか、制限速度時速30キロを超えた40キロで進行していたとして25%の過失相殺をした。
大阪高裁 平成6年12月13日判決
6月18日夕方午後5時30分ごろ、道路拡張工事の市道で、撤去前の電柱に普通貨物自動車が衝突し、運転者が負傷し、車両も損傷した事例。現場は一直線で見通しがよく、前方を注視していれば気づき得たとし、50%の過失相殺をした。

④「落石に関する事故」

秋田地裁 昭和45年3月30日判決
国道に崖上から大小約20個の岩石が路上に落下、直系約60~70センチの石が自動車にあたり、同車が約25m下の砂防ダムに転落し、負傷した。被害者の過失相殺なし。
福岡高裁 昭和46年3月25日判決
午前1時ごろかなり激しい降雨の中を自動車が県道を通行中、崖崩れの土砂に押され、筑後川に転落し、死亡した事案。被害者は、事故現場にさしかかった際、すでに道路一面に崖崩れの土砂、岩石が堆積されていたのに、それを無視して堆積上に車を進入させた。被害者に50%の過失相殺を認めた。
大阪高裁 昭和49年1月20日判決
午前11時10分ごろ、自動二輪車が、後部座席に同乗者を乗せて県道を進行中、山肌壁面より剥離、散乱していた拳大から直系20センチの石塊のうち数個に乗り上げてハンドルの自由を失い、川に転落し、同乗者死亡、運転者負傷した事案。運転者に前方不注視、運転操作の誤りがあったことから、60%の過失相殺をされた。

⑤「道路崩壊に関する事故」

高松高裁 昭和43年10月1日判決
午後2時ごろ、木材を積載した貨物自動車が国道を進行中、未舗装の砂利敷で、幅員3.2~3.7mの道路が90センチ余りを残して川寄りに長さ9.1mにわたって崩壊。その結果、貨物自動車は約20m下の川床に転落し、3名が死傷した事案。運転者の過失相殺なし。
静岡地裁 昭和55年4月25日判決
豪雨による土石を伴った大量の雨水が通水溝の通水を妨げたことにより、道路の盛り土部が流出、被害車両の通過により陥没崩壊し、同車が押し流され、運転者が溺死した事例。事故地点は規制区間に含まれていないが、被害者がその手前の規制区間の通行規制を無視ないし見過ごしたことが事故の一因として、40%の過失相殺をした。

⑥「配水施設の不備に関する事故」

⑦「路肩部分で起こった事故」

金沢地裁 昭和49年11月20日判決
午前9時30分ごろ、コンクリートミキサー車が県道(定期バスも進行し、常時大型車も通過していた)を通行し、道路左に寄せて、追越車を通過させた際、突然、路肩が崩壊し、川に転落、運転者が死亡した事案。運転者に過失相殺なし。
新潟地裁高田支部 平成6年9月22日判決
積雪期の午後6時ごろ、先行車両を追い抜こうと路肩を走行していた原付自転車が路肩に堆積していた厚さ3センチの泥土にハンドルをとられて転倒し、大型貨物車に轢かれて死亡した事例。道路状況に応じて適切な方法で運転すべき注意義務を怠った過失ありとして、70%の過失相殺をした。

⑧「道路構造に起因する事故」

神戸地裁姫路支部 昭和60年10月28日判決
午後4時、自転車で国道を走行中、取り付けが悪く車道にはみ出している鉄板製道路標識に衝突して負傷した事例。被害者に前方不注視ありとして30%の過失相殺をした。

⑨「橋梁の欠陥に関する事故」

東京地裁 昭和42年3月27日判決
午後11時30分ごろ、普通乗用自動車が国道を進行、橋の左側欄干の始端の親柱(道路左側部分の中央を直進すると正面に突き当たる位置)に衝突、川中に転落し、4人が死傷した事故。過失相殺なし。
福岡地裁 昭和49年1月29日判決
午前零時20分ごろ、普通乗用自動車が国道路肩部分を進行、路肩部分の尽きる橋際から転落し、死亡した事故。被害者に前方不注視の過失ありとして、70%の過失相殺をした。
大阪地裁 平成12年8月8日判決
午後7時20分ごろ、急に幅員が80センチ欠落した形状になっていて、欄干標識等の設備もなかったため、自転車が水路に転落し、負傷した事故。前照灯をつけていなかった過失により、被害者に70%の過失相殺をした。

⑩「側溝等の蓋不備に関する事故」

岡山地裁倉敷支部 昭和57年2月4日判決
夜間に、路面からほぼ垂直に少なくとも10センチていど突き出ていたマンホールに乗り上げて衝撃を受けた原付自転車搭乗の被害者が、ハンドルをとられて路上に転倒し死亡した事故。当マンホールの浮き上がりを放置していた県に道路の設置管理の瑕疵を認めた。なお、被害者については、道路状況に応じて適切な方法で運転すべき注意義務を起こったとして、20%の過失相殺がされた。
京都地裁 昭和58年6月8日判決
市が発注した府道の下水道工事の請負業者が、工事後の道路の仮舗装を十分にしなかったため、道路中央のマンホール周辺に幅約車2台分、長さ約1m、深さ約0.1.ないし0.15mの窪みを生じさせ、マンホール部が約0.1~0.15m地上に突出した状態になり、同箇所周辺何らの表示や安全棒も設置されぬままに放置されていたところ、被害車の底部が同マンホールに接触し損傷した事故。道路管理上の瑕疵を認め、道路の管理費用負担者である市に国家賠償法2条1項、3条による責任を認めた。ただし、同事故について、平均より車高が低く、エンジンが裸のまま露出し、シャーシ骨もないという特殊性をもつ被害車の場合、通常の車と比較して障害となる危険物が多いから、運転者は、前方を注意し、障害物との接触を避けうる速度と方法で運転すべき注意義務があるとして、これを怠った被害者に、60%の過失相殺をした。
名古屋地裁 平成9年4月30日判決
2月6日午後6時ごろ、道路(幅員2.6m)脇の側溝(幅員0.4m)に設置されていたコンクリート製上蓋の穴(自転車の落下した部分のみ、幅0.5m長さ0.6mの空間―穴があく形―となっていた)があいた部分に自転車の前輪が落ち、転倒して、負傷した事故。道路管理者(市)に道路設置管理の瑕疵を認め、国賠法2条の損害賠償責任を認めた。他方、被害者である自転車搭乗者についても前方を注視するなど自転車の安全走行の注意義務に違反した過失があるとして、40%の過失相殺をした。

⑪「ガードレールの欠陥に関する事故」

神戸地裁 昭和52年6月21日判決
国道のガードレールの不備が客観的に道路管理者の管理行為が及び得ないような状況でもたらされたという特段の事情のないかぎり、平素の補修態勢が講ぜられていたとしても管理の瑕疵を免れ得ないとして、ガードレールの不備に対する国の職員の認識ないしは過失の有無を問わず、道路の管理に瑕疵があったとした事例。

⑫「照明施設等の不備に関する事故」

京都地裁 昭和56年5月27日判決
原付自転車に乗っていた被害者がタクシーに道を譲るため道路左側へ寄り、再び道路中央へ戻ろうとしたところ、電話線用電柱に支線(ワイアーロープ)に引っかかり転倒し受傷した事故。電電公社に、支線は電柱倒壊防止のためであり、設置位置についても問題がないことを理由に、支線設置保存の瑕疵を認めなかった。

⑬「道路工事の欠陥に関する事故」

大阪地裁 昭和41年6月10日判決
1月の午後6時ごろ、原付自転車を運転して、府道を進行中、道路中央部の路面段落(現場付近は道路舗装工事施工中、北側は未舗装で、舗装の完成した南側より5~7センチ低い)に前輪を落として、転倒、後続車に轢かれて死亡した事案。昼でも認識困難なことを理由に、被害者の過失相殺なし。

⑭「その他」

大阪地裁 昭和53年2月23日判決
高速道路上における濃霧発生による追突事故につき、道路管理者たる日本道路公団に、事故発生を予測し、かつ、その防止のため必要な通行止めまたは制限をしなかったとして、国家賠償法2条1項の責任を認めた事例。上記事故について、漫然追越車線中央部に2、3分間も停車し続けた追突された側である被害者に10%の過失相殺を認めた。
鳥取地裁 昭和56年12月17日判決
刈り取って集積していた草が燃えて濃煙が県道を覆っていたため、炎と煙を避けて対向車線を進行した加害車と対向の被害車が衝突した事故。河川敷で刈り取られた草が、その場に置かれたことにより県道上における交通の安全に対する危険性が発生したとはいえないとして、県に道路管理の瑕疵を認めなかった。
宇都宮地裁 昭和56年12月24日判決
ガードレールで車道と仕切られた幅1m、地下道部分の下り勾配5.51%の自転車専用道路(行政法規の許容限度に合致している)で、自転車が転倒し搭乗の主婦が死亡した事案。当該自転車道の設置保存に通常の安全性を欠いていたとは認められないとし、瑕疵を認めなかった。
東京地裁 平成8年9月19日判決
午後11時45分ごろ、第4車線、第5車線上の違法駐車状態が事故の1年6か月前から続いていたし、本件事故の3か月前にも夜間トレーラーへの追突事故があった場所で、片側5車線道路の第4車線に駐車していた4~50台のトレーラー(コンテナ積載用台車)の列の最後尾にヘッド(牽引車両)を切り離して駐車中のトレーラー後部へ、普通乗用車が衝突し、運転者・同乗者の2人が死亡した事案。都に国家賠償法2条の責任を認めたが、トレーラーの所有者に自賠法3条責任、運転者の被用者(ママ)の民法715条責任を認めた。そして、前方注意を怠り、最高速度時速50キロのところ20キロ超だった被害者についても、運転者に30%、前方不注視を正さなかった同乗者に公平上10%の過失相殺をした。
千葉地裁 平成10年11月24日判決
双方の道路ともに黄色点滅信号となった交差点での出合頭衝突事故。事故は双方がその徐行義務を怠ったことによって発生したものとし、黄色点滅信号であることを認めたが減速することなく時速42~45キロの速度(制限速度時速40キロ)で進入した被害者の過失を40%とした。なお、交差点の双方の道路をともに黄色点滅信号とすると、双方において「他の交通に注意して進行することができること」となって、それは、たとえ双方黄色点滅信号の交差点が交通整理の行われていない交差点と解され、そのため、車両が交差点に進入するに際しては道路交通法によって種々の注意義務が課せられるとしても、何ら信号機の設置されていない交差点に比べてかえって危険な状態となるのである(注:黄点滅側は交差道路側を赤点滅だと予想し、停止してくれるものと期待してしまうから)。以上の点を総合考慮すると、本件交差点において主道路及び従道路をともに黄色点滅信号とすることは相当でないというべきであって、一方の道路の信号を黄色点滅とする以上、他方の道路の信号をも赤色点滅とすべきである。そうとすれば、本件交差点の主道路及び従道路の信号をともに黄色点滅とした被告千葉県の管理には本件交差点の信号が通常有すべき安全性を欠いていたものとして国家賠償法2条1項にいう「瑕疵」があったものというべきである。

【17・04・02】判例を3つ追記した。
【17・04・05】判例を10追記し、「道路上の欠陥は事故被害者側の負担にされやすい」という章を新たに加えた。
【17・04・08】判例を5つ追記するとともに、営造物責任の要件及び費用負担者について加筆した。
【17・04・11】判例を1つ追加した。
【17・04・13】判例を7つ追加した。
【17・12・15】「ニッポンの裁判」からの引用文を加えた。

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