保険会社の提示額をまずはみてからにしよう
「保険会社の提示額をまずはみてからにしよう」と提案する弁護士がいます。それも交通事故が得意という看板をあげていてです。ある弁護士によれば、この手の弁護士は避けたほうがいいとのことです。
これは積み上げ方式による示談交渉ということで、損保の最初の提示額を出発点にして、そこからいくら譲歩させたかというかたちで、その成果が可視化できるプラス面があります。
が、もともとの出発点が損保の低い提示額にあるので、そこからいくら積み上げていってもこちらの希望額に届きません。それがあきらかなマイナス面です。
和解を勧めるための材料にされてしまいがち
問題はそれだけにとどまらない。この交渉が決裂して、裁判になったとしましょう。裁判官は交通事故などたいした事件とは考えていないので、めんどくさいなあ、早く終えたいよと、早期の決着、すなわち和解を勧めてくることが多い。それが現実です。
判決だと判決文を書かなきゃいけなくなるなどそれこそ大変だからです。和解ならそれをしなくていい。で、「話し合いはしましたか」と聞いてくる。話し合いをしましたが…とでも言おうものなら、待ってましたとばかりに、和解をすすめてきます。そういう裁判官が多いとのことでした。
和解案を蹴ると裁判官の心証が悪くなる
つまり、和解をすすめる材料にされてしまうのです。その結果、本来の自分が妥当と思える額よりも小さな額で和解させられてしまう現実があります。
そんな和解など蹴ったらいいのでは? 裁判官が和解案を出してしまうと、なんだ、せっかく和解案を考えてやったのにとなって、心証を悪くする。そうはかんたんに蹴ることができないのが実情です。
つまり、最初の損保の提示額をみてみましょうは、そういう意味で事故被害者にとって不利に作用する可能性があること。そのことを覚えておいたほうがよろしいとの話でした。
- 263ページ
- GU企画
- 2001/5/
最初から白旗を掲げての示談交渉ではね
この話について、弁護士でもない私にはどこまでが正しいのかはわかりません。が、一般論として、金銭交渉で低額を出発点にした場合、どうしてもその方向に引きずられる傾向がある。それはたしかです。
やはり、最初に、ドカンと、といっても正当な裁判基準ということですが、それで請求してくれる弁護士でないと、不安になりますね。最初から損保に譲歩する必要などないからです。最初から白旗を掲げての示談交渉では、困ります。

最初から白旗掲げてくる困った労働組合
実はその後これと同じ戦略でやろうとした件に出くわしました。交通事故案件ではなく労働事件です。私が会社と争うことがあり、そのときに労働組合の助けを借りたのです。そのときの大労組幹部がこれと同じセリフ、すなわち「会社の提示額をまずはみてからにしよう」でした。
おい、おい、これはあれかよ。最初から白旗を掲げての交渉なのかよ。それで、その幹部と揉めて、けっきょくはその大労組を脱退することになりました。ふだんは護憲だ、第9条を守れだなどと威勢のいいことをいっているあの労働組合ですよ。口だけで行動がない。そういう労働組合が団交の交渉人になってしまうと、こちらに不利なことまで口にします。いわばオウンゴールをやらかす。それが、のちのち裁判でも悪影響を及ぼすこともありえる。
会社側弁護士は労働問題専門だからどこの労組が闘ってくる厄介な奴か、口だけで闘わない、テキトウな奴なのかを熟知しています。後者の、そういう労働組合をつけてしまうと、会社側はホッとし、それからは俄然強気になったのがよくわかりました。後日談でした。
提示額をまずはみてからにしよう――が交渉のうえでどれほどこちらに有害なのかをご理解いただけたかとおもいます。