自賠責に休業損害を請求するとき、どんな書類が必要か

休業損害を請求してくる愉快な人たち

調査員時代に休業損害調査をけっこうやった。調査会社に来るのはふつうのサラリーマンとかはあまりなくて、ちょっと変わったのばかりだった。たとえば風俗業である。デリヘルとかソープランドとか、そこに勤める女性の休業損害だ。収入の額もそうだが、本当にそこに勤めているのかあやしいのもあるから、かなり徹底的にやることになる。こんな調子である。

いや、わたし、本当に勤めていましたよ。これが私の源氏名で、(デルヘル雑誌を持ってきて)ほら、これが私よ・・・と渡されたデリヘル紹介雑誌に載っていたのが顔がモザイクになっていたりする。モザイクかかっているから、これじゃわからんでしょ。だったら、客で来てみてよと怒り出す。いや、そんなわけにいかないですよ。・・・といったようなやりとりになる。

もっとすごいのもあって、昼間は建設作業員、しかしこちらは副業だということで、本業はパチプロなのだそうな。副業が終わったあとの夕方からはパチンコ屋にいりびたっていて、パチンコからの収入が月に平均して100万円もあるのだとおっしゃる。いや、すごいな。私も弟子入りさせてくんないかしらなどとジョーダンのひとつも飛ばしながら、ところで、収入が100万円あったことの証明が、ノートの切れはしに書かれた自筆の数字だったりする。こんなんじゃやっぱりダメでしょ。もっとちゃんとした資料でないと。そのように私が説明しても、おれがウソ書いているわけないでしょなどと言ってまったく納得せず、イライラして、最後には怒りだす。けっこう、こういうおにいさんやおねえさん、おばちゃん、おじさんが多いのだ。逆の立場だったら、あなたさ、ノートの切れはし示されて、それで納得して月に100万円も支払う気になるのかと、こっちも頭にきて、面と向って、そう言ったこともある。

休業損害を請求するために書類は自筆ではダメなのだ

余談はこれくらいにして、表題にある本論にはいろう。休業損害とは、交通事故によって怪我をした結果、仕事ができなくなり、その間の補償をすることである。本来なら、休んでいた間にどれくらい減収になったのかを証明するべきなのだが、この証明はときにむずかしいことがあるため、便宜上、事故前の3か月間の収入をもとに計算する。その収入については書面で立証すべきであって、口頭で説明しただけではもちろん足りない。その書面も、私に会う1時間ほど前に急ごしらえで書いたようなノートの切れ端に書かれた自筆の数字ではダメなのである。賢明なる読者諸氏には蛇足的説明だった。自筆がどうしてダメなのかは言うまでもないと思うので、説明は省く。

自賠責における休損立証書面一覧

下の表は、自賠責に休業損害を請求するばあいの立証書面の一覧である。

職業別休損立証書面
休業損害証明書
源泉徴収票
確定申告書
所得証明書
賃金台帳
支払調書および明細書
職業証明書
住民票

給与所得者
実額認定 ①②+(⑤)
定額認定

日雇い・アルバイト
実額認定 ①+(②or③or④)
定額認定
自営業(青色申告)

実額認定 ③(確定申告書付表を含む)
定額認定
自営業(白色申告)
実額認定
定額認定
自営業(その他)
定額認定
個人タクシー
(協組加入)
実額認定 ①+(③)
(協組不加入)
実額認定
全建総連組合員
実額認定 ①+(③)
自由業(生保外交員)
実額認定 ①⑥
定額認定
プロスポーツ選手、タレント、弁護士等
実額認定 ③or⑥
開業医、画家等
実額認定
家族専従者(青色申告)
実額認定 ①③
定額認定
家族専従者 (白色申告)
定額認定 ①or⑦
家事従事者
定額認定 ⑧(必要に応じて)

*定額とは日額5700円のこと。

さて、休業損害において「証明」とはどういうことなのか、以下の相談から理解していただきたい。

(相談)

自賠責において、給与所得者と家業専従者の休業損害認定の違いについて質問です。給与所得者は休業損害証明書に記載の欠勤日数で認定されるのに対し、家業専従者は実通院日で認定されるのはどうしてですか?

(回答)

実質面から考える

自賠責における休業損害認定の基準は、相談者の言うとおりである。

どうしてそんな違いがあるのかというと、給与所得者の休業日数は会社だと総務課の担当者が休業損害証明書に記入し証明するため、いわゆる第三者による真実性の担保が期待できるからである。しかし、家業専従者については休業日数を家業専従者自身かその家族が証明することになるため、第三者による真実性の担保が期待しにくい。したがって、実通院日数などという第三者である病院を介在させることで真実性を担保させているわけである。

平たくいうと、家業専従者の自己申告はぜんぜん信用されていないということだ。主婦や個人事業主も同じである。

ただし、給与所得者であっても小規模の会社や同族会社などのばあいは第三者による真実性の担保が期待できないこともありうる。おとうさんが怪我をして仕事を休み、そのことをおかあちゃんや家族が証明しても、真実性の担保に欠けるのである。。そのような場合は、休業損害証明書及び源泉徴収票以外に、賃金台帳や出勤簿などを要求されるとおもっていただいたほうがいい。

つまり、証明というのは利害関係のない第三者がやってこそ証明になるのであって、それを自分や家族がやったんじゃ証明にならない。
 

形式面から考える

別の角度から言うと、

すなわち、いわゆる証明力の問題である。一般的に公文書は信用も高くしたがって証明力も高いが、私文書は信用が低く、したがって証明力も低い。私文書の証明力を高める方法は第三者を介在させることである。

ここでいう証明力というのは、証拠文書と事実との論理的関連性及び信用性のことである。たとえば給与所得者の休業損害請求の場合、必要書類は原則として休業損害証明書と源泉徴収票である。しかし、これらの書類はいずれも私文書なので、事実と違うことを書こうと思えばいくらでも可能である。にもかかわらずこの2点の書類で休業損害を認めているのは、勤め先はいちおう第三者だし、実際は総務課とか人事課の担当者が休業損害証明書を書き、被害者本人が書くわけではないからだ。すなわち第三者を介在させることで真実性を担保させているわけである。

勤め先が役所だとか大きな会社ほど組織的な分業も成立しており、被害者本人と休損の立証書面の書き手とでは人的結びつきは弱く、そのため立証書面の証明力は高くなる。逆に小さな会社ほど人的な結びつきが強くなり、したがって立証書面の証明力が低くなる。そういう場合は、新たに賃金台帳等を要求して証明力を高める必要がある。
 

主婦休損について

では、主婦についても考えてみよう。交通事故受傷により家事労働ができなかったことをどのように証明することができるか。家族にその証明をさせても第三者性に欠けるため証明力が低い。そこで、事故受傷により家事労働ができなかったことを示すメルクマールとして通院に着目した。というのは、病院という第三者を介在させることで真実性を担保させるためだ。個人事業主の場合も同じである。

自賠責と任意保険の考えは違う

以上は自賠責の取り扱いである。自賠責の特徴はこのように一定の立証書面による支払いであり、上限や定額の規定があることだ。しかし任意保険の場合は、実際の損害額の支払いということになっており、被害者がどこまでそれを立証できるのか、その立証できる範囲で支払うというスタンスであることに注意したい。

保険金詐欺に発展することもある

ときどき、休業損害証明書を勤務先でなく自分で書いてくる不届き者がいる。会社が書いてくれないのでやむを得ずとか何とか言い訳をする。そういう事情があるなら最初にそういえばいいのに、休業損害証明書の筆跡と被害者自身が書いた他の書類の筆跡が同じってことがあって、そこを突っ込むと「やあ、実は・・・」と白状する。さらに突っ込むと実は無職だったりする。これは立派な保険金詐欺である。警察のご厄介になりたいのかと一喝し、保険金請求を取り下げさせたことが何度あったかしれない。

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