【首長族の美少女。ウィキペディアの説明では、「実際には首は伸びておらず、真鍮リングの上圧が顎を引き上げ、下圧が鎖骨の位置を押し下げていることにより首を長く見せている」とあった。たしかにそうなのかもしれない。しかし、このようなワッカを首に何重にもしていることは、人為的にストレートネックを作出していることに変わらないだろう。】
鞭打ち損傷の診察のポイント
先日購入したばかりの「民事交通事故訴訟の実務Ⅱ」の一部だけ読み終えた。読んだのは「交通事故損害賠償における医学的知見」(藤川謙二医師執筆部分)だけである。新人弁護士向けの講演内容を口述筆記したものだった。内容については当たり前のことを当たり前に書いてあるだけで、特に新知見というものはなかった。新人向けなのだからしかたがないか。
ただ、ひとつだけ気になる記載があった。「鞭打ち損傷患者さんの診察のポイント」として、
②主訴の確認
③頸部の運動制限、頭痛の有無
④X線検査・頚椎側面像の生理的前彎消失の有無
⑤神経根部 圧痛の有無、スパーリングテスト
⑥神経学的検査 四肢腱反射、運動機能検査、知覚機能検査、握力測定
⑦合併症の有無
⑧交通事故歴、労災事故歴、スポーツ事故歴、職歴
⑨内科的、外科的既往症
の9つがあげられていた。この9つの中で④の「生理的前彎消失の有無」について気になった。この位置付けについてである。
生理的前彎の消失について
私のところに相談された人の中に、ひどい症状はあるのだけれど、生理的前彎消失以外に画像所見も神経学的所見も異常がないため困っている。それでも後遺障害に該当しないのでしょうか、というものだった。生理的前彎消失以外の他覚的所見がないと、自賠責では後遺障害に認定されませんと答えた。
そう答えたてまえ、「生理的前彎消失」がどのように位置付けられているのかが気になったのである。
この本の中ではこのように書かれていた。
まずレントゲンを側面像で撮ります。頭が載っていますので、正常では頚椎というのは必ず前彎し弓のようになっている。これが正常です。その正常な前彎が、交通事故で鞭打ちに遭うと、消失してくるのです。ストレートになるか、ひどくなると、女性の場合は後彎してきます。前彎しないまでも、ある程度衝撃があった人は、頚椎が不安定なストレートになってくるのです。症状が軽い人は、何となく違和感があっても正常な前彎が残っています。本当に神経症状があったりするような場合、痛みがある場合には、完全に生理的な前彎が消失するということが多い。これは最初の診断する医師側のチェックするときのポイントです。(P83)
【さいとう治療院HPより】
生理的前彎消失に関する有名な論文について
ところで、「生理的前彎消失」については、実は鞭打ち損傷の診察ポイントであることを否定する有名な研究があった。ネットで検索してみたら、事故110番の宮尾氏がyahooの掲示板でこのように紹介されていた。
現状の後遺障害認定では、生理的前弯の消失は、余り重視されていません。
Nliro調査事務所の顧問医で慶友整形外科病院副院長の平林洌医学博士がオロソペディクス( Orthopaedics )で発表した論文によれば、受傷後2週間以内のTCS患者506名と、過去に頚椎疾患の既往歴や外傷歴のない無症候性健常者49名を比較することによって、代表的なXP 画像所見である、生理的前弯の消失を説明しています。
生理的前弯の消失とは、XP上、頚椎はやや前に傾いている形状を示すのですが、これが突っ立った状況のことです。交通事故受傷で頚部が過伸展・過屈曲の衝撃を受けると、頚部周辺の軟部組織の筋肉や靱帯に損傷を受ける可能性があります。これらの損傷によって、筋肉等の緊張状態が生まれ生理的前弯が消失するものと考えられています。
ところが、無症候性健常者でもこの生理的前弯の消失が多数認められ、特に20代の女性には全体の70.7 %が非前弯型であったと発表されています。これを根拠として、有効な他覚的所見ではないとの判断がなされているのです。尚、文中のTCSとは、外傷性頚部症候群のことです。
有効な他覚的所見として捉えられないことは確実ですが、この所見が直ちに非該当につながるのではありません。他の頚部神経学的所見で自覚症状を説明することが出来れば、14級9号は認定されています。この点は、安心して下さい。
ちょっと気になったのは、TCS患者506名に対して比較対象群である無症候性健常者がたったの49名とあったこと。比較対象群もほぼ同数でないと比較検証できない(しても意味がないということ)はずなので何かの間違いではないかと思い、原文にあたってみた。Orthopaedics12「外傷性頸部症候群診療マニュアル」の中の、松本守雄、藤林祥一、平林洌論文である。
TCS患者506名に対して、無症候性健常者は497名であった。論文の結論は以下のとおり。
ボケ気味の図でわかりにくいかもしれないが、上の図をみると、無症候性健常者の女性の場合(control群)、非前彎型が10代で63~4%、20代で70.7%、30代で40%くらいだ。無症候性健常者の男性の場合は、20代が50%くらいだが、その他の年齢分布ではいずれも30%台、とくに40代、50代では15%くらいである(以上、見た目の数値で厳密な数値ではない)。つまり、女性の場合だと、何も症状がなく患者でもないにもかかわらず生理的前彎を消失しているがふつうにみられるということになる。
その結果、生理的前彎を消失していても、有効な他覚的所見ではないとの判断をしているわけである。
さて、藤川謙二医師の判断と、平林洌ら医師の判断は矛盾しているようにもみえる。(つづく)
後半部分を書き加えるつもりですが、わかりやすくするために全文を書き改めるかもしれません。