後遺障害における画像読影ができたらどんなにかいいけれど、それと成功報酬型とは微妙な関係にあるかもだ

画像読影を「売り」にしている先生たち

画像読影・後遺障害という単語でネット検索すると、弁護士や行政書士のサイトがいくつもひっかかる。画像読影が正確にできるかどうかってことはとても大事で、事故との因果関係や後遺障害の等級認定に大いにかかわってくるため、その読影ができることを「売り」にしたいらしいサイトもいくつか見つかった。その代表例は某NPO法人だろう。

交通事故の後遺障害は、ムチウチであっても、画像所見が全てです。であれば、CT、MRIの画像を読影する能力が必要となります。 画像のCDを持参して、法律事務所に出かけます。このCDを、事務所のモニターで、きちんと説明できる弁護士は本物です。

この分野の先覚者だけのことはあって、CT、MRIの読影はできて当たり前、XP画像の読影についてはかんたんすぎて、言及さえしていない。ぼくは皮肉で言っているのではない。だれも踏み入ったことのない未知の分野にこのNPO法人の代表者M氏はひとり踏み入り、この分野を切り開いてきた。いわばパイオニアなのである。だから、氏の発する言葉はすごく重い。

画像読影ができるようになりたかったが、凡人のぼくには無理だった

ぼくもM氏のような「本物」になりたくて、画像読影ができたらどんなにかいいだろうと思い、そのための画像集を何冊か買ったし、社内の医療講習にはできるだけ参加もしたし、社外の医療研修ではもっとも有名な医研センターの医療研修も可能なものは全部参加した。病院の診察室に行ったら必ず置いてある画像を見るためのモニター、専門用語では「シャウカステン」と言うのだけれど、画像読影ができるようになったあかつきには、いずれこの「シャウカステン」を購入して、その前で画像を読影しているらしき自分の姿を夢想したことさえあった。

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しかし、けっきょくは断念した。放射線科医でも10年くらいの経験を要するといわれる画像読影。ぼくよりも画像に日常的に接する機会の多い整形外科医でも、誤・読影がかなりあることはよく知られたことだった。「画像・読影力」で検索すれば、読影がいかにむずかしいことなのかの医者の嘆きの声をいくらでも拾ってこれるし、アマゾンの画像独習本のカスタマーレヴーには、「実は医者になって20年にもなるのだが・・・」などと、読影ができないことの医師による告白を見つけることも容易にできる。ある弁護士に言わせるなら、MRIの読影ができる弁護士がもしいたら、それはスーパーマン弁護士なのだそうだ。

現に、医療調査をやっていくうちで、誤・読影でないだろうかと疑われる例にぼくは何度も出くわした。放射線科医でもないこのぼくが、仕事の片手間に画像をみて、画像集と見比べて、それだけでとても読影ができる域に達することはないと思った。社内の講習にも医研センターの研修にもなるべく参加したことは先に書いた。顧問医は症例ごとに画像読影を行なったが、聞き漏らしてなるものかと一生懸命だった。しかし、正直に告白すると、ぼくにはよくわからかった。もし「画像読影」というテーマ自体の研修があったならどんなにいいかとも思ったが、それはなかった。どうしてそういう研修がないのだろうかと、その時点ではわからなかったが、今ならなんとなくわかる。画像読影は奥が深すぎて、数日の研修ではどうにもならない性質のものだからなのだ。

スーパーマンでなく、ただの凡人にすぎないぼくには画像読影なんていまも全然できないし、そのような環境下にもないため、努力をすることも断念したわけである。だから、ぼくの鑑定眼などまったく当てにならないことをぼく自身がよく知っている。医者でも誤・読影がかなり頻繁にあることはよく知られたことだから、画像読影は、スーパーマンは別にして、自分が凡人なら、やはりその道の専門家である放射線科医に任せるべきなのだ。

近藤誠氏の話

そのことを改めて再確認させられた本を発見したので、ご紹介しよう。その本というのは放射線科医である近藤誠氏の「免疫療法に近づくな」という本のことである。

この本では、免疫療法がいかに危険で、かつメラノーマ(悪性黒色腫)以外に実効性のない治療方法なのかを立証し、免疫療法一般を批判した本なのだが、その一節に、丸山ワクチン批判の箇所がある。丸山ワクチンはがん治療に有効だと現在も思っている人がたくさんいるし、丸山氏自身も自分の本で、がん治療に有効だという立証例をいくつも紹介している――らしい。

その立証例として挙げられたものの中に丸山ワクチンが有効でガンが消失したとする証拠として画像をいくつかあげているのだが、その読影によるガン消失所見に対して、近藤氏はそのいんちきぶりを批判しているのだ。その箇所を引用する。

では丸山のいう「成功例」とは何だったのか。前掲書に載っているケースの幾つかを分析してみましょう。ケースを恣意的に選んだのではない証拠に、前掲書の巻頭口絵でレントゲン写真が供覧されている2つのケースを取り上げます。

ケース1
肺がん、78歳、男性。口絵に胸部レントゲン写真が掲げられ、左上肺野の陰影(腫瘍)が3ヶ所あるとして、3本の矢印が陰影を指しています。ところがそのうちの1本が指すのは、左第一肋骨の軟骨部の石灰化です。ワクチン使用後のレントゲン写真も掲げられており、陰影が全部消えたとしています。しかし、レントゲンの撮影条件が、ワクチン使用前のそれとは異なり、レントゲンの曝射量が多く(肺が黒く写って)陰影の判読が困難になっているのです。それでも目をこらしてよく見ると、腫瘍が残っているように見えなくもない。

このケースは九州大学の外科で治療され、レントゲン写真もそこから提供されたようです。結局、丸山も九大外科も、レントゲンの読影能力に欠けていたのです。

ケース2
肺がん、67歳、男性。胸部レントゲン写真が掲げられ、右下肺野に陰影があります。本文では、これは肺がんの所見で、丸山ワクチン使用後のレントゲン写真では、陰影が消えていると書かれています。

しかし、丸山ワクチン使用前のレントゲン写真に写る陰影は、諸処でレントゲン線がよく通過しており、がん細胞がぎっしり詰まっているはずの(腫瘍の)像とは言いがたい。限局的に生じた肺炎を、肺がんと見誤ったものでしょう。肺炎であれば、何もしなくても消えることはよく見られます。(P72~73)

近藤氏は別の本でも、画像読影がいかにマニアックな分野なのかを人相見にたとえていた。すなわち、画像の陰影をみて、こいつは悪人顔だなあと思ったら悪性、善人顔だなあと思ったら良性だと判断しているのが医学会の実情なのだと言っていた。つまり、画像読影は決して科学的とはいいがたく、相当な経験を積んだ上での主観の産物、職人芸なのだ。だから、経験不足による誤・読影がよく起こる。

ロンブローゾの生来的犯罪人説

人の顔を見て、こいつは善人か悪人かと決め付けることで思い出したのは、大学の刑法の時間に紹介されたロンブローゾのことである。刑法の講義内容については何も思い出せないが、これだけは思い出せる。インターネットで検索してみたら、ロンブローゾのことがこのように紹介されていた。

生来的(生来性)犯罪人説

ロンブローゾは身体的特徴として「大きな眼窩」「高い頬骨」など18項目を、また精神的特徴として「痛覚の鈍麻」「(犯罪人特有の心理の表象としての)刺青」「強い自己顕示欲」などを列挙した。彼によれば、これらの特徴は人類よりもむしろ類人猿 において多くみられるものであり、人類学的にみれば、原始人の遺伝的特徴が隔世遺伝(atavism)によって再現した、いわゆる先祖返りと説明することができる。また、精神医学的見地からは悖徳狂と、病理学的見地からは癲癇症と診断される。そしてこれらの特徴をもって生まれた者は、文明社会に適応することができず犯罪に手を染めやすい、即ち将来犯罪者となることを先天的に宿命付けられた存在であると結論付けた。これが「生来的(生来性)犯罪人説」である。

こんな思想が当時犯罪取締りに有効とされていたことに驚いた方がおられるかもしれないが、生来的犯罪説の考えの持ち主は今もけっこういて、親の育て方が悪いから犯罪者になるのでなくて、その子のもって生まれた素質で犯罪者になるかどうかが決まるのだという考えはなくなっていない。ぼくは悪人顔・善人顔と、非科学的なところの共通点から、ロンブローゾの説を思い出したのである。

画像読影がいかにあてにならないかをいうつもりで記事を書いていたのだが、話があらぬ方向に行ってしまったので本論に戻ろう。

近藤誠なんて偏向していると思われた人がいたかもしれない。あるいはがんのばあいはそうかもしれないが、がん以外ならばという疑問をもたれた方がいたかもしれない。そう思われるなら、こちらはどうでしょうか。

藤岡睦久氏の話

獨協医科大学名誉教授、塙田放射線科クリニック院長藤岡睦久氏の実地医家画像診断協力推進協会サイトより

単純X線写真の診断能はまず読影者がどれだけ沢山の異常所見を知っているかということです。正常の写真をいくら沢山見ても診断能はあがりません。そして丁寧に過去の写真と比較することです。この二つのことを日常診療に忙しい実地医科の先生がなさること自体がはじめから無理なことです。諸外国ではX線写真の読影は放射線科医とのダブルチェックが原則です。

なお、X線画像の読影がどうして困難なのかの原理的説明については不可能図形,多 義図形 とX線 読影の対比考察が詳しい。

骨折を見逃した整形外科医

相互読者になっていただいている方から以前聞いた話だけれども、「鎖骨遠位端骨折後の変形治癒」で初診医は骨折に気づかず、その後専門医によって骨折が判明したというケースがあった。こういう、骨折があるにもかかわらず見逃される話はよく聞く。それもふだん画像を見慣れている整形外科医などその道の専門とふつう思われている医師が気づかず、その後放射線医が気づくというのがよくあるパターンである。

整形外科医でも見逃すのに、ぼくらのようなド素人が画像読影をし、これは事故との因果関係があるとか、これは後遺障害何級に該当するかなどと評価することはやはりよほど慎重であったほうがいいだろう。世の中には独学で画像読影ができるようになったスーパーマン弁護士やスーパーマン行政書士がきっといることだろう。しかし、多くはそうではない。もし、読影ができることを「売り」にしている先生がいたなら、スーパーマンかもしれないが、大ウソツキか勘違い男(女)かもしれない。ぼくなら、後者のふたつではないかと、まずは疑ってしまう。その理由については、これまでたくさん書いた。

成功報酬型とのあやしき(?)関係

話は変わるが、後遺障害に関して成功報酬型という料金の請求のしかたがある。典型的なそれは、後遺障害に認定されたら報酬が発生する。認定されなかったら、一切発生しない。成果があがらなければ請求しないというのだから、実に分かりやすい。しかし、成果があがらなければそのために要したテマヒマの回収ができないわけだから、すべての後遺障害の申請を受けるわけにはいかなくなる。取捨選択は避けようがないだろう。極端な言い方になるが、確実に認定されると思われるものだけを受任することになるだろう。中には、うちで後遺障害の申請をすると、70%とかの高い認定率をうたい文句にしている先生もおられる。そういう高い認定率を維持したいなら、なおさらその傾向が強くなるだろう。取りっぱぐれを極力なくすために、その見極めをしたいがために、自分で画像読影がますますしたくなる。

問題は、その取捨選択の過程で弾き飛ばされたものである。ある後遺障害を専門にしている損保あがりの方が、そういう弾き飛ばされたものの依頼がよく来るとおっしゃっていたからである。

どうみても、ハシにもボウにもかからないものはある。とりあえず申請してみよう、ひょっとして万に一つも認定されるかもしれないなどと安易な気持ちで申請しようとする人が必ずいるからである。そういうばあいは、ぼくも画像読影ができるといいなあと思うし、排除したいと思う。ただ、そういう人は、自覚症状や通院歴、治療内容からだけで、あるていどは見極めがつくし、あるていど排除できるのではないかとも思う。

まとめ

成功報酬型が悪いというわけでは決してない。被害者は金銭負担がないから、とてもいいことだ。しかし、そういういいところもあれば、落とし穴もある。その特徴をよく吟味して利用すべきということだ。とりわけ完全成功報酬型は依頼する側にとって認定されなかったばあい報酬を支払わなくてもいいという、依頼者にとってまことにムシのいい依頼のしかただが、うまい話ほどリスクも大きい。だから、注意すべきだろう。

スーパーマン弁護士やスーパーマン行政書士に依頼するならともかく、画像に異常所見がないから後遺障害に認定されないともし言われても、そこであきらめるのではなく、ほかの専門家にあたるべきだろう。セカンド・オピニオンを検討すべし。

念のため最後に書くが、画像読影ができるための努力など無駄だということでは決してない。大いに努力すべし。スーパーマンになれるかもしれないし、なれなくても、医師面談の際の基本的知識として有用だからである。

医師面談になれていなかったころ、画像を前にして、医師から頚部Cの3/4に異常があるでしょ、などといわれたことがある。それがどこだかわからず、知ったかぶりして、「たしかにそうですね」と答えたが、内心は自己嫌悪を陥るほど、恥ずかしかった。そういう経験がぼくにはあるからである。しかし、中途半端にやって、自分は有能だと勘違いすることほど迷惑な存在はない。ぼくのような凡人なら、画像を読み取る能力の向上を図るよりも、画像を正確に読み取る能力を持っている医師の情報収集に時間をかけるべきだろう。

(追記)16・4・23
ダメだし追記。

井上久「医療審査「覚書」」(P155)で、こうはっきり述べられている。

骨密度検査が発達した現在では、撮影条件の違いや医師の主観により容易に評価が変わってしまう単純X線写真上の“見た目”で判断する慈恵医大式分類やSinghの分類は、骨粗鬆症の重症度の評価としては、ほとんど意義のない、信頼度の低いものと思います。事実、臨床医学の世界で、これらはほとんど使われていません。つまり、単純X線写真による重症度分類(→骨粗鬆症の程度の評価→素因減額率の判断)について、医師に聞いてはいけないということです。

 
単純X線画像でも読影がいかにむずかしいことなのかの例証です。画像読影を「売り」にしている後遺障害専門家には、スーパーマンはいるのかもしれませんが、やはり君子危うきに近寄らずでしょう。いや、そんなことはない、おれは得意だって言われる方がもしおられたら、どんなふうにしてその技術を習得されたのか、ぼくにもぜひ教えてくださいな。

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コメント

    • 凡人
    • 2016年 2月 09日

    とても参考になる記事でした。

    弁護士や行政書士に画像分析の能力が備わっているかどうかと言う点以外にも問題点はあると思います。

    画像診断は医療行為です。
    医師でない者がそれを行えば医師法違反の可能性もあるのではないでしょうか。

    とある弁護士が、交通事故のHPでシャウカステンをバックに説明している写真を載せていたところ、弁護士会から医師法違反を疑われる可能性があるから即刻画像を削除しろと注意されたことがあるという話を聞いたことが有ります。

    某NPO法人は画像分析サービスなる有料サービスを行っていますが、放射線科医が行っていれば問題は無いでしょうが、仮に医師でない者が画像を読み、報酬をもらっているのであればとても危険なものかと思います。

      • ホームズ事務所
      • 2016年 2月 09日

      凡人さん、コメントありがとうございます。

      >画像診断は医療行為です。
      医師でない者がそれを行えば医師法違反の可能性もあるのではないでしょうか。

      まったく気づきませんでした。言われればそのとおりですね。ご指摘いただきありがとう。そういえば、交通事故のHPでシャウカステンをバックに説明している写真を載せていた行政書士が何人かいましたね。弁護士もいたかもしれません。

      某NPO法人については続き話があります。記事で引用したところにつづけて、放射線科医に依頼してもだめ。あの人らは後遺障害の認定基準を知らんから、依頼してもトンチンカンな鑑定をしてきて、85%が無駄になるから、うちらでやりますという趣旨のことが書いてありました。引用文の一部を反転して検索すれば元の文がすぐ見つかると思います。

      M氏の功績は認めるものの、自信過剰ですね。それに加えて、医師法違反の可能性もありますが。自戒の意味もこめて、ぼくも謙虚にならないといけないと思いました。また、コメントしてください。

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