醜状障害と逸失利益

相談例

自賠責より、第8号2号(脊柱に運動障害を残すもの)+第12級14号(男子の外貌に著しい醜状を残すもの)で「併合7級」で認定されました。ところが、逸失利益の計算において「労働能力の喪失率は併合7級への繰上げの前の上位等級の第8級を採用する」との注釈の元に「8級:45%」での計算が保険会社からされました。これは正しいのでしょうか。

現行等級表

障 害 等 級労働能力喪失率
第1級100/100
第2級100/100
第3級100/100
第4級92/100
第5級79/100
第6級67/100
第7級56/100
第8級45/100
第9級35/100
第10級27/100
第11級20/100
第12級14/100
第13級9/100
第14級5/100

minikuihyou

syujoukonn

相談時は、第12級14号(男子の外貌に著しい醜状を残すもの)となっていたが、現行は一部改正により上記図のとおりである。どのように改正されたのかというと、すなわち、

  • かつて存在した男女間の差をなくしたこと。
  • かつては2分類(「著しい障害」と「(ただの)障害」)だった醜状障害を、(外貌に相当程度の醜状を残すもの)という中間項を設けて、9級の規定を新たに設定し、3分類にした。すなわち、かつては「著しい障害」だった「顔面の5センチ以上の線状痕」のみを「相当程度」に評価しなおして、7級から9級に格下げしたことである。

回答

相談者の疑問点

自賠責では7級に認定されたのに、逸失利益については、保険会社からは7級の54%でなく8級の45%で評価された。どうして54%でなく45%なのか。おかしくないか――ということである。もっともな疑問なのだが、必ずしもおかしいわけではない。以下にその理由を述べる。

後遺障害等級は工場作業をもとに作られた

自賠責の後遺障害等級はもともと労災のものを参考にしており、その労災での後遺障害等級は工場での作業上どれくらいの支障が生じるのかで等級を決めたいきさつがある。したがって、心理面についてはあまり考慮せず、運動機能面ばかりに着目したものだ。

醜状障害は工場作業に影響しない・・・らしい

さて、今回の醜状障害についてである。交通事故で怪我をし容姿が醜くなったからといって、手足などの動きが遅くなったり動きが悪くなったりするわけではない。醜くなったことによって工場作業にどんなマイナスの影響があるのか。気持ちの上では影響があるかもしれないが、作業をする上での機能面での影響はない――という考えが、「労働」者の健康面を守るという労災思想の根底にある。

たとえば筋肉がひきつるなどして機能面に影響がある場合を別にすると、醜くなったことと身体機能との間にどんな影響もないと判断されているため、たとえば顔に傷が残っても作業動作に影響がないので労働能力はまったく喪失しないと考えることができる。したがって、逸失利益の損害も発生しないだろうと考えるわけだ。

もちろん現実の労働は工場労働だけでなく、人とのコミュニケーションを基本にした営業や販売などもあるわけで、その場合は労働能力上の喪失が当然考えられてしかるべきである。また、工場作業であっても人と人とのコミュニケーションは大切である。しかし、裁判所は工場労働については労働能力の喪失を一切認めず、事務職や営業職であってもなかなか認めようとしない。さらにそれよりも狭い範囲で、ホステスとかモデルとか芸人などに限定して醜状障害の労働能力喪失性を認めている。その傾向が強い。

また、就職前の子どもについては、醜状障害は就職する際の採用上・あるいは配置上の大きなハンディーだと考えられるため、これも逸失利益ありと考える傾向がある。これが裁判所の「傾向」だ。

裁判所の現状

しかし、現在はもっと大きくとらえようという拡大傾向にあるらしく、

醜状障害による収入減少が明らかであると立証できたとまで言えない場合、収入減少が認められない場合であっても、醜状障害が職業に影響を及ぼすと合理的に判断可能な場合は逸失利益が認められることが多い。
(P268「新型・非典型後遺障害の評価」羽成守編著)。

結論

ということで、醜状障害については基本的に労働能力の喪失をきたさないのが原則である。したがって、併合7級であっても、醜状障害についてはその労働能力の喪失を認めず、第8号2号(脊柱に運動障害を残すもの)の45%だけで評価するということになる。

相談者の事例は、後遺障害慰謝料は7級、逸失利益は8級扱いというものだ。逸失利益も7級扱いにしたいなら、裁判所に醜状障害について労働能力喪失性を認めさせる、すなわち醜状障害によって仕事の上でどれほどの不利益があるのかを認めさせるか、あるいは後遺障害慰謝料の増額を認めさせるかしかないだろう。工場労働だとかなり厳しいが、事務系や営業の仕事なら立証しだいで可能かもしれない。

最後に

人は見た目でなくて中身なんだよとよくいわれる。しかし、そういった本人も現実は中身よりも見た目にとらわれている――ということはよくあることだ。タテマエはともかく、人は見た目に左右されやすい。入社の際の面接のような、第一印象が決定的なくらい重要なときはなおさらそうである。当記事の画像をみてほしい。真ん中の写真なら好印象だが、その他の怒っていたり、仏頂面していたり、あくびしていたりしたなら、受かるところも受からないかもしれない。顔などの外貌に目立つような傷があっても同様のことがいえるだろう。

また、醜状障害では工場労働なら機械の一部として働くのだから、見た目は関係ないという屁理屈を持ち出されるかもしれない。仮にそうだったとしても、工場労働を生涯続けられることを前提にした話だ。しかし、現実はたいてい何度か転職することはふつうだろう。その時は採用面接を受けないといけなくなる。「終身雇用は、同一企業で定年まで雇用され続けるという、日本の正社員雇用においての慣行である」(ウィキペティア)が、大企業や公務員に当てはまるかもしれないが、雇用人口の多数を占める中小企業では、それは幻想にすぎない。

しかも、大企業などの終身雇用についても、「慣行」というほどの長い歴史があるわけでない。雇用人口のほとんどを占める中小企業ではそもそも終身雇用なんて存在しない。手に職をつけて、労働現場を渡り歩くのが職人の労働慣行だったことが、たとえば旋盤工だった小関智弘のいくつかの本を見てもらえればたちどころにわかることである。


さらに小関さんのころはまだ少なかった非正規労働者が雇用人口の多くを占めるようになったこと、中小企業では労働者の首は切られ放題の現実があること(注)などから、現在では、醜状障害(外貌障害)による逸失利益を、終身雇用であることを前提にした裁判所の姿勢では、ますます現実と遊離している。大変おかしな話だ。

(注)日本の解雇規制は世界でももっとも厳しいものだというわけのわからん言説をたれ流している人が、素人だけでなくて専門家といわれる人の中にもいる。はっきり言うけれど、そういうことをもし正気でまじめに言っているのなら、調査にはまったく向かない――とぼくは断言してもいい。

法律や判例でそうなっているから、現実もそうだろうと考えているようだけれど、なんと言ったらいいのか、刑法ではドロボーはいけないとか、詐欺はダメだとか書いてあるけど、それで、なくなったか? いっこうに減っていないだろう。労働基準法では、働いた分の報酬を支払えと書いてあるけれど、サービス残業はそれで減ったのか? 形式だけで分かった気になるなんて、もし本気でそう思っているのだったら・・・、もうバカらしくて言うのはよそう。

ぼくが書いたこちらの記事「モンスター社員がうつ病にかかるわけないだろ」を参照していただけるとありがたいし、その方面の専門家でかつ良識派である濱口桂一郎さんのブログにはもっと詳しく書かれているから、ぜひ参照していただきたい。

もうひとつ、ついでだけれど、派遣社員の逸失利益についても、正規社員の何割かに減額して当然というような議論がある。「交通事故損害賠償実務の未来」(法曹会)。これも問題だと思うのだが、いずれ機会があったら記事にしたい。
koutujikomirai

まとめ

後遺障害が認定されても、逸失利益を否定される場合がある。その理由は、後遺障害制度は、労災をもとに、もともとは炭鉱労働から生じた重篤な障害について、工場作業を細分化し類型化してできあがった制度だといういきさつがあった。そのため、工場作業に影響しないと思われている傷病(たとえば顔の傷とか)については、その類型に入っていても、逸失利益は否定されることになる。その代表的なものとして醜状障害がある。

逸失利益を否定されやすい傷病

醜状障害以外にも、ある種の脊柱変形、腓骨の偽関節、脾臓の亡失、腸骨の一部採取による骨盤変形など。

 

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知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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