信号のある交差点でどちらも青を主張したら、どのようにして解決するか

双方青・青主張の場合にどんな解決法があるのかという記事を書いたのは10年ほど前のことです。その後ドライブレコーダが普及し、かつてほど難事件化しなくなりました。が、それでも解決できないケースがあるため、その場合にどうしたらいいのか。

かつては信号サイクル表とかくらいしかネット上にその解決法について言及されている記事がありませんでした。で、現在なのですが、当事務所ではこのようにして解決したという記事をいくらでも見つけることができるのですが、たとえば裁判で尋問をして矛盾点を突いたとか、刑事記録を取り寄せてこれも矛盾点を突いたとか、はっきり言って何ら具体性がないんですよね。どうだ、おれはすごいだろと言っているだけです。「どこがどうすごいのか」を示してほしいのです。要するに、信号の色の食い違いの解決についてこれだけではまったく参考になりません。

解決法というのはその結果を示すことではなくて、その過程や手順を示すことです。

どちらも青・青主張の場合の解決を難しくしている理由

双方の信号が青・青はありえない

信号のある交差点で、直進車と交差道路からの直進車が出合頭に衝突する事故があります。ときどき困ったことに、どちらも青を主張することがあります。

どちらも青などということはありえないにもかかわらず、あると主張しているわけだから、どちらかがウソをついているか、勘違いしている。

この種の信号の色に関するトラブルは、調査員泣かせの事故のひとつですね。こちらも同趣旨の記事です。
赤信号なのに、人はどうして青だと勘違いしたりうっかりしたりして信号無視してしまうのか

信号の色と車の傷やブレーキ痕などの物証とは無関係

事故被害者の中には、信号の色に食い違いがあっても、専門家が調べればかんたんに分かると思っている人も多い。中には、クルマの傷の具合でわかると思い込んでいる人もいました。クルマの傷とか、ブレーキ痕とかと、信号の色は因果関係がありません。相関関係すらないでしょう。まったく別物なのです。

信号無視は虚言を誘発させやすい事情がある

そして、この種の事故は過失割合の評価においてさらにややこしくしている問題があります。たいていの事故は、両者に事故状況の食い違いがあっても修正要素としての過失10~20%ていどの範囲内で決着することが多いのです。しかし、信号の色に関するトラブルは、青だと認められるか、それとも赤だと認められるかで、オール・オア・ナッシング、すなわち0対100か100対0というように両極端に過失割合が違ってきます。

さらにさらにややこしくしているのが、信号無視による事故が重大事故になる可能性が高いことです。死亡とか、重症例が非常に多い。死亡事故のばあいはいわゆる死人に口なし、重症例でも被害者は事故時の記憶が飛んだ方が少なくないから、加害者は赤を青だとウソをつきたい心理になりやすい。

青信号車と赤信号車との事故の過失割合

青信号車(甲)が過失ゼロ、赤信号車(乙)が過失100です。これが基本の過失割合です。

 基本甲(青進入)0:
乙(赤進入)100
修正
要素
甲に何らかの過失あり、又は乙に明らかな先入+10
甲の著しい過失+10
甲の重過失+20
乙の著しい過失-5
乙の重過失-10

ただし、

実際のところ、信号の変わり目では、赤信号車の停止は余り期待することができず、また、見込み発進的青信号車も少なくない。そのため、信号に従っている車両であっても、通常の前方に対する注意を払っていれば容易に信号違反車を発見して衝突を回避し得るのに、その措置を全くとらなかった場合等には、法36条4項又は70条違反の過失を認めてよいであろう。

もっとも、自動車運転者は、通常、信号機の表示するところに従って自動車を運転すれば足り、信号違反車を予想して徐行して交差道路の車両との安全を確認すべき注意義務はないというのが判例(最三小判昭43・12・24等)であるから、信号遵守車に過失が認められるためには、特に減速して左右の安全を確認するまでもなく、通常の速度で、通常の前方(交差点内ないしそれに近接する場所)に対する注意を払っていれば衝突を回避し得る場合に限るべきである。

「判例タイムズ「過失相殺率の認定基準」P207)

「信号違反車を予想して徐行して交差道路の車両との安全を確認すべき注意義務はない」。いわゆる「信頼の原則」のことですが、詳しくはこちらで書きました。
交通事故における信頼の原則

青・青主張の場合の目撃者探し

信号の色に食い違いがあると、警察は目撃者探しに一生懸命になります。逆に言うと、目撃者がいない、いてもだれなのかわからない場合は、解決が相当に難航します。

警視庁交通鑑識業務に長年従事した藤岡弘美氏は、氏の著書である「交通事故調査の手法・手引き」(保険毎日新聞社・P60)にて、以下のようなことを書いています。

(双方青・青主張の)場合、現場調査に基づいた各資料から総合的に判断検討して、結論を導くより方法はなく、このような事故にあっては取扱い警察においても、双方の冷却期間をおく等その処理期間が長期にわたり、警察調査においても結論を導き出すことはできない。この場合「交通事故証明書の当事者別または事故態様別欄記載事項」を参考とし、後に科学的に結論付ける方法しかない。

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事故証明書の記載はなんの参考にもならない

要するに、お手上げだよと、白旗をあげているのです。詳しく説明すると、藤岡氏は「交通事故証明書の当事者別または事故態様別欄記載事項」を参考とし、後に科学的に結論付ける方法しかないというが、本件のようなどちらが青でどちらが赤なのか争いがある場合は、交通事故証明書の当事者別である甲・乙は、まったく参考になりません。

というのも、双方青・青主張の場合はどちらを甲(過失の大きいほう)にし、どちらを乙(過失の小さいほう)にするかは決めようがないからですよ。下の記事を読んでいただけるとわかるはずです。
交通事故証明書の甲・乙の見方

警察でさえ白旗をあげているこの種の事案に対して、目撃者がいない場合はどうやって解決するのだろうか。そのための解決法をこれから書くことにしよう。

その前に、信号のある交差点の事故なのだから、信号についての基本的なことをまずは確認することから始めます。

信号のシステムについて

交通信号機は導入された当初、それぞれ単独で制御されていました。信号の切り替えも1つのパターンしかなく、それをシーケンス制御(順序制御)で繰り返していました。

しかし、同じ交差点であっても、交通量は一定ではありません。朝夕のラッシュ時と、昼間や夜間では、交通量も車の流れる方向も異なります。それに対応できるように、その後の交通信号機は信号切り替えのパターンを時間帯に応じて多段制御できるようになりました。

交通量の激しい地域では、さらに感応制御も加えられました。交差点の直前などに車両感知器を設置して、交通量の多少に応じて信号切り替えのタイミングを調整できるようにしたのです。歩行者用の押しボタン制御もその一環です。
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交通信号機が連なる地域では、それらを連動させる系統制御も行われます。クルマの走行に応じて進行方向の信号を次々と青にし、スムーズなクルマの流れを作り出すものです。そのための信号切り替えのパターンがいくつも用意され、交通状況に応じて使い分けられるようになりました。
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道路が網の目のように張り巡らされた都市部では、近隣の交通信号機をまとめてコンピュータ制御する方法がとられています。車両感知器を随所に配置することで、交通状況をリアルタイムに監視し、その情報にもとづいてコンピュータがその近隣の交通信号機をまとめて制御します。
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その地域の交通状況に応じて、交通信号機のこうした制御方法は使い分けられています。地域によって、信号の切り替わるタイミングが異なるのはそのためです。

「いつ青信号にするのか」、そして「どのくらいの間、青信号にしておくのか」というのは、交通信号機が持ち続ける大きな課題です。その成果が、事故防止や渋滞につながっていくのです。

「多段制御」
カレンダーを内蔵し、曜日や時間ごとの交通量にあわせたプログラムを実行する。

「感応制御」
車両を感知器で検出し、状況に応じて信号機を制御する。たとえば、路線バスを感知したら、通過するまで赤信号にしない制御などがある。(P13~15)

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信号機の青・黄・赤を点灯する場合、そのタイミングの設定はどうなっているのでしょうか。そのタイミングの表し方には、[サイクル][スプリット][オフセット]の3種があります。そのことについて、「公益財団法人日本交通管理技術協会」のサイトに詳しい説明がありましたので、以下の記載はそちらからの引用です。

●サイクル(Cycle)
信号灯が青→黄→赤と一巡する時間を[サイクル]または[周期]といい、その長さを“秒”で表します。サイクルが短すぎると通行できる量が少なく渋滞の原因となります。逆に長すぎるとムダな時間が増えます。サイクルは、交通量、交差点の大きさ、歩行者の横断時間などを考慮して最適な長さを決定します。一般に交通量の多い交差点では長くしています。

●スプリット(Split)
1サイクルの時間のうち、各現示に割り当てられる時間配分は[スプリット]といい“パーセント”で表します。交通量の多い主道路側と、あまり多くない従道路側、どちらも同じ時間を占めると時間のムダが生じます。そこで、交通量に応じたスプリットが必要になってくるわけです。たとえば100秒サイクルの場合、主道路側に60パーセント(60秒)、従道路側に40パーセント(40秒)というように割り振りします。

●オフセット(Offset)
幹線道路を走る車が、信号により停止することなく、各交差点をスムーズに通過できるように、隣接する交差点間の青信号開始時間にずれを持たせます。この時間のずれを[オフセット]といい、1サイクルの時間に対する“パーセント”または“秒”で表します。
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たとえば、100秒サイクルの信号機A、Bがあり、AB間の青信号開始時間に10秒の差がある場合は、10パーセントまたは10秒のオフセットがあるといいます。

先の参考本には書かれていないので、蛇足を加えます。

朝夕の通勤時では、一方の通行量が極端に増加する傾向があるため、その流れに合わせた低速流量型として、一方の流れを重点的に遅く流れるようにしています。

また、交通量の少ない深夜では、スピードを抑えるために、一定速度で少量を流すようにして、制限速度を超えて走行していると2~3か所目の信号では必ず赤信号になるような工夫がされていることが多い。これらの点にも注意してほしい。

【参考】
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信号の色の法的意味について(道路交通法施行令2条)

法令文は悪文の見本のような文章なので、テキトウに流し読みしていただいてもかまいません。

赤信号の意味

①歩行者は、道路を横断してはならないこと。
②車両等は、停止位置を超えて進行してはならないこと。
③交差点においてすでに左折している車両等は、そのまま進行することができること。
④交差点においてすでに右折している車両等(多通行帯道路等進行原付および軽車両を除く)は、青信号により進行するができることとされている車両等の進行を妨害してはならないこと。
⑤交差点においてすでに右折している多通行帯道路等進行原付および軽車両は、その右折している地点において停止しなければならないこと。

青信号の意味

①歩行者は、進行することができること。
②自動車、原付(右折につき原付が法34条5項本文の規定によることとされる交差点を通行する原付(「多通行帯道路等進行原付」と表現することにする)を除く)、トロリーバスおよび路面電車は、直進し、左折し、または右折することができること。
③多通行帯道路等進行原付および軽車両は、直進(右折しようとして右折する地点まで直進し、その地点において右折することを含む。青信号→の項を除き、以下この条において同じ)をし、または左折することができること。

黄信号の意味

①歩行者は、道路の横断を始めてはならず、また、道路を横断している歩行者は、すみやかに、その横断を終わるか、または横断をやめて引き返さなければならないこと。
②車両および路面電車は、停止位置をこえて進行してはならないこと。ただし、黄信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合を除く。

保険調査における信号サイクル調査のいいかげんさ

信号のある交差点で事故が起きた場合、信号の色がどのように変わるのか、そのサイクルを調べます。しかし、上の本に書いてあるように、信号サイクルは必ずしも一定ではありません。

現に、私は、青が何秒で、黄色が何秒で、赤が何秒なのか、ストップウォッチを使ったり、ビデオを使ったりして、現場で何度も計測するのですが、測るたびに数値が違うことがよくありました。数値が一定しなかったことが原因だったのだと思います。

そのうちめんどくさくなって、3回やってそのうち2回一致したらその数値を信号サイクルだとしたり、まったく一致することがない場合は、計測した中の中間値を採用したりしていました。

すなわち、定周期で信号が変わらないのがわかっているのに、定周期式信号機だと勝手に解釈していたわけです。しかも、事故が起きた時と同じ時間帯に実施していたわけではありません。たとえば夜間に発生した事故なのに、昼間に測ったりしてました。本当はいけないですけれどね。

このように、保険調査における信号サイクル調査は実にいいかげんなのです。事故被害者の方は、そのことを踏まえて、損保から、どういう種類の信号なのかを確認し、信号サイクル計測の実施時間も確認すべきですね。また、より正確な信号サイクルを知りたいと思ったら、警察から信号サイクル表を入手しているかどうかを確認すべきです。しかし、そうかんたんに入手できないし、物損事故だと、入手が不可能なのでもうお手上げです。

信号の色の解決法その1・信号間のずれから

信号のオフセット、すなわち隣接する信号間に信号点灯のずれを設けて交通をスムーズにしています。その時間差にも注意して、事故時の信号の色を推定する方法があります。

事故現場のA交差点の手前の交差点、さらにもう1つ手前の交差点の進入時の信号が何色だったかを確認することによって、隣接交差点間の距離、車の速度などから、事故現場の信号の色を推定する方法です。保険調査をやるとき、必ずと言っていいほどの確認事項のひとつですね。

ただ、私自身はこの調査で推定が可能だったとしても、その結論には大きな疑問符がつきます。事故現場の信号の色はさすがに覚えているでしょうが、その手前の交差点の信号の色が何だったかなんて覚えていることはふつうありません。さらにもうひとつ手前の交差点の色まで、ふつうは覚えているはずがないのです。

ところが、事故当事者に確認すると、どういうわけだか、どの色だったのかちゃんと答える人が意外と多いのです。何も答えないと、信号も見ていないのかと思われ、不利になるとでも思ってか、思いつくままに答えていることが非常に多いように、私には思われます。

しかし、軽率にも信号の色が何だったか答えてしまうと、いわゆる「禁反言の原則」が適用されて、はっきり答えれば答えるほどますます自分を窮地に追い込むことになりかねません。要するに、あなたはあのときこう説明したじゃないの、その言説に責任を持ちなさいよということになるのです。

実際に、手前の信号の色と当該事故交差点の信号の色、それと速度から結論づけたことが何度かあります。信号の色については「禁反言の原則」から、速度については、事故当事者の主張はあまりあてにできないため、スリップ痕の長さ等から推定して決着します。

スリップ痕がなかったら? 自動車工学の知識があれば別なのかもしれませんが、その時は「禁反言の原則」ですよ。あなた、あのとき自車の速度はこれだけだとそう説明したじゃありませんかってね。この解決法に頼ることが多いのが実態です。警察の速度の確定もだいたいこれですね。あなた、それに同意したじゃないかって。

「禁反言の原則」とは

自分のとった言動に矛盾する態度をとることは許されないという原則・考え方を禁反言の原則もしくは禁反言の法理という。一度言ったことやしたことに対する相手方の信頼を裏切る不誠実な行為は、民法1条2項にある信義則に反するため、認められないということである。

【出典:法律勉強ノート

解決法その2・現場周辺の状況確認から

事故現場の周辺の状況から確認する方法です。こちらのほうが精度は高いと、私は思います。

周辺の状況というのは、もし第一車線を走行していたなら、第二車線はどうだったのか、あるいは、交差道路側の車の状況、すなわち停止車両がいたのかどうか、いたとしてどのような状態だったのか。信号無視をした側は、このような細部について覚えていないことが圧倒的に多いからです。

仮に覚えていても、自分は信号を無視した側だから、整合性を問われ、ばれるのではないかと不安になって、細部について答えないことが多い。しかし、青信号で進入した側は、自分の記憶どおりに説明すればそれが事実そのものなのだから、覚えていることは何でも説明しようとします。ただし、青進入側であっても事故前のことがわからないという人もいるため、これは絶対的ではありません。

裁判官の書いた本に、「信号の色の食い違いがある場合の双方に対する質問事項と回答の評価」というのがありました。「評価」には同意できかねる部分もありますが、最低限のことは書かれているので、どういうことを確認すべきかを知るための参考になります。

ア 衝突前、最後に青信号を見たのは、どの地点か。

交差点のかなり手前に青信号を見たのであれば、交差点進入時には赤色に変わっていた可能性がある。・・・

イ 衝突の直後に信号を見たか。(その後、何秒後に信号が変わったか。)

(ア)青信号であった場合で、直後に黄色に変わったというのであれば、進入時に青色であった可能性が高いといえる。

 

(イ)赤色であり、直後に黄色に変わったというのであれば、進入時に赤色であったということになる。

これらの事実の確認のために、警察の信号サイクル表を当事者に提出させる必要がある場合がある。

ウ 交差点に入る前に、信号待ちをしていたかどうか。

信号待ちをしていた場合、信号が青色に変わった後で交差点に進入した可能性が高い。先頭で停止していた場合は、見切り発車をしている可能性がある。

エ 衝突前、前後を走行していた車両があったか否か。

(ア)前後を走行していた車両があれば、青色であった可能性が高い。信号無視をして交差点に入る車両はほとんどいない。

 

(イ)前後を走行していた車両がなかった場合、赤色であった可能性がある。

 

(ウ)前後を走行していた車両があったというだけでは、青色であったとは言い切れない(直前に赤色に変わっている可能性がある。)

「事故当時の現場付近における車両の通行量(同一方向、反対方向、交差道路のそれぞれの)」、「右折車両、右折のために停止していた車両の有無」も質問する必要がある場合がある。

横断歩道がある場合は、横断していた歩行者や自転車の有無、その状態(進行していたか、信号待ちをしていたか等。)も質問する必要がある場合もある。
オ 衝突後、交差点に進入してきた車両があったかどうか。

(ア)直後に進入してきた車両があれば、青色であった可能性が高い。

 

(イ)進入してきた車両がない場合、赤色であった可能性が高い。
信号を無視して交差点に入る車両はほとんどない。

(P25-26)

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解決法その3・事故証明書の発生時刻から

事故証明書の記載中の事故発生日時からどちらが信号無視したのかを決める方法もないわけではありません。ネットでもある弁護士さんがこの方法を書いていました。「発生日時」が正確にわかるなら、事故時の信号の色が何色だったのか、信号サイクル表を確保できればわかるからです。

しかし、これもきわめて例外的な場合でないと参考になりません。信号サイクル図を添付したので見ていただくとわかりますが、参考にした例の周期は70秒であり、信号の青や赤は数十秒単位で変わっています。こういうパタンが多いのです。

「発生日時」が正確にわかるならともかく、事故証明書に記載されている「発生日時」は数十秒あるいは数分程度の誤差があるのがふつうだと思ったほうがいいです。事故当事者が警察に事故直後に連絡するならともかく、たいていは数分遅れてでしょう。

警察も事故発生から何分後に110番したのかと聞きますが、事故当事者の返事の内容が正確だとは思えません。先の例で70秒単位で1サイクルの場合、数秒の誤差で信号の色が変わってしまうことさえあります。

だいたいが、事故証明書の事故「発生日時」は「11時40分ごろ」とかというように「ごろ」とはいっていることが多いですし、時刻も40分とか50分とか実に区切りのいい表記のされ方が多いです。警察としてもこのような書き方しかできないからでしょう。

ときどき、たとえば「11時3分」と記載されていたとしても、以上の理由から、交通事故証明書や事故当事者の説明から事故発生時間を決定できるのはきわめて例外的な場合に限られます。たとえば車に装備していた時計の進行が事故により停止してしまったとか(この場合だって時計の設定が正しいかどうかという問題があります)。こういうのは決め手にならず、ただの机上の空論に終わることが多いです。

解決法その4・目撃者を探せ

双方が青主張の信号事故は、警察も保険会社も解決に苦労するため、とにかく目撃者がいないかどうか探せが合言葉になっています。事故当事者の証言はあてにならないが、まったくの第三者の目撃証言はあてになると思われているからです。

そういう私も、目撃者がいれば・・・とついつい思ってしまったものですね。たとえば「交通事故捜査と過失の認定」という本では、交通事故を担当する検事がこのように書いています。

事故時の信号表示を目撃している第三者がいる場合、その人は、事故当事者とは利害関係がないのが普通でしょうから、その信用性は類型的に高いといえます。(P47)

また、同乗者の証言についてはこうである。

利害関係のある同乗者の場合、信号表示を見たか見ていないかと言った結論部分のみを書くのではなく、なぜそのとき信号機を見ていたのか、どういう意識で見ていたのかを確認する必要があります。例えば、「後部座席でウトウトしていて、ふと目を覚まして前を見ると信号が青であり、その直後に事故が起きた。」という目撃供述と、「私の妻は免許取り立てでしたので、助手席に座った私は、妻が信号を見落としたりしないよう自分で運転しているつもりで前方左右を注意深く見ながら同乗していました。すると、赤色信号で止まっていた時、対面信号機が青色に変わったので、妻に対し、「青になったから行っていいよ。」と声を掛け、妻が車を発進させたところ、右の道路から進行してきた自動車とぶつかりました。」という目撃供述とでは、信用性の程度に雲泥の差があることは説明するまでもないでしょう。(P48‐)

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私も同乗者の証言を取り付けたことが何度かあります。運転者の友人である同乗者の証言なんかどうして取り付けるのか、運転者に有利なことしか言わんに決まっているだろうと、損保の査定から当然のごとく疑問を呈されたことがありました。いや、当の同乗者からも言われたことがありますね。

そのとき、私は査定にこう答えました。運転者に有利な証言は原則として聞き流す。証言価値はゼロに等しい。が、運転者に不利というか、マイナスになりうる証言をすることがあります。それを採取するために同乗者から聴取するのです。

そう答えたら、査定はそうかと納得顔でした。そういう姿勢の調査員からすると、「信用性の程度に雲泥の差があることは説明するまでもない」と言われても、どっちも運転者に有利な証言だし、警察や検察に事情を聴取するのは事故からある程度経過しているのが普通だから、「説明するまでもない」と言われても、説明していただかないと私には全く理解できませんね。

本当にこんなんで大丈夫なんかいや。

同乗者も含めてですが、当事者でない第三者の証言について一言したい。

信号関係の争いは決着するのに大変苦労することが多いから、つい第三者の証言に頼ろうとしがちです。が、科学者の池内了は、「疑似科学入門」でこのように注意喚起しています。頭の隅っこくらいに常に入れて、自戒したいです。第三者による信号に関する証言は、どういうタイミングで、どの位置で見たのかなど事細かく聞かないと間違いを犯しやすい。

自らの体験としての情報は、見る、聞く、覚える、考える(いくつかの想念を重ね合わせる)という感覚への刺激から脳における再現・合成へという過程を経るのだが、この情報処理過程で誤りが生じやすい。例えば、「目で見たこと」であっても、「実際に起きたこと」と直ちに等値できない。見聞違いがあるだけでなく、無意識のうちに情報が捏造され、見たような気持ちになってしまうことがあるからだ。(事故の目撃証人が当てにならないことは良く知られている。)

また、実際に体験したことであっても、記憶が曖昧なために思い込みを固定してしまったり、解釈の間違いを持続させてしまったりする。自分の都合が良いように記憶を操作して変容させ、それを信じ込んでしまう場合もある。(自分の幼い頃の思い出を美化して記憶しているのと同じ。)さらに、この過程で脳の作用に効率化メカニズムが働き、主観的願望を優先させたり(「こうあったらいいのに」)と思ったことが、いつの間にか「こうあった」と断定に変わってしまう)、自分に都合が悪いことは無視したりする。そんな心理作用が無意識の間にはたらく場合もある。そうする方が自己保存に有利であったことも事実なのだ。・・・

つまり、人間には、体験によって「情報を得る」という段階と結果的に「信じる」という段階の間に「認知」という情報処理過程があり、その過程で生じるさまざまなエラー(錯誤)のため誤った信念に導かれる可能性があるのだ。また、エラーだけでなくバイアス(偏向)もある。真実を見ることを無意識に避け、知らず知らずの間に別の判断・思考ルートを採ってしまう心的傾向のことだ。(P26‐)

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なお、「交通事故の目撃証言は信頼できるのか」と記事を書いているので、そちらも参考にしてほしい。

人身事故では立証責任が転換されることを調査の基本に

信号青・青関係の人身事故を調査するうえで最重要な判例があります。「交通関係訴訟の実務」という本にある以下の記載です。

信号機により交通整理のされている交差点における出合頭衝突事故の事案(双方が相手が赤信号無視があるとして互いに損害賠償請求した事案)について、東京地裁 昭和58年8月25日判決を引用し、「同裁判例は、自賠法3条に基づく人身損害の請求と民法709条、715条に基づく物的損害の請求とを区別することなく、真偽不明の部分については加害者の不利益に帰するものとして過失相殺をしない」(P308)としています。

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ご紹介した判例の詳細についてはこちらの記事でとりあげていますのでぜひ確認しておいてください。
判例タイムズの過失相殺率基準本では解決できそうにない交差点での出合頭衝突事故

次に、横浜地裁平成29年2月22日判決も紹介しておきます。

事案は、信号交差点における原告原付自転車と被告乗用車の出合頭衝突につき、原告車両は対面信号機が赤色表示で本件交差点に進入したことが目撃者証言などから認定されていました。そのうえで、

自賠法3条によれば,被告が無過失であるとなるには,被告が赤色表示及び黄色表示(黄色表示となった時点で停止線前で停止するとかえって危険である場合を除く。)のいずれでも本件交差点に進入していないことを立証しなければならないところ,被告はその旨の立証ができていない。これに加えて,被告に有利となる過失相殺事由についても被告に立証責任があることになるところ,本件においては,被告が黄色表示で本件交差点に進入したことの立証もされていないから,結局,原告車両及び被告車両の双方が赤色で本件交差点に進入したことを前提とした過失割合によるべきこととなる・・・

以上の事情やその他本件に表れた本件事故に係る事情を総合考慮すると,原告と被告の過失割合は,40%対60%とするのが相当である。

 

としています。われわれ事故調査員の立場から感想を述べるなら、この種の事故調査をやるうえで、どういう点に立証作業を集中したらいいのかを示唆してくれる判決です。

信号の色を解決するためのより正確な方法とは

上記4つの解決方法についての特徴をあげ、問題点についても書きました。いずれも決め手に欠けるところがあるのです。そこで、いまいちど、民事上の立証について確認しておきたい。

林屋礼二「新民事訴訟法概要」(P298)によれば、

自然科学的な証明は、1点の疑いも残さずに、それが真実であることをあきらかにするものであるから、ここでは、なんども実験が繰り返されて、真実が追求されていく。これに対して、裁判は、もちろん真実の追求をめざすが、1つの訴訟という手続のわくのなかで、相当の期限内に終結される必要があるから、そこでの証明を自然科学の証明と同じレベルで考えることはできない。ここから、裁判における証明は、真実であることの高度の蓋然性があることで、満足しなければならない。

そこで、自然科学における証明は真実の認識を目標とする論理的証明であるが、これに対して、裁判における証明は、真実の蓋然性の認識を目標とする歴史的証明でたりるといわれている。

この点から、右の確信とは、裁判官が10のうちの10まで存在したと信ずることを必要とするものではなくて、10のうちの8か9まで存在したと信じうることでたりるものとなる。その判定は、通常人が疑いを差しはさまない程度において、裁判官が真実であるとの確信をもちうるものであればよいとされている。

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10のうちの10ではなくて、10のうちの8、9ということ、すなわち調査の主眼は、その蓋然性を高めるということになります。さらに、人身事故では、立証責任が転換されているため、立証の負担が軽減されていることが重要です。

調査員時代、これまでに青・青主張の事故をかなりの件数扱ってきましたが、解決が困難でギブアップしたものも中にはないわけではないが、解決したもののほうが断然多かった。

要は、辛抱強く情報を集めることにかかっていますね。それらの情報をどううまく組み合わせていくかは職業上のノウハウなのでここでは書きません。

先に引用した裁判官も、青・青主張の事故について、多くの情報を精査し、整合性を吟味すれば解決できるとおっしゃっています。解決できるかどうかは、この種の事故をどれくらい扱ってきたのか。その経験値と、事故状況の細部にまでのこだわり、それを絵として再現できる調査員の眼がやはり必要だと思います。

餅は餅屋、調査は調査員に

最後に強調したいのは、有能な弁護士をつけることではなくて、有能な調査員をまずは自分の味方につけることです。この際だからはっきり言っておきたいが、弁護士は法律のプロではあっても、調査のプロではない。ここを誤解されている方が非常に多い。

ところが、弁護士ならそういう調査ができると勘違いされている方が非常に多い。たいていの弁護士は事故現場にさえ行きたがらない。その確認さえやらないのです。それは軽微な物損事故にとどまらない。死亡事故でも弁護士は事故現場に行きたがらないと、当サイトでブックマークしている弁護士の先生が嘆いていました。そんなので、信号の争いが解決できるはずがありません。

このように、調査が不当に低評価されている現状があり、私はそのことで怒っています。だから、ノウハウについて知りたければ、調査経験の豊富な調査員にまずは聞いてほしい。八方ふさがりの方はなおさらそうです。よい解決法がみつかるかもしれません。

【追記】
解決法について知りたい方は問い合わせくださいと以前書いたことがあった。そのため、何人かの方から問い合わせをいただいた。中に、同業者と思われる方(損保のアジャスターの方)からも同様の問合せをいただいたことがあった。当方、ボランティアでやっているのだ。営利企業からの問い合わせについてはご遠慮ください。

また、何か参考になる本がないかという質問もいただいた。参考になる本については記事の中で追記しておいた。事故被害者の方がそういった本を読まれるのはたいへんいいことだと思う。しかし、いちばんの解決法は本文中にも書いたように、調査経験の豊富な人に依頼することだ。それがいちばんだと思う。

 

 

8 COMMENTS

Aさん

おはようございます。

こちらのサイトを見て早速メールした次第です。

7月25日 5:13分ごろ信号のある交差点で事故にあいました。
こちらは青信号なのを同乗していた3人で確認して、信号に進入した時に交差点の真ん中で事故にあってしまいました。
救急車が来る前に、事故の相手が降りてきて「大丈夫ですか?すみません」と言ってきたのと、病院で診察中に電話がかかってきて「すみません」と何度か誤ってきたので赤信号で進入してきたのを認めてるのかと思っていたのですが、よくよく話を聞いてみると「青信号か黄色で進入しました」と言ってきたのです。警察に状況を確認すると父親がまだ入院中のため現場検証が出来ないので、詳しいことはこれから調査します。と警察の方に言われてしまいました。
どちらも青信号と主張しているので今後、どのように証拠集めをしたらいいのか教えて頂きたく思います。
お忙しい中、お手数ですがよろしくお願いします。

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ホームズ事務所

個人名をAさんに変えました。

事故日が7月25日になっていますが、去年の事故ですか。それとも今年の6月25日とかの間違いなのでしょうか。文面からみるかぎりつい最近の事故のようですが、このあたりの情報は正確にお願いします。

さらにもうひとつ、事故現場はどこなのでしょう。Aさん側はどちらからどちらの方向に向け第何車線を走行していたのか。相手についても同様の情報をお知らせください。石川県やその近くなら実際に行ってみて現場確認が可能だからだし、それができないとしてもgoogleの地図で2次元的な確認ができるからです。

個人名や事故現場については、当サイト上では伏せて回答しますので、上記2つの質問にまずはお答えください。

個別の事例についてはプライバシーの問題もあり、そのばあいはAさんあてへメール回答します。ただ、最新の記事で告知したことですが、現在、私的事情があり交通事故業務には一切タッチしていないため、あまり時間がとれないのが現状です。それでも質問だけ受け付けているのは、実戦から3年も4年も離れているため、勘を失いたくないためです。だから報酬もいらないとしています。

無報酬だからといって手抜きをするつもりはありませんが、そのような事情もあることから、一般的概括的なお返事になるかもしれませんので、ご了承願います。いずれにしろ、信号の色の食い違いについては相手の言い分も含めて精査しないことには解決できないこともご理解ください。

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信号機色の主張の相違について相談させてください。

バイク(私)と自転車の衝突事故に遭いました。
バイク(私)が青信号で交差点に進入(第二通行帯)したところ、バイクの進行方向に対して左から右に自転車が横断歩道に侵入してきたため、衝突しました(詳細は下記)
信号は確かに青信号だったため、私は事故発生後に駆けつけていただいた警察官へ”青信号だった”旨は伝えましたが、相手方は足を骨折しており、警察官の方が聞いていないのか、聞いたけどもあいまいな返答をしたのかは分かりませんが、その時点では警察官へは信号の色を伝えていなかったようです。(事故の翌日、担当の警官の方に聞きました)
そして現在、相手方は青信号を主張しています。
こちらは右半身打撲、右肩骨にヒビ、バイク全損など被害は小さくありません。
後でモメないよう、警察官の方には念を押して信号の色を伝えたつもりですが、後々の主張で有耶無耶にされるのは、治療費、バイクの修理費などの点で非常に困ります。
このようなケースの場合。どのように対処すべきかご教示ください。

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ホームズ事務所

Tさんへ。事故の詳細情報については公開しませんでした。

信号に争いがあるケースは非常に難案件なのです。目撃者がいるとか、これくらい大きな交差点ならカメラが設置されている可能性もありますが、そうでないときは、相手がどういう主張をしているかがわからないとどうにも先に進めません。ところで、実況見分は実施された? まだなら、いつごろ実施予定なのですか。

現状、ぼくからのアドバイスといわれても、情報量が余りに少なすぎて・・・。とりあえず、進捗状況をメールしていただくしかありません。

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lucky

検察官はこんな捜査手法を紹介しています。抜粋なのですべてお伝えできなくてすみません。

1.事故直後の当事者双方の行動
赤信号の人は最初から自分の信号が青と強く主張しない。時間が経つにつれてだそうです。
ただ、積極的な証拠にはならないそうです。

2.事故現場交差点に至るまでの経路における信号表示の確認
いつも成功するわけではないそうです。
経路上のコンビニ等の防犯カメラも確認するそうです。

3.衝突の際の速度から、信号色が判明することもあるそうです。
エアバックセンサーなどを解析して衝突時速度を割り出すこともあるそうです。

4.同乗者がいる場合真実を語らせる
検察、警察だからできる手法ですね

城祐一郎著『実例交通捜査における現場の疑問』立花書房p124~130 

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ホームズ事務所

有益な情報ありがとうございます。

>1.事故直後の当事者双方の行動 赤信号の人は最初から自分の信号が青と強く主張しない。

これはぼくも思い当たることです。本当に青で入った側は青であることを強く主張する。それ以外はありえないと。しかし、他方は強く主張しない。中には、お互い青々なのだから、痛みわけでもいいなどと、のらりくらりです。ウソを付いている奴の特徴ですね。こうなると、事故状況の確認調査というよりも、モラル調査に近くなることもあります。

結局は、どれか1本で決めるのではなくて、あわせ技になります。間接事実をいくつもあつめて、このような事故の信号関係を決するしかありません。

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aa

ごめんなさい。いきなり電話してしまいました。
2月12日に事故を起こされたのですが、相手方が当時は僕に信号無視を認めていたのですのが、一転し、黄色信号だったと主張してきており本当に困っています。お互いドライブレコーダーもなく現場周辺のお店に信号が写っている防犯カメラもありませんでした。助けてください。お願いします。

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ホームズ事務所

電話にて概略おききしました。信号関係の争いはとりわけ初動が大切なので、ぼくの指示を守ってください。次回のご連絡お待ちしております。簡単ながらですが。

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