一昨日、アマゾンより以下の本が届きました。
〔改訂版〕後遺障害等級認定と裁判実務 -訴訟上の争点と実務の視点
9年ぶりの、旧版からの改定版です。出版元サイトでは、
問題の理解に役立つ医学的資料を豊富に掲載しています。
などと紹介していました。旧版について以前記事にしたことがあるので、今回はそれに加筆して記事にしてみました。なお、紹介した本は私が所持しているものに限定しています。入手可能な市販本だけとりあげることにしました。
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表題について記事を書くほどの資格も実力をないのは十分わかっているつもりなのだが、つい最近、後遺障害申請業務をやりたいという行政書士さんと何度かやりとりをしていたことがあって、後遺障害をやるばあい、どういう本を読んだらいいのかが話題になった。で、参考までにと思い、私がこれまでに読んだ本の中で最初に読んでおいたほうがいいと思った本などを、独断と偏見に基づき、以下のようにご紹介したことがあった。
後遺障害を知るために最初に読むべき本
①労災の認定必携
Amazonでは売っていないので、別リンクで。
②改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務
- 666ページ
- 新日本法規出版
- 2017/8/4
第1に値段が高くなった。5250円から7020円である。高いよ。第2にページ数がP501からP631に増えた。総論部分はほぼ同じだが、新たに「加重」が加筆されている。「加重」とは、「後遺障害は1度認定されると重ねて認定されないのか」という記事で詳しく書いた。そこでは、
後遺障害とは、「傷害が治ったとき身体に存する傷害」(自賠法施行令2条1項2号)となっている。それも、「一生回復しない」ということが前提である。後遺障害の特徴は、このように「永久残存性」があることが基本的な発想になっている。したがって、ある部位が一度後遺障害としてある等級で評価されたら、「永久残存性」なのだから、その傷害は死ぬまで続くのであり、死ぬまでに同じような受傷をしたとしても、同一部位で同一の等級評価をされることはありえず、すでに評価しつくされているとして、後遺障害が認定されないことになる。もし、同一部位でより高度の障害が発生したなら、新たに加わった部分だけが評価の対象になり、過去に認定された重なり部分は控除される。これが自賠責の基本的な考え方である。
つまり、同一部位において、過去に認定済みの重なり部分については後遺障害として評価されない(その分を控除する)ことを「加重」というのだが、その場合の「同一部位」とはどこを指すのかと設問を立て、その説明と問題提起を行っている(P25-)。私が書いた記事ではそのことに触れていなかった。重要なことを落としたのである。
後遺障害を本気でやるなら、この改定版も必携である。参考文献の紹介が充実しているし、編著として、この分野の第一人者である高野真人弁護士がかかわっている。
③交通事故におけるむち打ち損傷問題
- 323ページ
- 保険毎日新聞社
- 2012/8/1
後遺障害申請の7割はむち打ち関連だといわれている。むち打ちで争点になりそうところがほぼカバーされうまく説明されており、判例についての紹介もあり、まとまりもいい。
④Q&Aハンドブック 交通事故診療
- 456ページ
- 創耕舎
- 2020/9/2
保険調査員をぼろくそにけなしている本なので、私もその点について不満があり過去の記事としてとりあげたことがあった。その点を除くと、たいへんデキのいい本だ。とりわけ、医療機関が何を考えているのかを知るための必読の本である。
⑤裁判例と自賠責認定にみる 神経症状の等級評価
神経症状についてはとりわけ争いが多い分野。最新版。と書いたけど、実はおれまだ読んでいないのよ。だれかプレゼントしてくれないかあ。神経症状の後遺障害等級が争われた事例を身体部位や受傷態様別に分類・整理!「医学的所見」「症状の一貫性」など、認定にあたっての着目点を提示!
以上の5冊は必携である。「はじめ」ということなら、新書形式で一般向けに書かれている本がたくさんあり、上記の本を読む前にまずはそちらからと書くべきだったかもしれない。
次あたりに読みたい本
①井上久医師の書いた本。
自動車保険ジャーナルから3冊出ている。「医療調査・照会の留意点」「鞭打ち損傷と周辺疾患」「「医療審査「覚書」」の3つ。「医療審査」以外は入手困難かもしれない。
ご存知のことだと思うが、井上医師は損保業界の顧問医的立場の医師である。私自身も氏の講演を拝聴させていただいたことがあるし、意見書を書いていただいたこともある。損保業界に対する影響力が絶大な方である。繰り返しの説明も多いが、氏の書かれた本はやはり全部読んでおいたほうがよいだろう。ただし、現在入手困難かもしれない。どうしても必要な方はご連絡を。
②むち打ち損傷ハンドブック(遠藤健司著)
- 200ページ
- 丸善出版
- 2023/9/27
手際よくまとまっている。損保業界向けに作られた医学書という趣きの本。
③オルソペディクスから出ている「外傷性頚部症候群診療マニュアル」と「外傷性頚部症候群」の2冊。
この2著からよく引用される。私がこの2冊を入手したのは、伊豆で行われた損保人身担当者向けの医研センターでの医療研修に参加したときだった。2冊とも、1割だか2割だか値引きされた割安価格で、医研センター販売部で販売されていた。割引価格で販売されていたのはこの2著だけだったと記憶するが、損保人身担当者にとって必読の本だという位置付けだった。ただし現在入手困難かと。どうしても必要な方はご連絡を。
④弁護士・実務家のためのの後遺障害読本
脊椎、四肢体幹の交通外傷の概要と、残存しうる後遺障害等級について明記。 ・傷病名、治療方法、治癒・症状固定までの期間、後遺障害が残った場合の等級について分かりやすく解説。
後遺障害認定上の要点が簡潔に述べられていて、医師面談の際の直前の見返しなどでときどき利用していた。私が持っているのは旧版で新版のほうにリンクしておいた。ネット情報によると内容が違うようだが、著者が亡くなられる前後して旧版と新版が出ているため、内容が劇的に変わったとは思えない。なお、この本ではむち打ち損傷についてとりあげていないが、著者は「交通事故におけるむち打ち損傷問題」にもかかわっているため、そちらの本を読めば不足分を埋めることが可能だろう。
⑤標準整形外科学
- 1056ページ
- 医学書院
- 2023/2/6
井上久先生が、「これくらい読みなさい」と推薦されていた本。私はその言葉を信じて即買いした。医者の教科書的位置付けの本。字引がわりにつかっている。
⑥標準脳神経外科学
- 456ページ
- 医学書院
- 2024/2/13
⑤⑥は、医師面談前に傷病内容を確認するためとか、字引代わりに使っていた。
以上は、後遺障害をやるんだったら必要最低限読まないわけにいかないだろう。
持っていて役立つ本
①賠償科学―医学と法学の融合/民事法研究会
- 721ページ
- 民事法研究会
- 2013/9/1
書き手はだいたい損保寄りの人ばかりなので、「中立」とは言い難く、そこは注意してほしい。
②検証むち打ち損傷―医・工・法学の総合研究/ぎょうせい
- 249ページ
- ぎょうせい
- 1999/3/1
いわゆる閾値論に対する反撃の書。記事として取り上げたことがある。→こちら。
③エビデンスに基づく整形外科徒手検査法
整形外科や理学療法の検査・測定法の信頼性(再現性)について統計学的な値を示した上で各検査法の信頼性を導出し、検査法の拠りどころとなるエビデンスを構築している。
- 514ページ
- エルゼビア・ジャパン
- 2007/8/24
④「後遺障害等級判断の境界」
自賠責の判断が裁判で等級が上がるなどいい方向で覆ったケースをとりあげている。悪いほうに覆った裁判例もあるが、そこはとりあげていない。
- 364ページ
- 新日本法規出版
- 2015/6/9
⑤「医療と裁判」石川寛俊
- 230ページ
- 岩波書店
- 2004/3/26
この本についても、記事を書いて紹介したことがある。→こちら。この本はすごく使える。医療過誤事件で有用だった。弁護士には購入をぜひ勧めたい一冊。
個別編・高次脳機能障害
父が高次脳機能障害にかかったため、ここ最近になって一般向けもふくめ、20冊以上読んだ。その中から、とりわけ、わかりやすかった本やためになった本を4冊選んだ。
①失語症を解く
- 200ページ
- 人文書院
- 2003/5/30
この本は読み物としてもとてもわかりやすかった。
②「話せない」と言えるまで―言語聴覚士を襲った高次脳機能障害
- 245ページ
- 医学書院
- 2013/2/22
同一著者のやや固めの本。
③神経心理学入門
神経心理学の本邦初の本格的入門・参考書 この領域のすべての重要なテーマを網羅し、その要諦を記している。多くの症例を通じて永年の臨床経験により、著者は一貫した見解を呈示しており、神経心理学を学ぼうとする人、臨床に携わる人々にとって必備の基本図書。
「入門」と書いてあるが、決してそうじゃない。この分野では名著として知られるらしいが、私にはかなりむずかしかった。原理にまで追求しようとする。
④高次脳機能障害学(石合純夫)
高次脳機能障害学の基本的な内容から最新の動向までを解説した、初学者から臨床家まで必読の一冊。定番教科書という位置づけだとおもう。
⑤Q&A高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務
- 325ページ
- ぎょうせい
- 2020/8/20
個別編・各傷病
各傷病の診療ガイドライン。ここでは「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン」を例示としてとりあげた。いわゆる「標準医療」というやつだ。裁判基準にもなり得るらしいから重要である。ネットで見ることができるものもある。「Minds医療情報センター」で検索してください。書籍としても、南江堂から発行されている。たとえば
医療調査ではこれ読んでおかないといけない本。読んでおけば医者とも互角の話し合いができる。そんなわけないだろというかもしれないけど、特定の分野に限定してなら経験上そうだとおもった。医者で勉強家はもちろんいるが、案外少ないし、せっかくの知識も忘れている。
番外編
①交通事故110番の本
後遺障害分野のパイオニアともいうべき交通事故110番代表者の宮尾一郎氏の著書。番外編では失礼かとも思ったが、「期待はずれ」だったのでここにした。
どうして「期待はずれ」だったのかというと、この本(後遺障害獲得マニュアルとか)のことを広告をみて知ったとき、どれほど期待したかわからないくらいだった。すぐに注文したが、なかなか届かず毎日郵便受けを見るのが日課になった。そして、初めて本の中身を見たときの感想が、この「期待はずれ」だった。
ページの紙質が名刺で使われているような硬質の高価なものだったし、余白が必要以上に多かった。紙質を落とし、余白も少なくすれば、ページ数も3分の2ていどに圧縮できたはずだし、1万円以下の価格にできたでしょうに。しかも、内容はどれもHPで見たようなものばっかしだったので、買うまでもなかったなあと思ってしまった。
私の期待――HPの内容をさらに詳しく説明してあること――がそれだけ大きかったのである。そのことからくる「期待はずれ」だった。仮にHPで情報公開されていなかったなら、「まず初めに読むべき本」にいれていいべきかもしれない本である。うさんくさいところはあるけど。
交通事故110番さんは情報公開に積極的なので、あえて本を買う必要はないと思うけれど、買うのだったら、分冊されている新版でもどうか。弁護士事務所にいくとよく飾ってあるのでとりあげた。
あえて購入する必要はないとおもうけど、参考になることがたくさんあるし、この分野の功労者だ。
②標準法医学
- 352ページ
- 医学書院
- 2022/1/31
この本はけっこう使える。私が持っているのは版が古いけど、自殺か事故(過失)あるいは殺人かというような、傷害保険向けの参考書になる。
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後遺障害に関する記事を書くとき
ところで、後遺障害に関する記事を書くとき、私がもっぱら参考にするのは、このように市販されている本からの情報や非公開の資料の情報、それとネット情報です。オオザッパですが、それぞれ1/3ていどの割合で利用しているように思います。それでもどうしてもわからんときは知人など専門家に確認します。
保険調査の仕事をやめてからは、内部情報を得る機会が少なくなったため、市販化されている本からの情報のウエートがどうしても高くなっています。市販本で参考になりそうな本がないかと、他のサイトを調べてみたところ、弁護士のサイトでいくつか紹介記事を見つけました。後遺障害を知るための本として、そちらでふつうに紹介されているいわゆる赤本の付録を除くと、おびただしい数の医学書の紹介でした。恥ずかしながら、私は赤本をつい最近まで1冊も持っていなかったのであまり参考にしたことがありませんし、医学書にしても、他のサイトで紹介されている本の1/5くらいしか知っている医学書がありませんでした。まだまだ勉強が足りないと痛感しているところです。弁護士は勉強家ですね。

交通事故全般で「役立った本」なら、こちらの記事も参考に