事故加害者からの調査と被害者からの調査の違いについて
これまで事故調査員として仕事をしてきたが、それは加害者側の保険会社からの依頼による調査であった。これからは被害者側から調査をすることになるのだが、どう違うのだろうか。被害者側から調査をした経験がないから、以下に書くことは私の想像である。間違いがあるようだったら、ご教示ください。
交通事故の状況調査。保険調査員は事故現場、事故当事者、警察の4つを訪問し、調査する。これが基本となる4つである。しかし、これまでのような加害者側からの依頼でなく、被害者側からの依頼によって調査したとき、相手である加害者との面談は可能なのだろうか。たぶん、相当にむずかしいのではないかと思う。
加害者側からの調査のときは、バックに加害者側の保険会社がいて、加害者側保険会社は被害者に対して損害賠償金を支払う立場にある。被害者は、加害者側保険会社から損害賠償金を支払ってくれるものとの期待があるから、たとえ加害者側保険会社の依頼した調査会社が胡散臭いと思っていたとしても、第三者機関だといわれてそれでも納得できなかったとしても、それでもたいていは協力に応じざる得ない。協力を拒んだら、損害賠償金の支払いが遅れるばかりだからである。
しかし、被害者側だと、そういうことが期待できるのだろうか。被害者が調査会社に調査を依頼することはふつうないし、調査会社のほうでも個人を相手にした取引はふつうやっていないはずだ。たとえ依頼できたとしても、加害者からどのようにして事故状況を確認するための面談が可能なのだろうか。そのとき、被害者側の保険会社が協力してくれるといいのだが、そんな前例はないなどと言われるのではないだろうか。だから、たぶん、加害者と面談することは期待できないにちがいない。そのため、警察記録に頼らざるをえなくなる。
警察記録へのアクセスについて
さて、その警察記録についてである。
交通事故は警察が捜査している。そして、それで得られた警察記録、たとえば実況見分証書や事故当事者の供述調書、信号周期表などの記録はすぐには開示されない。事故が起きてから、半年や1年経過したのち、刑事裁判が確定してから、さらに3か月ほど経過しないとそれら警察記録を入手できない。不起訴のばあいだと、更に制限が加わって実況見分調書など一部が入手できるだけで、供述調書を見ることができない。さらに、人身事故でなくて物損事故ならもっとたいへんだ。ふつうは実況見分調書も作成されておらず、かんたんな事故報告書で終わりだからである。事故被害者が事故の詳細を確認しようとしても、事故の発生から長期間放置されるか、放置されなかったとしてもかんたんな記録しか見ることができない。
他方、加害者側はどうか。警察記録へのアクセスは同様にむずかしいところがあるものの、調査会社は警察OBを採用して、そこをなんとか突破しようとする。警察OBでなくても、毎日のように警察に顔出しをしている調査員なら、困難といわれる警察情報も入手可能なのである。加害者側保険会社はこのようにして事故状況を早期に知ることができ、一方的に優位な立場を築くことが可能である。
それに対して被害者側はどうか。被害者個人ではどうすることもできないから、弁護士を雇ったとしよう。弁護士だと相手加害者との面談ができるかというと、そうはならないだろう。警察へ事情を聞きに行っても、ふだん面識もない担当官につれない返事をされるだけだろう。そもそも、現場の確認調査さえおろそかにするなど調査を軽視している弁護士が少なくないと聞くから、その差は圧倒的である。結局のところ、ここでも警察・検察記録頼みにならざるをえない。
さらに、刑事段階において被害者側の検証の機会が与えられない不平等な手続きのもとに供述調書が作成され、それが民事でも絶大は証拠能力を持つという一方的な不利。加害者側の調査会社の報告書が裁判でも参考資料として尊重されるという一方的な不利。これらによる加害者との間に存在する圧倒的な不平等に対抗するためにはどうしたらよいのだろうか。
打開策について考えてみた
被害者側からのそれら一方的な不利を打開するための方法について考えてみた。ないわけではない。警察記録へのアクセスはむずかしいだろうが、せめて相手加害者から事情を聞くくらいはなんとかできないだろうか。私にまったく考えがないわけではないのだが、前例がないのだからうまくいくかどうかもわからない。ただ、従来の損保主導の示談交渉システムの枠内で物事を考えているかぎりは、袋小路にはいりこんでしまうだろう。発想の転換が必要というか、なにごともやってみないことにはわからないのではなかろうか。
民主的な民事裁判は手続的に平等であることが原則だ。攻撃防御の方法の提出、すなわち、証拠の収集や提出は平等であるべきだ。それも実質的に、機会を平等にする必要がある。被害者にだけ不平等なのはいけないと思う。そうだよね。