【今、時の人。テレビ番組の司会者として、「お前はクビだ」のセリフで有名だったらしい。言うのはかんたんだが、クビにされた者の気持ちになってみろと言いたい。無理だろうけど。】
相談
交通事故の怪我が原因でクビになりました。そのことを相手保険会社に告げたところ、「怪我が原因なのかわからないから書面で証明できたら損害という形で保障しましょう」とのことでした。それで、会社に事故の怪我が原因で解雇する旨の書面を書いてもらい、その書面は保険会社に提出しました。
しばらくして、保険会社から「あなたはもう症状固定なのでこれ以上治療費を出せない」と言ってきました。主治医にそのことを確認したら、主治医はそんなことを一言も言った覚えはないとのことでした。保険会社へは主治医からも怪我が思ったより重いのでもうしばらく治療をしたいと言っていただき、事故日から半年間の治療を認めていただくことになりました。
ところが、しばらくして「無職には実績がないんですよ。ですので無職には払えません。慰謝料の範疇なんですよ」と言ってきました。事故のために怪我をし、それが原因でクビになったというのに相手保険会社の対応があまりにひどい。長文で読みづらい文ですが、生活がかかってるが故、何卒アドバイスお願いいたします。
会社が、交通事故が原因の解雇だと認めている場合
自分の言ったことに責任を一切とらず、二転三転させるひどい相手損保担当者の対応。まったくむちゃくちゃな話です。私も解雇されたことが何度かあるので、わかりますよその気持ち。他人事ながらこちらも怒りで身が震えるほどです。
さて、ご質問の件ですが、事故と解雇との間に相当因果関係が存在すれば、解雇後の合理的な求職期間については休業損害に準じた扱いがされます。今回の件は会社側が事故による解雇だと認めているし、相手損保の指示にしたがって事故が原因で解雇されたとの証拠書面も提出しているわけです。さらに、主治医からも口添えしていただき、相手損保も事故から半年間の治療をいったん認めておきながら、反故にする。どういう神経をしているのかと思います。慰謝料という名の、伸縮自在のスズメの涙金でなくて、休業損害に準じて請求すべきです。断固として。
合理的な求職期間まで認められる
「交通事故訴訟」(民事法研究会)P412によれば
[amazonjs asin=”4896284615″ locale=”JP” title=”交通事故訴訟 (専門訴訟講座)”]
――としています。したがって、症状固定後の、合理的な求職期間についても請求可能です。
「合理的」な求職期間とは
では、「合理な」求職期間とはどれくらいなのか。平成14年5月28日東京地裁判決では治癒後3か月としており、平成18年3月28日東京地裁判決では治療が実質的に終了したときから2か月としています。
世間知らずの裁判官たち
このご時世、半年や1年求職活動をしても仕事が見つからない人が私の周辺でさえたくさんいます。2~3か月でどうして仕事が見つかるんだと裁判官に皮肉の一つも言ってやりたくなるくらいです。自分がクビになったと想像して判決を出してみたらどうかと強く思います。
本件については症状固定後を起算点にして少なくも2~3か月間の求職期間が認められてしかるべきなので当然にその分は請求しましょう。また、治療費については症状固定時期まで認められます。
自賠責での取り扱い
退職理由を調査した上で、事故が原因で退職したと認められた場合は、退職後の就労不能の実態を勘案し、治療期間の範囲内で休業日数を認定する、となっています。また、退職日以降の休業日数については、実治療日数の2倍を限度とし、休業損害額の算定にあたっては、退職前の金額および上記休業日数を基に認定するとなっています。
今回は勤務先から事故による解雇書面が確保できたケースですが、会社はなかなか解雇したとは認めたがらないのが実情です。その場合は、自己都合による退職となってしまう結果、休業損害の対象になりません。また、失業保険を支給されている場合は、その支給分を損害額から控除していた記憶があるので、失業給付金との2重取りはできないでしょう。
あと、質問内容にはなかったことですが、交通事故が業務中に発生したのだったら、治療中の解雇はできません。念のため。
【17・03・14追記】
訂正箇所がありました。記憶に頼って書いたところを資料で確認したところ間違っていました。すみません。失業手当は損益相殺の対象にならないため、いわゆる2重取りができます。すなわち、休業損害と失業手当の両方を受け取ることができます。神戸地裁 昭和45年11月18日判決、東京地裁 昭和47年8月28日判決(「赤い本2017」P346)