後遺障害を知るために読むべき本

一昨日、アマゾンより以下の本が届きました。

〔改訂版〕後遺障害等級認定と裁判実務 -訴訟上の争点と実務の視点

9年ぶりの、旧版からの改定版です。出版元サイトでは、

改訂にあたって、醜状障害に関する後遺障害等級表・障害認定基準の一部改定やMTBI問題、低髄液圧症候群・脳脊髄液減少症についての加筆を行いました。

問題の理解に役立つ医学的資料を豊富に掲載しています。

 
などと紹介していました。旧版について以前記事にしたことがあるので、今回はそれに加筆して記事にしてみました。
 
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表題について記事を書くほどの資格も実力をないのは十分わかっているつもりなのだが、つい最近、後遺障害申請業務をやりたいという行政書士さんと何度かやりとりをしていたことがあって、後遺障害をやるばあい、どういう本を読んだらいいのかが話題になった。で、参考までにと思い、ぼくがこれまでに読んだ本の中で最初に読んでおいたほうがいいと思った本などを、独断と偏見に基づき、以下のようにご紹介したことがあった。

後遺障害を知るために最初に読むべき本

①労災の認定必携

 
後遺障害等級は自賠法に基づいて1級から14級までに等級される。そして、自賠法は労災を準用している。労災の認定必携は、自賠法後遺障害のオオモトになった基本の考えを書籍化したものである。ぼくは何度読んだかしれない。読み返すごとに何か新たな疑問や発見があったりする。

②改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務


 
主要な傷病をカバーしているし、判例も過不足なく掲載されている。今回、その改訂版が出た。9年ぶりの改定である。まだ総論までしか読んでいないが、旧版とちがうところをいくつか書いてみよう。

第1に値段が高くなった。5250円から7020円である。高いよ。第2にページ数がP501からP631に増えた。総論部分はほぼ同じだが、新たに「加重」が加筆されている。「加重」とは、「後遺障害は1度認定されると重ねて認定されないのか」という記事で詳しく書いた。そこでは、

後遺障害とは、「傷害が治ったとき身体に存する傷害」(自賠法施行令2条1項2号)となっている。それも、「一生回復しない」ということが前提である。後遺障害の特徴は、このように「永久残存性」があることが基本的な発想になっている。したがって、ある部位が一度後遺障害としてある等級で評価されたら、「永久残存性」なのだから、その傷害は死ぬまで続くのであり、死ぬまでに同じような受傷をしたとしても、同一部位で同一の等級評価をされることはありえず、すでに評価しつくされているとして、後遺障害が認定されないことになる。もし、同一部位でより高度の障害が発生したなら、新たに加わった部分だけが評価の対象になり、過去に認定された重なり部分は控除される。これが自賠責の基本的な考え方である。

つまり、同一部位において、過去に認定済みの重なり部分については後遺障害として評価されない(その分を控除する)ことを「加重」というのだが、その場合の「同一部位」とはどこを指すのかと設問を立て、その説明と問題提起を行っている(P25-)。ぼくが書いた記事ではそのことに触れていなかった。重要なことを落としたのである。

後遺障害を本気でやるなら、この改定版も必携である。参考文献の紹介が充実しているし、編著として、この分野の第一人者である高野真人弁護士がかかわっている。

③交通事故におけるむち打ち損傷問題


 
後遺障害申請の7割はむち打ち関連だといわれている。むち打ちで争点になりそうところをうまく説明されており、判例についての紹介もあり、まとまりもいい。

④Q&Aハンドブック 交通事故診療


保険調査員をぼろくそにけなしている本なので、ぼくもその点について不満があり過去の記事としてとりあげたことがあった。その点を除くと、たいへんデキのいい本だ。とりわけ、医療機関が何を考えているのかを知るための必読の本である。

以上の4冊は必携である。「はじめ」ということなら、新書形式で一般向けに書かれている本がたくさんあり、上記の本を読む前にまずはそちらからと書くべきだったかもしれない。

次あたりに読みたい本

①井上久医師の書いた本。



自動車保険ジャーナルから3冊出ている。「医療調査・照会の留意点」「鞭打ち損傷と周辺疾患」「「医療審査「覚書」」の3つ。「医療審査」以外は入手困難かもしれない。

ご存知のことだと思うが、井上医師は損保業界の顧問医的立場の医師である。ぼく自身も氏の講演を拝聴させていただいたことがあるし、意見書を書いていただいたこともある。損保業界に対する影響力が絶大な方なので、繰り返しの説明も多いが、氏の書かれた本はやはり全部読んでおいたほうがよいだろう。

②むち打ち損傷ハンドブック(遠藤健司著)


手際よくまとまっている。損保業界向けに作られた医学書という趣きの本。

③オルソペディクスから出ている「外傷性頚部症候群診療マニュアル」と「外傷性頚部症候群」の2冊。


この2著からよく引用される。ぼくがこの2冊を入手したのは、伊豆で行われた損保人身担当者向けの医研センターでの医療研修に参加したときだった。2冊とも、1割だか2割だか値引きされた割安価格で、医研センター販売部で販売されていた。割引価格で販売されていたのはこの2著だけだったと記憶するが、損保人身担当者にとって必読の本だという位置付けだった。

④弁護士の為の交通外傷・後遺障害読本

後遺障害認定上の要点が簡潔に述べられていて、医師面談の際の直前の見返しなどでときどき利用していた。新版が出ているようだが、持っていないためどこがどう変わったのかわからない。ネット情報によると内容が違うようだが、著者が亡くなられる前後して旧版と新版が出ているため、内容が劇的に変わったとは思えない。なお、この本ではむち打ち損傷についてとりあげていないが、著者は「交通事故におけるむち打ち損傷問題」にもかかわっているため、そちらの本を読めば不足分を埋めることが可能だろう。

⑤標準整形外科学


井上久先生が、「これくらい読みなさい」と推薦されていた本。ぼくはその言葉を信じて即買いした。

⑥標準脳神経外科学


⑤⑥は、医師面談前に傷病内容を確認するためとか、辞書として使っていた。

持っていて役立つ本

①賠償科学―医学と法学の融合/民事法研究会

②検証むち打ち損傷―医・工・法学の総合研究/ぎょうせい


いわゆる閾値論に対する反論の書。記事として取り上げたことがある。→こちら

③エビデンスに基づく整形外科徒手検査法


この本についても、記事を書いて紹介したことがある。→こちら

個別編・高次脳機能障害

父が高次脳機能障害にかかったため、ここ最近になって一般向けもふくめ、20冊以上読んだ。その中から、とりわけ、わかりやすかった本やためになった本を3冊選んだ。
①失語症を解く

②「話せない」と言えるまで―言語聴覚士を襲った高次脳機能障害

③神経心理学入門

個別編・各傷病

各傷病の診療ガイドライン。裁判基準にもなり得るらしいから重要である。ネットで見ることができるものもある。「Minds医療情報センター」で検索してください。書籍としても、南江堂から発行されている。たとえば、


とか。

番外編

①後遺障害等級獲得マニュアル


後遺障害分野のパイオニアともいうべき交通事故110番代表者の宮尾一郎氏の最初の著書。番外編では失礼かとも思ったが、「期待はずれ」だったのでここにした。

どうして「期待はずれ」だったのかというと、この本のことを広告をみて知ったとき、どれほど期待したかわからないくらいだった。すぐに注文したが、なかなか届かず毎日郵便受けを見るのが日課になった。そして、初めて本の中身を見たときの感想が、この「期待はずれ」だった。

ページの紙質が名刺で使われているような硬質の高価なものだったし、余白が必要以上に多かった。紙質を落とし、余白も少なくすれば、ページ数も3分の2ていどに圧縮できたはずだし、1万円以下の価格にできたでしょうに。しかも、内容はどれもHPで見たようなものばっかしだったので、買うまでもなかったなあと思ってしまった。ぼくの期待――HPの内容をさらに詳しく説明してあること――がそれだけ大きかったのである。そのことからくる「期待はずれ」だった。仮にHPで情報公開されていなかったなら、「まず初めに読むべき本」にいれていい本である。

交通事故110番さんは情報公開に積極的なので、あえて本を買う必要はないと思うけれど、買うのだったら、分冊されている新版でもどうか。秋葉さんというやり手の行政書士さんも参加されているようだし。

②標準法医学


自殺か事故(過失)あるいは殺人かというような、傷害保険向けの参考書である。

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後遺障害に関する記事を書くとき

ところで、後遺障害に関する記事を書くとき、ぼくがもっぱら参考にするのは、このように市販されている本からの情報や非公開の資料の情報、それとネット情報です。オオザッパですが、それぞれ1/3ていどの割合で利用しているように思います。それでもどうしてもわからんときは知人など専門家に確認します。

保険調査の仕事をやめてからは、内部情報を得る機会が少なくなったため、市販化されている本からの情報のウエートがどうしても高くなっています。市販化されている本で参考になりそうな本がないかと、他のサイトを調べてみたところ、弁護士や行政書士のサイトでいくつか紹介記事を見つけました。後遺障害を知るための本として、そちらでふつうに紹介されているいわゆる赤本の付録を除くと、おびただしい数の医学書の紹介でした。恥ずかしながら、ぼくは赤本をつい最近まで1冊も持っていなかったのであまり参考にしたことがありませんし、医学書にしても、他のサイトで紹介されている本の1/5くらいしか知っている医学書がありませんでした。まだまだ勉強が足りないと痛感しているところです。

 

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にし、自己を無責任な立場に置くことになる。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。丸山真男のことばを最後に引用しておきます。

丸山真男から

ゲーテは「行動者は常に非良心的である」といっておりますが、私たちが観照者、テオリア(見る)の立場に立つ限り、この言葉には永遠の真実があると思います。つまり完全にわかっていないものをわかったとして行動するという意味でも、また対立する立場の双方に得点と失点があるのに、決断として一方に与するという意味でも、非良心的です。にもかかわらず私たちが生きていく限りにおいて、日々無数の問題について現に決断を下しているし、また下さざるを得ない。純粋に観照者の立場、純粋にテオリアの立場に立てるものは神だけであります。その意味では神だけが完全に良心的であります。

私たちの社会というものは、私たちの無数の行動の網と申しますか、行動の組合せから成り立っております。社会がこうして私たちの行動関連から成り立つ限りにおいて、私たちは行動あるいは非行動を通じて他人に、つまり社会に責任を負っています。その意味では純粋に「見る」立場、ゲーテの言う意味での完全に良心な立場というものは、完全に無責任な立場ということになります。

したがってこの点でも神だけが、完全に無責任でありうるわけであります。認識することと決断することとの矛盾中に生きることが、私たち神でない人間の宿命であります。私たちが人間らしく生きることは、この宿命を積極的に引き受け、その結果に責任を取ることだと思います。この宿命を自覚する必要は行動関連が異常に複雑になった現代においていよいよ痛切になってきたのです。

世のなかには一方では、認識の過程の無限性に目をふさぎ、理論の仮説性を忘れる独断主義者もいれば、またそもそも認識の意味自体を頭から蔑視する肉体的行動主義者がいます。しかし他方その半面では、物事はそう簡単にはイエスかノーかきめられないのだ、もっとよく研究してからでなければなんともいえないという名目の下に、いつも決断を回避することが学者らしい態度だという考え方がかなり強い。

あるいは対立する政治的争点に対して、あれももっとも、これももっとも、逆にそれを裏返しとして、あれもいけない、これもいけないということで、結局具体的な争点に対して明瞭な方向性を打ち出すことを避ける態度をもって、良識的であるとか、不偏不党であるとか考える評論家やジャーナリストもかなりいるようであります。

たびたびゲーテの言葉を引いて恐縮ですが、ゲーテはこういうことをいっています。「自分は公正であることを約束できるけれども、不偏不党であるということは約束できない。」今申しましたような世上いわゆる良識者は対立者に対してフェアであるということを、どっちつかずということと混同しているのではないでしょうか。
「現代政治の思想と行動」丸山真男 P452-454

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