調査会社の調査の正確性・信頼性について

ある弁護士さんのぞっとした話

ある弁護士さんのサイトを拝見していたら、こんなことが書かれていました。

最近、相次いで、損害保険リサーチ会社(調査会社)が事故状況の調査に入ってきたケースが続きました。

そもそも、調査会社がどういうものか知られていませんが、建前としては、損保会社からは独立した会社で、事故状況などを調査するところです。損保会社は、第三者機関が調査した結果だといって、調査会社の報告書に基づいて、過失相殺率を主張したりします。

しかし、調査会社は、損保会社が出資している会社です。損保会社が出資していない調査会社もあるように言われていますが、そうだとしても、調査費用は、損保会社が支払っているはずです。そうすると、やはり損保会社寄りの調査しかしないのではないかという疑いは拭えません。もっとも、加害者側・被害者側双方が自動車保険(任意保険)に入っている場合は、過失相殺率にしたがって双方の損保会社が支払をするので、どちらかに偏るともいえないのでないかという気もします。

そんなわけで、調査会社の調査については、何となく信用できないなあといった程度の印象で捉えていたのですが、先日、調査会社の調査には、実は、もっと初歩的な問題があることを痛感しました。

調査会社の担当者は、双方に面談して、双方の言い分をまとめ、図面を作ります。ところが、その面談のときに話した内容が、不正確にまとめられていることがあったのです。その被害者の面談には、代理人弁護士として立ち会いました。その被害者が話したこと、しかも、その点は重要だとして強調していたことが、違う内容で、被害者からの聴取内容としてまとめてあったのです。

幸い、そのときは、弁護士が立ち会っていて、弁護士が被害者の話したことをメモしていたので、その誤りを指摘することができました。しかし、立ち会う者がいなければ、誤った報告書の内容を前提として過失相殺率を考えなければいけなかったのかと思うと、ぞっとしました。

 

裁判所でも調査会社の報告書は重要らしい

最近になって読み返している「判例をよむ 簡裁交通事故損害賠償訴訟の実務」でも、調査会社の報告書が一定の役割を果たしていることを知りました。


 

物損請求事件(は)・・・保険会社が背後にいるから、少し時間をおけば保険会社がきちんと対応していろいろ書証を出してくる。(P19)

 
そして、その書証の中には調査会社の報告書も含まれていて、
 

信号機の設置の有無やその他の交通規則の有無、制限速度等の認定には、物損請求事件では、警察官の作成した実況見分調書が存在しないから、保険会社又は調査会社等が作成した事故状況報告書等が参考になる。(P23)

 
としています。

調査経験者はもっとぞっとしている

ここまで読んだ調査員の方は、ぞっとしているのではないかと思います。自分たちの書いた報告書がここまで重要なものだとの認識に欠けているからです。示談時の参考資料くらいの意識しかない調査員がほとんどだからです。裁判の資料になると思いつつ調査している調査員はかなりの少数派です。調査員の立場になっていえば、事故状況調査の単価が非常に安く、量をこなさないと生活ができません。量をこなすということは、1件1件の質が当然落ちるということです。それを、調査員の怠慢だと批判するのはかんたんなことです。しかし、1000円もらって、2000円分の労力を使えと言われてできますか。1回だけならともかく、たいていがそうなのです。このように、調査員個人の資質というような問題ではなくて、もっと構造的な問題なのです。であるなら、調査員の地位向上にもっと目をむけるべきではないでしょうか。
 

構造的な理由1

まず、事故当事者から事情を聞くといっても、たいていは自宅か喫茶店です。事故現場で事情を聞くことはふつうやりません。事故当事者が現場まで行くのを嫌がるというのがひとつの理由ですが、それだけでなくて、現場まで行くなら、事故の発生時刻に合わせることも必要になりますから、テマヒマが倍加されることになります。とてもじゃないけれど、調査員の報酬に見合わない。

その結果、自宅か喫茶店で、かんたんな図面上で、ここで相手車に気づいて、ここで危険を感じて、ここでブレーキを踏んで・・・などと、その図面上に印をつけていく。はたして、そんなので事故状況の再現が可能なのでしょうか。正確な位置関係を知りたいなら、事故現場で、できれば同時刻に、少なくとも夜の事故を昼間に検証するようなやり方ではだめだと思います。

調査員になりたてのころ、ぼくは律儀に夜の事故は夜に、なるべく事故発生時刻にあわせて現場確認をしていました。たとえば夜の12時に発生した事故なら、その時間帯に現場に行くのです。自宅から50キロほども離れているところに。午後11時に自宅を出発して、1時間かけて現場の確認をする。自宅に帰るのは午前2時です。しかし、そのための特別手当が支給されるわけではありません。どんなに使命感が高かったとしても、いずれ萎えてきます。あなたなら、できますか。
 

その理由2

もうひとつは、事故状況の調査に慣れてくると、一種の予断が生じます。予断と言ったらなんですが、仮説と言ってもいい。意識的であれ、無意識的であれ、予断を抱かないことは不可能です。この事故はたぶんこういう事故なのだろうと、事故当事者に会う前から決めてかかることです。

これは警察の事故調査でもよく言われていることですが、自分の描いたストーリに沿って、事情を聴取していくことになる。事故当事者としては自分の答弁にアイマイなところがあるのですが、それも描いたストーリに沿うような質問を繰り返すために改変される。この改変作業は、意識的というより無意識的に行われることが多い。だから、一番最初に紹介した弁護士が驚いている話ですが、ぼくにはちっとも驚きではありません。十分ありそうな話なのです。

事故状況調査はまだいいと思います。時間制限がないからです。事故当事者が嫌がらなければ1時間でも2時間でも面談できるからです。面談内容の再確認を実施するだけの時間的余裕があるからです。実際にぼくは再確認を行っていました。しかし、ひとつの面談時間に1時間も2時間もかけていたら、対費用効果は明らかにマイナスです。それでも、いい調査をしたいと思ったら、対費用効果マイナスを覚悟しなければいけません。事故状況調査についてはマイナス覚悟でたいていの調査員はやっていると思います。

医療調査はもっと深刻だという話

これが医療調査だともっと事態は深刻です。医師との面談時間が時間制限なしというわけでなく、たいていは10分とか15分とかで行わなければいけないからです。さらに、調査を依頼する保険会社のほうも、高い料金を支払っているという意識が強いのかどうかわかりませんが、なんでもかんでも調査事項にいれてくる。わずか、10分か15分の面談時間しかないにもかかわらずです。

そのことで一度だけ依頼先の保険会社に質問事項をもう少し絞りたいのだがよろしいでしょうかと提案したことがありました。相手の主治医は途中退席の常習者だったためのやむをえない提案です。ところが、この提案に対して、やれないのだったら医療調査を出した意味がないなどと、保険会社担当者は立腹され、最終的には損保支社の所長クラスにまで話がいってしまって、おまえのところにはもう依頼はしないということになりました。ぼく個人に依頼しないのはそちらの勝手ですが、全体の責任にする。

通院状況などレセプトや診断書をみればわかるようなことまで調査事項にいれてくるな。一般的な調査事項くらいなら馬鹿でも考えなくてもわかる。事例に応じた適切な調査事項を考えろよと言いたくなったくらいです。

話を元に戻すと、時間制限があり、調査事項が多ければ、ひとつひとつの調査事項を矢継ぎ早にテキパキと処理する必要が生じます。調査事項が多いと、全部を確認するだけで面談時間が終了してしまいますから、聴取した面談内容の再確認ができないことが非常に多い。ときどき、話好きの先生がいて、20分も30分もつきあってくれるときは、再確認を実施します。で、してみると、最初の面談でメモった内容が違っていることがときどきありました。これはぼくの実体験です。

もうひとつの実体験。医療調査でA病院に行ったときのこと。ぼくと同業者らしいのを待合い室で見かけることがよくあるのですが、そのときもそうでした。面談開始時間まで待っていたのですが、主治医が出てきて、おたくら、同じ患者さんのことを聞きに来ているのだから、どうでしょう、お2人いっしょに面談されては。ということで、ぼくは某大手損保の調査担当者と同席で医師面談に臨みました。で、面談が終わったあと、双方で医師面談の内容の感想を述べ合ったのですが、同一の医師からの同一の面談内容だったのに、調査主体が違うと、その抱く感想がぜんぜん違うのです。それでびっくりしたことがあります。

弁護士は調査員をパートナーとして迎えるべきでないのか

弁護士や裁判官は、今ぼくが書いたような事情をまったく知らないのです。まったく知らないで書類だけが一人歩きしている。その書類で権利関係を判断している。

ぼくから弁護士の方への提案なのですが、過失割合や後遺障害などを調査されるとき、調査の内実について、調査の舞台裏について知っている調査員を自分のパートナーとして協力させてみたらどうでしょうか。ところが、調査の仕事を弁護士事務所内で内製化しているのが現実だと聞いたことがあります。餅は餅屋に任せる。調査は調査員に任せてみる。そのことの重要性がまるでわかっていない弁護士をぼくはこれまで何人も見てきたので、こんな提案をしても無駄かもしれません。が、ちょっとは検討していただきたいものです。

コメント

    • lucky
    • 2016年 6月 20日

    こんばんは。

    私の知っている調査員は、調査料を稼げば「自分が優秀」と勘違いする人が多いです。
    だから、どこで仕入れてくるの、思いつくのか、正しさの根拠がとんとわかりませんが、
    迷惑なアドバイスを平気でしてくるのでとても困ります。

    例えば「車は60度までしか曲がらない」
    「症状固定という医学用語はないが、医学的症状固定という医学用語がある」
    頸椎捻挫の医師面談の質問事項で、「『受傷部位』を聞かない調査は調査でない」
    ほかにも笑えるアドバイスがあるのですが・・・。

    中には基本的な知識がわからない(経験を積めば知識も身につくと考えている愚かな人物)人も
    いますので、待遇改善と同時に愚かな調査員の淘汰は必要なのかもしれません。

      • ホームズ事務所
      • 2016年 6月 20日

      luckyさん、いつもコメントありがとう。

      >私の知っている調査員は、調査料を稼げば「自分が優秀」と勘違いする人が多いです。

      ぼくがいたところもそうでしたよ。そういう人がふたり。会社側はそういう人を重宝するし。

      仕事が早いというのは大切なことのひとつですが、そういう人たちというのは件数をこなすことばかり考えて、無駄だと思われていることには見向きもしません。たとえば医研センターの研修。この研修に参加すると、研修期間とその前後も含めると1週間近く調査ができなくなるため、減収を強いられるので、出たがりません。会社は会社のほうで、その間の収入補償というか日当くらい出したらいいと思うのだけれど、交通費くらいしか出してくれません。研修中に親しくなった共済の人にそのことを話したら、びっくりされていました。

      調査員個人の問題よりも、人を育てようという気がまったくない会社に、その姿勢に問題の根源がある。いやならやめてくれてけっこう、代わりはいくらでもいるのだという姿勢です。だから、すぐに代用できる程度のスキルしか身につかず、育ちません。かつて調査員は正社員で身分が保障されていたのに、今は業務委託という下請け化がそうとうに進んでいるとも聞いています。研修も下請けの負担でという姿勢です。これではますます専門知識の習得がむずかしくなります。

      依頼する損保もそのことにうすうす気づいていて、調査員の書いた報告書を尊重する気がありません。交渉の材料として、都合のいいところをつまみ食いしているだけのように思います。それで責任問題が生じたら、調査会社のせいにする。調査会社は調査会社で、調査員個人の問題に矮小化する。

      症状固定については何語なのかぼくも調べたことがあります。
      医学用語。労災用語。賠償用語。法律用語・・・。

      医学用語だと唱えているのは某NPO法人の代表者です。ほかに「交通損害賠償算定基準」という本で弁護士も同様のことを書いていたように記憶しております。

      しかし、当の医師である井上久は、医学用語ではないとはっきりおっしゃっていますし、ネットの医学用語辞典で調べてみたことがありますが、見つかりませんでした。

      労災用語というのは労災の認定必携という本に載っていることを根拠にしているので、これがすわりがいいようにも思いました。

      いずれにしろ、「医学的症状固定」という表現は初耳です。その人が勝手に作った造語なのでしょう。自分ができると勘違いすると、苦し紛れにだったり、できることを誇示したいがためにだったりで、こんなおかしなことを言う人がたまにいますね。

      >中には基本的な知識がわからない(経験を積めば知識も身につくと考えている愚かな人物)人もいますので、待遇改善と同時に愚かな調査員の淘汰は必要なのかもしれません。

      現状ではだれでもなれそうな職業のひとつなので、待遇改善と愚かな調査員の淘汰、それと調査会社の「ひらめ」幹部の総入れ替えくらいやらないとダメかもしれません。

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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