自賠責骨抜き化後のディストピアとしての未来

自転車事故の任意保険対応化と、自賠責保険制度の完全任意保険化

「ハンドブック・交通事故診療」という本について、[amazonjs asin=”4990651588″ locale=”JP” title=”Q&Aハンドブック交通事故診療”]

以前、医者による偏見本だと酷評したけれど、医者の利害関係にかかわるところは眉唾なところもあって注意しないといけない本だが、最新版だけあって新しい情報が盛り込まれているし、個々の情報はまとまりもいいので、いま、最初から最後まで読んでいるところである。

自転車事故の任意保険対応の現状

その「はしがき」のところに、おや、と思った記載がふたつあった。

最近は自転車同士の事故や自転車と歩行者の事故も多発しています。過失相殺の問題があまり問われない自賠責保険同様の被害者救済のための強制保険の導入が安い保険料でいずれ検討されるものと考えます。通学の学生さん達は、団体保険として任意保険が保険会社から提供されていますが、自転車のマナー違反が継続して被害者が増加すれば、強制保険が提案されることも考えておく必要があります。

まったくの正論である。私も何度かこのことについて書いたことがあるのだが、マスコミ等は自転車の強制保険化を話題にするし、現に、兵庫県では強制保険化のための条例が話題になったことがあるが、そこでは任意保険の強制保険化ということだった。本来なら、自賠責保険の拡張というか適用ができるようにすべきだという方向の議論になっても決しておかしくないのに、その方向に向おうとしない。国は一切知らん顔をし、その負担を個々の国民に押し付ける。いわゆる自己責任の拡大で対応しようとしているのだ。このような「最初に結論ありき」になっていたから、それはおかしいので記事を何本か書いたことがある。だから、こういうまっとうな主張が聞けて、おや、と思ったわけである。

自賠責保険制度の完全任意保険化

つづけて、

最後に、現在TPP交渉の中で、金融関係の問題として自賠責保険制度の完全任意保険化が懸念されています。内容は、米国の国会議員のみが知り得て、日本の国会議員は官邸の関係者以外は知り得ないことになっています。不平等条約を永年かけて改正してきた明治の政治家と比べて、最近の国会議員の不甲斐なさは、驚きとともに誠に残念でなりません。日本民族の誇りを胸に、しっかりとした民主主義の実現のためにも、政治家として重大な責務を果たしていただきたいと存じます。

「自賠責保険制度の完全任意保険化」。医療費の基準は政府が決めるのではなく、そこに市場原理を導入しようということ、国民の健康や生命さえも企業の金儲けの手段にしようということだ。だから、きわめて当然の危機感の表明なのである。しかし、ネットで検索しても同様の危機感を表明している情報がまったくみつからない。先にあげた問題にしても、この問題にしても、だれもとりあげようともしない。いったいどうなっているのだろう。

自賠責保険制度の完全任意保険化への道

「自賠責保険制度の完全任意保険化」ということで二つの道が考えられる。ひとつは、自賠責保険を廃止して任意保険ですべてまかなう。もうひとつが自賠責の骨抜き化である。

自賠責をなくすというと、ふだんは羊のようにおとなしい国民でも反発が予想されるので、オバマケアのように、自賠責は残すもののその補償額をもっと小さなものにする。今でさえ、補償額が小さいのに、いきなり減らすのではなくて、逓減させる。極論だが、事故で病院へ行っても赤チンを塗るていどの補償はあるが、それ以上のことは任意保険に加入していないとどうにもならなくする。あるいは、補償額は仮に今のままでも、薬代や治療代がもっともっと高額にして、自賠責の補償額ではぜんぜん足りなくさせる。結局は、任意保険の加入を強いられることになるのだが、薬代や施術代が高額化すれば保険料も高額化する。事態はそんなふうに進むのかもしれない。

アメリカの現状

TPPと医療費や、オバマケアについての詳しい情報を提供しているサイトがある。現代日本の病理を斬る診療内科医・珠下なぎ先生のサイト

オバマケアについては、オバマが黒人初の大統領として期待され大統領に就任するときの、いわゆる目玉商品のひとつだった。これで、すべてのアメリカ国民は皆保険化されその恩恵に浴することができる。医療にかかれないという問題が解消されることが期待されていた。しかし、他方、オバマの就任前から、オバマのパトロンが薬品会社を含めた大企業や富裕層だったことから、期待どおりにいかないのではないかと危ぶまれていた。

アメリカの医療費がどれくらい高いのか。医療費が高いと言われるニューヨークのマンハッタンの例。

治療内容 医療費
急性虫垂炎(盲腸)手術後に腹膜炎を併発(入院8日) 7万ドル
(約791万円)
腕を骨折して手術(1日入院) 1.5万ドル
(約180万円)
貧血で治療(2日入院) 2万ドル
(約226万円)

※レート:1ドル=113円で計算
(参照元:外務省

ディストピアとしての未来

アメリカの医療費がどれほどバカ高いか実感できたでしょうか。日本には高額医療費制度(医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度)という医療費軽減制度もあるから、それもなくしたら、その格差がさらにすごいことになる。自己責任とはそういうことだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください