目次
相談
私の夫が交通事故で他界しました。私とは内縁関係で10年同居していました。夫には、前妻との間に子供が1人います。その子供が法学部出で、法律に詳しいこともあって、加害者側損保との窓口になっております。先ごろ、その子供からの話ですが、自賠責の慰謝料については内縁であることを理由に私に対しては支払えないと言ってきたそうです。
理由は、民法では、相続権があるのは法律上の配偶者であり、事実上の内縁関係の場合は相続権がないこと、自賠責についても、慰謝料請求権者は被害者の両親・配偶者及び子なので、法的には内縁の妻には請求権がないからだそうです。
内縁の妻には、本当に慰謝料は出ないのでしょうか。
内縁でも慰謝料の請求はできる
前妻の子供が法学部出ということですが、法学部を出たからといって法律に詳しいとは必ずしもいえません。そのいい例が私です(苦笑)。仮に本当に詳しかったとしても、真実を述べているかどうかはわかりません。つまり、知識があることとそれをどう使うかはまったくの別問題です。そこを勘違いされているように思います。
>内縁の妻には、本当に慰謝料は出ないのでしょうか。
出るはずですよ。前妻の子供の言うことはおかしいと思います。
内縁はたしかに相続人ではないため、夫自身の死亡慰謝料を相続することはできません。それは本当ですが、内縁であることから発生する固有の慰謝料があります。それの請求はできるはずです。詳しく説明すると、そもそも慰謝料は一身専属なものという沿革があり、当初は被害者本人にのみ認められたものです。その後、被害者死亡の場合は被害者自身が亡くなっているため請求できないことから、近親者にも慰謝料請求権が認められるようになりました(民法711条)。さらにその後、10歳の女児の容貌が著しく傷つけられ、その母親が慰謝料を請求した事案で、被害者本人の死亡の場合だけでなくこのような重大な傷害の場合についても、「死亡に比肩し得べき精神的苦痛」を受けたとして、近親者の慰謝料請求権を認める最高裁判決が出ています。
そして、もし夫から扶養されていたのなら、その扶養のための請求権が侵害されたことになるため、その損害賠償の請求も可能です。
自賠責の内縁に対する対応の仕方
自賠責は内縁についてどのような対応しているか、この際なので、私のあやふやな知識ではなくて、出典を明示して詳しく説明しておきます。自賠責の運営についてはその指針があり、「自賠責損害調査関係規定集」に基づいています。自賠責調査事務所が後遺障害認定を行うときなどのいわゆる「虎の巻」ですね。自賠責調査事務所の担当者が所持しているだけでなく、各損保人身担当者も所持しております。
部外秘なので一般には公開されていませんが、事故110番さんがその資料をどこからか入手されたらしく、「Nliro調査事務所も眉をひそめる自賠責保険徹底研究」として公開しております。以下が、そこからの引用です。
①内縁関係?
婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻と同様の関係にある者については、遺族慰謝料を認定する際は、民法で説明される配偶者に準じて取扱いがなされます。
②事実上婚姻と同様の関係にある?
住民票、健康保険証、近隣者、町会長等からの証明、結婚式を挙げていればその証明?これは結婚式場、媒酌人から書類を取り証明します。
勤務先の証明、被害者の近親者からの証明内縁の配偶者を含み、相続権者、遺族慰謝料請求権者の全員が同一の請求者に委任しており、かつ内縁の配偶者を含まなくとも損害額が自賠責保険の保険金額の3000万円を超えている場合は、上記は考慮されません。
愛人関係で「被害者に扶養されていた! こんな請求がなされても、内縁関係と認められません。
世間はこれを不倫と呼びますが、不倫は不認となるのです。
「徹底研究」とありますが、これはほとんどが「規定集」からコピーしただけみたいですね。違っているのは、不倫は不認・・・という宮尾氏らしい(?)ジョークが加わったくらいです。
この運用規定にも書いてあるように、内縁は遺族に含まれ慰謝料の請求ができます。
扶養請求権についても、「逐条解説 自動車損害賠償保障法」(ぎょうせい)で確認すると、自賠責上も、内縁の妻について、扶養関係にあり、その扶養請求権が侵害された場合は財産的損害賠償を請求できるとしており、同居の有無や扶養の有無等の事情を勘案して請求を認めるとしています。これは、最高裁の判例【平成5年4月6日】をうけてのものです。もうどうにかしてよというくらいの読みづらい恐るべき長文ですが、下にその判例を孫引きで紹介しておきます。
愛人とか、このごろあまり使われませんが、同棲関係とかでないかぎり大丈夫です。内縁とは婚姻届が出ていないだけで、他は実質的な夫婦の関係にあるものを指します。そこが、愛人とか同棲とかと違うところです。
民法における交通事故死亡被害者の内縁の対応の仕方
なお、民法についても補足しておくと、
内縁当事者間には夫婦間の扶助義務が準用されるから、内縁当事者の一方の事故死などについては、扶養請求権の被害あるいは扶養利益の喪失として、損害賠償請求権や保険金受給権が認められている。また配偶者に準じた者として、生命侵害の慰謝料(民711)も認められる。死亡した者に相続人がいる場合には、内縁配偶者の扶助にあてられるべき部分(つまり扶養利益喪失分)を控除した残額が、相続人に帰属するという扱いになる(札幌高裁昭和56年2月35日)。(以上、「家族法」二宮周平より)
ということで、自賠責保険側が支払いができないと拒否したというのは考えにくいことです。というか、ありえない話です。自賠責保険側に直接確認してみたらどうでしょうか。
自賠責の後遺障害認定実務は秘密主義
余談ですが、「自賠責損害調査関係規定集」で思い出したことがありました。交通事故によって受傷し、後遺障害があるのかどうか、あるなら第何級に該当するのかについて審査する機関が自賠責の調査事務所です。その調査事務所の担当者の方がかつて情報発信していたブログがありました。大変貴重なブログだと、私は思っていました。そんなブログがかつてあったのです。
後遺障害についての情報発信をしているのは弁護士か行政書士がほとんどですが、そこに書かれている後遺障害に関する記事は、それこそ玉石混交で、明らかに間違っているものや、本当なのだろうかと疑問に思うものがまれではありません。そういうとき、私はこのブログにどれほど助けられたかわかりません。それほど貴重なブログが、何の前触れもなく、忽然と消滅してしまいました。
このブログを最初に訪問したとき、当の自賠責事務所の内部からの発信なだけに、いつまで続けられるのだろうかと心配でした。書いている当人は後遺障害認定にまつわる誤解に基づく「都市伝説」について説明するためにブログを始めたのであり、自賠責という組織を批判するという姿勢は一切なく、自賠責事務所の実際はこうなんですよという、皆さんに知っていただいて誤解を解くというスタンスで書かれていました。
しかし、後遺障害の認定に関する情報自体は公開されておらず、いわば秘密主義的な運営をされていましたから、いずれ圧力がかかってこのブログがなくなるのではないかと、最初の1回目の訪問の際に思ったものでした。後遺障害専門家である士業の方に対しても辛口のアドバイスをしていたので、立腹された方もおられたかもしれませんが、大変参考になるブログでした。私自身が書いた記事もこのブログで記事として批判的にとりあげてくださったことがあり、それに対してコメントをいれたことがあります。
ところで、今回記事としてとりあげた「自賠責損害調査関係規定集」という資料があることをご存知だったでしょうか。自賠責調査事務所が後遺障害認定を行うときなどの「指針」あるいは「虎の巻」です。自賠責調査事務所の担当者が所持しているだけでなく、各損保人身担当者も所持しております。その「虎の巻」の最初のところに、以下のような文言があります。
本規定集の管理には万全を期し、請求関係者・各種共済・代理店等部外者に対し、規定箇所を明示して認定経緯・理由等の説明をしてはならない。部外者に対し、規定箇所を明示して認定経緯や理由等を説明してはならない。
情報公開の流れに逆らうというか、損保に対しては事実上情報公開されているのですから、一方通行の「使用上の注意」だと私は思います。交通事故被害者のために、後遺障害についての情報発信をネット上で行っているのが弁護士や行政書士ですが、このように情報が一方通行のため、事故被害者のための情報のどこまでが正しいのかわかりません。眉に唾をつけながら、その発信内容をみるしかありませんでした。それだけに、先のブログが閉鎖されたときは大変残念でした。もう2、3年前の話です。
今回の記事のまとめ
内縁であることで請求できるもの・できないもの
内縁は相続人でないため死亡した夫の慰謝料は相続できない。
が、内縁であることから発生する内縁固有の慰謝料は請求できる。また、夫から扶養されていた場合は、扶養できなくなったことによる損害賠償が請求できる。
自賠責の請求手続で注意すること
自賠責の請求手続ですが、内縁であることを立証する必要があります。戸籍では立証できないため、繰り返しになりますが、以下の書類が自賠責では利用されています。
(1)住民票
(2)健康保険証
(3)町内会長等からの証明書
(4)結婚式をあげていればその証明
(5)勤務先からの証明
(6)近所の人の証明
(7)被害者の近親者の証明
請求の際には、同居していたことがわかる住民票や、内縁の妻を被保険者とした健康保険証、近隣者・被害者の近親者・勤務先等からの証明などの資料によって、内縁関係にあったことを証明する必要があります。扶養請求権については、内縁の妻が夫から扶養を受けており、加えて妻に自活能力がないことを証明しなければなりません。
[showwhatsnew]