実況見分調書は物損事故でも作成される

実況見分調書に関するネット上の情報

>交通事故における実況見分調書とは、人身事故を起こした際に、警察が現場検証を行って事故の様子を細かく記した書面のことです。

>実況見分調書は、人身事故であった場合の刑事処分のために作成する書類で、民事の損害賠償を目的として作成をされるものではありません。

>人身事故の場合、警察は刑事事件として事故直後に実況見分を行います。その結果を書面にしたものが実況見分調書です。

> 実況見分調書とは、人身事故の際に当事者が立会いの下で、警察が事故状況をまとめた書類です。物損事故の場合、実況見分調書は作成されません。物件事故報告書のみが作成されます。

実況見分調書は物損事故では作成されないは間違い

ネットで「実況見分調書」を検索したら、こんなふうな説明ばっかしだ。ほかにももっといっぱいあるが、同じような文言の繰り返しばかりなので、いいかげんうんざりしてきた。物損事故の場合、実況見分調書は作成されませんというご意見ばかりなのだ。いや、そんなことはないんじゃありませんか。物損事故でも実況見分調書が作成されることがあるはずだ。たとえば「判例をよむ 簡裁交通事故損害賠償訴訟の実務」という本の、P34のところに、実況見分調書が添付されているのだけれど、この事故はまぎれもない物損事故である。そのときの実況見分調書がこれである。
 
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どうでしょうか。物損事故でもちゃんと作成されていますよね。問題は、物損事故ならどんな場合でも作成されるわけではもちろんない。しかし、例外的に作成される場合があることだ。そのことを知らないととんだ間違いを犯すことになる。では、どういう場合に、物損事故でも例外的に実況見分調書が作成されるかである。ぼくが知っていたのは以下の3つの場合だ。

物損事故でも実況見分調書が作成される場合

第一。現状物損事故扱いになっているが、将来人身事故扱いに変更されることが予想される場合。これは理由を書かなくてもわかるでしょう。

 

第二。いわゆる当て逃げ事故の場合だ。逃げた方が加害者かもしれないが、ひょっとして被害者かもしれない。そもそも事故当事者の片方がどういう人で、どういう状況なのかわからないから、これも実況見分調書を作成する。

 

第三。信号青・青主張の場合だ。お互いの主張がまっこうから対立しているため、すぐには解決しそうにない。だから、この場合も、たとえ人身事故でなくても、実況見分調書を作成する。

 

信号の色で争いがある場合は、物損事故でも作成される

調査員時代に、物損事故なのに実況検分調書が作成されていたことが何度かあった。あれっと思い、親しい警察官に聞いたら、ぼくにそおっと耳打ちしてくれたのだった。物損事故であるにもかかわらず実況見分調書が書かれる場合がぼくが聞いた以外にももしかしたらあるかもしれない。それで、さっきからそのことを説明しているサイトがないか探してみたのだけれども、出てくるのはジンシン・ジンシン・ジンシンなどと、どいつも、こいつも、実況見分調書は人身事故でないと作成されないと決め付けていやがる。だから、そんな記事がヒットするはずはなかった。

先ほど紹介した実況見分調書が添付されていた事故は、物損事故でも実況見分調書が作成される第三の場合、すなわち、信号青・青主張の場合である。現場に臨場した警察官はすぐに解決できないと思ったから、物損事故であるにもかかわらず、事故報告書ではなくて、実況見分調書で作成されたのだ。ここがすごく大切な点である。

双方が信号青・青主張で争いがあった例

では、ここで本裁判について確認しておこう。

相模原簡裁 平成24年3月27日判決

【要旨】

本訴事件及び反訴事件とも同一交通事故による損害賠償事件であり、本件は、自動車同士が衝突した交通事故について、訴外Yが運転していた原告所有の普通貨物自動車と、被告が運転していた普通乗用自動車が、交差点の曲がり角で出会い頭衝突した交通事故について、原告及び被告双方とも対面信号が青であった旨主張したが、裁判所は、被告が対面信号機が赤になっていることに気づかず、かつ交差点の安全確認不十分のまま漫然と時速30キロの速度で進入し、直前にY車を発見したが間に合わず出会い頭衝突したと認定し、双方の過失割合は、原告車のYが5%対被告95%と認めた事案(確定)。

 
双方が青・青主張の事故で、裁判所は被告側が赤進入したと認定している。その決め手になったのがこの実況見分調書の記載である。その調書の中で、事故直後の実況見分時に、被告が赤信号で進入したと供述したと書いてあったことを理由とする。被告の主張は、当初自分は青主張をしていたが、警察署に出頭してから長時間(午後5時から午後11時)に及ぶ尋問を受け、「赤信号だったことを認めろ」「認めれば軽い罪にしておく」などといわれ、「どうでもいい」気持ちになって警察官の言うとおりに「つじつまを合わせた」と主張している。

しかし、おかしな話だ。裁判所の判断では、事故直後は事故当事者に信号の色で争いがなかった、原告の主張どおりだったということになるのだけれど、では、どうして事故報告書でなくて実況見分調書になったのだ。ぼくにはそこが大きな疑問なのだ。

ぼくが疑問とするところの背景説明がいまいち足りなかったかもしれないので、本書でその関連部分を引用する。

本件事故後、行われた警察官の実況見分の調書(甲第5号証、別紙)では、警察官の双方からの聴取結果を記載した実況見分調書の事故概要では、「前方交差点信号機が赤色を示しているにもかかわらず、西日が逆光となり、(被告が)前方注視を怠ったためこれに気が付かず、かつ交差点の安全確認不十分のまま漫然進入したため、左方から青信号に従って進行してきた車両と衝突。」と記載されていること、その他見分状況欄には、被告が「停止した地点で確認した信号機(②)は赤色」と指示説明しているにもかかわらず、被告は、そのようなことはいずれも言っていない。

警察官は、警察署に行ってからも、「被告の対面信号が赤であったことを認めなさい」ということを午後5時から11時ころまで延々と言われた。そして、「赤であったと認めれば、この種の事件で最も軽い罪にしておく」と言われた。警察で赤であることを認めた理由は夜が遅く、疲れていたのと、翌朝早い時間に知人に会う予定があったことと、(どうせ保険会社が支払うのだから)どうでも良い気になり、つじつまを合わせておいた。」などと、取り調べにあたって警察官が被告に対し、あたかも脅迫または威迫や、利益誘導的な取り調べが行われたかのように供述するが、本件では、警察官が被告に対し、脅迫的言辞を用いたり、威迫的な態度を取ったり、乱暴な言葉を吐いたり、利益誘導したりしたことを認めるに足りる証拠はない。

却って、被告自身そのような脅迫的な取り調べはなかったことを認めている上、本件事故を体験していない第三者である警察官が、実況見分直後に「西日が逆光となり」というようなまことしやかな表現をすること自体不自然であり、実況見分時には被告自身が、「停止した時点で確認した信号機(②)は赤色」と虚偽の事実を記載することを容認したこと自体にわかに信じがたいことである。

したがって、前記の実況見分調書を虚偽の文書であると主張する被告の供述は信用することはできない。却って、事故直後の警察官に対する供述及び指示説明が信用できる。

さらに、仮に警察での被告の供述が嘘を書かれていたのであれば、その後の当事者間での示談書を交わすにあたり、そのことを主張して過失割合を争ってもよいはずであるが、被告は本件事故について、Yが信号無視をしたとか、被告に過失がないという点はなにも主張しておらず、却って被告100%対原告0%の示談に応じていながら、当事者の署名欄の原告欄がワープロで記入されているのに、自分のほうのみ手書きで署名することになっているのは、不公平だなどという抗議をして署名を拒否し、示談書の返送を拒否していることが認められる。

以上の認定事実から、本件では被告の供述は信用できず、被告車の対面信号が赤であったことが容易に推認できる。(P32-33)〈改行は引用者による〉

警察官の作文か???

こんなこと書いたら裁判所や警察から睨まれるかもわからんけど、この件、はっきり言わせてもらうなら、実況見分調書の「事故状況」の説明は、警察官の後でつけた作文でしょ。それにまんまと裁判所が乗ってしまった。その可能性が高い。ぼくはそう思います。

ぼくの想像が間違いだとたいへんなことになるので、念のために近くの交番に行って、そこにいた警察官に聞いてみた。そしたら、その警察官も、最初から赤だと認めているのだったら、実況見分調書は作成しない。どっちも青だと言い張ってすぐに解決しそうにないから実況見分調書を作成するのだと、ぼくに言ってくれた。

もしぼくのほうに間違いがあるようでしたら、ご指摘をお願いします。

実況見分について

○実況見分とは?
交通事故の真相を明らかにするため、現場に臨場した捜査官が、犯罪事実を認定するための証拠資料等の収集を図り、交通事故現場及び当該現場に関係する場所、身体又は物の状況を、五官の作用で観察・実験するともに、当該事故の関係者等からの指示説明に基づいて事実を認識判断する任意捜査。
*代替性なし。

○法的根拠は?
任意捜査の一般規定である刑事訴訟法197条の「必要な取調」の一方法として行われる任意処分。

○証拠能力について
刑事訴訟法321条Ⅲ所定の検証調書の証拠能力に準ずる(最高裁昭和35年9月8日)。

後日、法廷で証拠とすることに同意(同326条)が得られないときは、作成者は、証人として喚問され、真正に作成されたものであることを証言しなければならない(同321条Ⅲ)。その際、弁護人より反対尋問を受けることになるため、推測や憶測の記載はだめ。

○事実認定に必要な特定地点
①事故当事者の進路
②被害者認知(発見)可能地点
③被害者発見地点
④危険認知地点・危険回避地点
⑤危険予防措置地点
⑥衝突地点
⑦転倒地点・停止地点

○現場指示と現場供述
現場指示は、見分すべき地点や対象物を特定するため、立会人が位置や距離関係等を指示説明すること。現場供述は、現場の状況に照らして事故当時の体験(時間的な経過等)を説明すること。

なお、双方の証拠能力の差異は、現場指示の記載は、実況見分と不可分の一体をなすものとされる。現場供述については、その部分の記載は供述証拠となり、同321条Ⅰの要件を具備しなければならないという制限をうける。したがって、実況見分調書を作成する際には、現場指示のみを記載し、その範囲を越えて「供述」に及ぶ場合は、供述調書を作成しなければならない。

「事実認定に必要な特定地点」は保険会社が過失割合を決定する際にも確認事項になる。

本記事のまとめ

実況見分調書は人身事故に限らず、物損事故でも作成される。信号青・青主張のときですぐにも決着しそうにないときがその代表的な例である。したがって、実況見分調書が作成された本件での被告は、最初、青信号だと強く主張したことが強く推認される。

それにしても、被告にも弁護士がついていたのに、何していたんだ。

〈追記〉

「実況見分調書」については、ネット上の情報として参考になるものがあった。

>普通、実況見分調書は実況見分を行った現場ですべて作られるわけではありません。後日事故の当事者である加害者と被害者を所轄署に呼んで、改めて供述調書を作成して、最終的に実況見分調書としてまとめます。

と説明してある。したがって、「実況見分調書」は、事故直後の現場臨場時にあったこと、認識できたことだけが記載されているわけでもないようである。現に、今回の対象になっている実況見分調書の「事故概要」等はワープロ書きだし、現場で作成されたものではなく、署に帰ってから作成されたことが明らかである。

なお、実況見分調書の問題点については、以下の本がたいへん参考になった。いずれ別記事で内容を紹介したい。

【17・03・21追記】
「実況見分について」を追記した。
 

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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