後遺障害における3つの基準

後遺障害には3つの賠償基準があることは、ネット検索すればすぐにみつかる情報です。被害者にとって有利なのはもちろん「裁判基準」なのですが、その「裁判基準」はどんなふうにして決められるのでしょうか。「他の基準」との比較で論じるとともに、ネットには書かれていないことにも触れてみました。

後遺障害認定の3つの基準

「裁判基準」 > 「任意保険会社基準」 > 「自賠責基準」

です。

上図に示した通り、「裁判基準」 に基づくのが一番高額であり、「自賠責基準」 は最低限の補償なので一番安い。「任意保険会社基準」は「自賠責基準」よりも若干高い。

以下に「裁判基準」「任意保険会社基準」「自賠責基準」のそれぞれの特徴をかんたんに紹介し、ネットには書かれていないその実態について書いてみました。

裁判基準

「裁判基準」は裁判官が判断するものですが、実をいうと、秀才ぞろいの裁判官であっても医学の知識があるわけでないし、それに後遺障害の認定実務に長じているわけでもありません。きわめて例外を除けば、たいていの裁判官は「よくわからん」というのが実情です。

そのため、裁判基準であっても、後遺障害の等級判断は、裁判所が独自に判断することはなく、自賠責調査事務所の判断をベースにしています。

はっきり言って交通事故は裁判所が軽視している分野なので、できれば早くすませたいというのが裁判官のホンネです。それに、医学的知識を問われるため裁判官にはチンプンカンプンなのです。そのため、後遺障害の認定は自賠責調査事務所の判断に丸投げなのがふつうなのです。

自賠責で後遺障害等級認定後の弁護士不要論についてぼそぼそとつぶやいてみる

これは弁護士さんのほうがよくご存じだと思うですが、弁護士はしょっちゅう自賠責調査事務所に「いつ頃、後遺障害の認定がされますか」などと問合せます。あまりによく問いあわせてくるため、調査事務所担当者が「すでにお知らせしてありますよ。書面で定期的に報告しているのを見てませんか」となってしまいます。

どうして弁護士がこうもちょくちょく問い合わせるのかというと、事情がありまして、次回の公判で裁判官から「後遺障害等級認定はどうなっていますか。進捗状況は?」と質問されるからです。裁判官は自分で等級認定ができないか煩わしいため、そうやってせかせるのです。

もちろん後遺障害について裁判所が独自に判断するという「タテマエ」があるし、「裁判を行えば、裁判所が後遺障害を適切に判断してくれる」 と被害者が期待することが多いのですが、ごく少数の例外を除いてそういうことがないのが実情です。

裁判所が独自に判断する率についてですが、調査事務所の方が年に数回ていどだとおっしゃっていました(本当にそんなに少ないのか私にはわかりませんが)。

交通事故被害者に対する弁護士のほうでも、自賠責の等級認定がされた後に来てくださいというのがふつうですよね。なぜかというと、弁護士も医学的知識がなく、後遺障害実務についてもあまり知らないため、こっちはこっちで自賠責調査事務所に「丸投げ」です。

本当に後遺障害に強い弁護士とのそこが相違点です。後遺障害に強い弁護士なら、等級認定前の段階からかかわろうとします。また、ときに調査事務所の結論がダメだったとしても、その後裁判で争うという道に進めないかと考えています。

後遺障害について自賠責はどこまで裁判所の判断を尊重するのかという論点があります。下記記事が参考になると思います。

自賠責と裁判所の判断が相違したとき

任意保険会社基準

後遺障害の等級について任意保険会社は自賠責の判断に原則従います。等級が不満で上方修正するということは聞いたことがありませんが、下方修正したいときは、これは裁判に訴えるしかありません。通常は、自賠責の等級認定を尊重し、自賠責基準で決められた金額に、若干の上乗せをして支払っています。

ここで注意をしておきたいのは、相手保険会社は被害者と利益相反関係にあるから、後遺障害認定を任せると妨害行為をされるとネットで言われている。

が、これは、たぶん、一般的には根拠のない都市伝説ですね。もちろん、後遺障害が認められ等級が高いほど、裁判基準で損害賠償金を請求されると、保険会社の利益を損なうことになります。それは隠しようもない事実ですが、それだからといって、妨害行為をするような悪事を働きますか。

彼らは自分の職業にプライドを持っていますから、私のこれまでの経験上そういうことはありませんでした。そういう可能性があることと、現実に実行することとではやはり違うと思います。

彼らがいちばん気にしているのは自分が担当している案件をできるだけ早く処理することです。早期に示談することなのです。等級認定がされればそれでけっこう、一件落着。そこにいちばん注意がいっています。

たしかに多くの案件を抱えているため、後遺障害認定への情熱には乏しく事務的とならざるを得ない。そういうデメリットはあるかと思います。が、それと妨害行為をするとは、やはり違うと思います。

お前は保険会社の回し者だとか、保険会社に甘いとか思われた方がもしいらっしたら、私の過去記事をみた上で判断していただきたいですね。あくまでも是々非々です。この件については過去記事でも書いたことがあります。

被害者請求のメリットとデメリット

自賠責基準

自賠責基準については労災の基準を参考にして決めています。ここの特徴は書面審査です。後遺障害診断書などの書面や画像などの医証から「形式的」に判断しています。

ネット情報だと定型書面や定型医証だけで判断されるとしているものがありますが、必ずしもそうではありません。個別の事情をまったく無視しているわけでもないらしく、もしも、後遺障害認定に影響を及ぼす個別の事実があるなら、そのことを独自の書面(たとえば「意見書」とかで)で主張することも可能です。

もとより「意見書」を出したところでそれに基づき結論が決まるわけではありませんが、調査事務所担当者は多くの案件をかかえているため、通常の調査ではとらえることができない事実を知りたがっていることは事実です。まあ、参考ていどですね。

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